トップ 差分 一覧 ソース 検索 ヘルプ PDF RSS ログイン

第4回(王国1)

 登場人物


名前 特徴
ハイダンヴュ 逆転王ハイダンヴュ。テストラシアを治める男爵。生命と行動の自由をなによりも重んじる男。長い間農家をやっていたので教養はないが、なぜか弁舌はさわやか。
サルビア 超人将軍。ハイダンヴュの養女。デイモンの血をひくため、異形の容貌と、亜人間へのとまらない好奇心を持っている。
ハマヌー 鉄の大司教。ハイダンヴュの窮地を何度も救った盟友。自分自身の運命を自ら切り開くために戦う姿勢をくずさないのは、ハイダンヴュと同じ。ジョッドがエラスティルの影響力を拡大する中、ゴラムの教えを布教している。
エステル 氷の外交官。頭脳明晰で、計算高く、感情で行動しない。エルフだからなのか、人の生き死にをあまり気にしない。それが最適と思えるときには自ら損な役回りを引き受けることもある。
ダリ― 山鮫(Montainshark)。圧倒的な生存能力で南ブ探を導く半エルフのレンジャー。政治にはかかわりたくないと言いながらも、テストラシアと妹の安全を守るためには、危険を顧みないで行動する。
ヴェテンスカップ 緑帯(Greenbelt)の魔法使い。テストラの頭脳。王室顧問としてハイダンヴュにさまざまな政治的進言を行っている。ヒルナリックと並んで、真の施政者と称されている。



2月。ネリサヴィアルは弟子のエステルを訪ねて砦へと向かった。彼女は不在だったが、そんなことには構わず、部屋まで訪れた。鍵がかかっていたが、それを難なく開けると、涼しい顔で部屋の中へ入って行った。「せっかく師匠が訪ねてきたんだから、薬の材料の一つや二つもって帰らんと」とつぶやくと、さっそく物色を始めた。一通りとるものを取り終わった後、机の上に置いてある手紙がネリサヴィアルの注意を引いた。「これは、ヴァンホールドからの手紙じゃないか。」彼はその手紙を手に取ると、「外交官としてなっとらんのう。緊急かも知れんのだから、まずは国王に読ませんと。そうだ、ワシが持ってってやろう。」と、ハイダンヴュの部屋へと向かった。

ネリサヴィアルが訪れた時、ハイダンヴュは酒を飲んでいた。最近テストラに出来たばかりの蒸留所で、最初にできた酒だった。ネリサヴィアルは軽く会釈すると、「久しぶりですね。建国式典いらいでしょうか。王様の演説は心にしみるものがありましたな。」と手紙を差し出した。

「なに、ヴェテンスカップが書いた原稿が良かっただけだよ。」ハイダンヴュは手紙を受け取ると、半分ひとり言のようにネリサヴィアルに話し出した。「妻が逝ってから丁度5年になった。その年に同じ名前の街ができ、国となったんだ。確かに、この国と国民の幸せのために誰よりも働くってのは嘘じゃないさ」

 建国記念式典


「建国記念式典は、最初はうまくいってた。ブレヴォイから来たクロックス卿も、東から来たヴァーンも、西のドレイグが送ってきた使者も、それなりにあしらってたんだ。面喰ったのはリザード・フォークのサムリーが堂々とやってきたことと、スート・スケール族のコボルドがやってきたことだな。あれは参ったよ。」

-- 外交官がヘボだからですよ。でも、うまくあしらっておられましたぞ。

「そうかい、ありがとう。でも、おかげで魔法使いのドミティアンが建国記念式典の真っ最中に仕官しにきたことをすっかり忘れてしまって、結局そのあと1か月もほったらかしにしたうえに、他の国に取られちゃったよ。」

-- 式典の最中に仕官するなんて非常識なやつは他の国で働きゃいいんですよ。

「そうかい。ところで、あの、ポーションを手を使わないで飲めるヘルメット、すごく便利だった。あんなにいいもの贈ってくれてありがとう。話をもどすけど、式典の最後にはトロル3匹が広場に襲いかかってきて、一般人が何人か無くなることになってしまった。俺もグレイヴを持って駆け付けたんだけど、危うく逆に殺されそうになる始末だったよ。ダリーが足跡をしらべてたんだけど、西から来た事しか分からなかったんだよな。」

「でもさ、結局いちばん参ったのはクロックス卿だよ。自分の娘のヒルナリックを俺の妻にして、ただでこの国へ影響力を持とうとしてるんだよ。しまいにゃ娘をたきつけて夜這までさせる始末。クロックスのようなレストヴのソード・ロードはブレヴォイの7貴族とのつながりがないから、政治的な力を持ちたくてしょうがないんだよ。」

-- もてもてですな。

「よせよ。クロックス卿の思いどうりになるのが嫌で断ったけど、若くて美人でいい娘の誘いを断るのは辛いんだぜ。無理強いされていたとはいえ、結果的に俺なんかにソデにされたヒルナリックのことを考えると、胸が痛いよ。」

 西へ


-- で、結局トロル退治に行ったんですな。

「そう。ついでに森の奥にいるというグリーンドラゴンも倒そうとしたんだけど、結局見つからなかった。代わりに、『樵が木を切ったんで日差しが強くなった』と文句を言っていたニクシーを、サルビアがかまっていたな。フェザーズなんとかトークンとかいう魔法の品で木を生やしてあげてた。」

「そうそう。テレシアという木の精にあったよ。絶世の美人だった。スタイルもいいしね。サイス・ツリーという木の化け物に命を狙われていたから助けてあげたよ。助けたらお礼につきあってって言ったんだけど、断られちゃった。もうちょっとしつこくせまったらどうにかなったかもしれないけど、お供のサテュロスっての?がじゃましやがって、うまくいかなかったんだよね。」

「さらに森の奥へ進むと、古いエルフの塔があった。そこには、むやみに足の速い化物や、エルフもどきの化物、そして、やけに肉付きのいい薄着の女がいたんだよな。このダンシング・クィーンと名乗った女、テレシアほどじゃないけど美人だったから話を聞いたんだけど、妙な踊りを始めた時から頭がぼーっとし始めて、あやうく化かされるところだったよ。幸いハマヌーヴェテンスカップが正気を保ててたから殺されることはなかったけど、危ないところだった。」

 風説と陰謀と吟遊詩人


-- そのあとテストラに帰ってきたら、あの吟遊詩人がいたわけですな。

「そのとおり。俺、実際に演説聞いたらきれてぶっ殺しちゃうかもしれないから、あえて聞かなかったんだけど、グリゴリってやつは相当俺たちの悪口を言ってたらしいじゃない?魔法をつかって民衆を惑わしてたんだって?」

-- そうでしたかな。でも、外交官に関するコメントは的を射てましたぞ。

「ま、それはともかく。すぐにとっ捕まえて『西の国から頼まれたろ』とカマかけたら、あっさり認めたよ。そういやトロルも西から来てたしな。サルビアが心を読んだら、ピタクスのシーヴズ・ギルドから頼まれたらしい。ピタクスは、俺たちを敵とみなしてるかもしれないな。」

-- 放免したときには驚きましたぞ。

「聞きたいことは全部聞いたしな。まぁ。俺たちは甘いんだよ。そこがいいところなんだけどね。」

 トロル狩り


-- そのあとどうなったんでしたっけ。

「それからもトロルの襲撃がとまらないから、結局討伐に行くことになった。森の中をかなり西のほうに行くと、トロルが古い砦を根城にしていることが分かった。これがかなり攻めにくい砦で、攻めるのに3日もかかってしまったよ。」

「初日は入り口での小競り合いで消耗してしまった。倒せたのはトロル2匹とトロル犬2匹だけだった。サルビアとダリーは外套が赤くなるほど血まみれになっていたよ。」

「2日目は砦の内部まで進んでみた。双頭のトロルが奥に見つかったので、てっきりボスだと思ったら違ったんだよ。いや、双頭のトロルも強いんだけど、本当のボスは横の道からやってきたんだ。これが死ぬほど強かった。エステルが防御魔法をかけて道をふさいでくれたからいいものの、そうでなけりゃ挟撃されて死んでたね。双頭のトロルを1匹倒したところで撤退したんだけど、後ろからファイアボールを2発も打ちこまれてあわや全滅するところだった。」

「3日目は思いっきり待ち伏せされてて、3方向から囲まれて戦うことになった。あらかじめ魔法をかけていたのでファイアボールは平気だったが、石トロルっていう守備力の高いトロルにかなりてこずった。ヴェテンスカップエステルの魔法・爆弾でほどんどのダメージを出し、俺のグレイヴでたまにダメージをだすって感じかな。」

「そのあとボスとなぐりあった。奴がヴェテンスカップのグリッター・ダストで目をやられてなければ、怖くて近づけなかったかもね。うまい具合にグレイヴが急所に入ったみたいで、あまりひどい目に会う前に倒すことができたよ。」

-- なんでトロルがテストラを襲っていたか分かったんですか?

「それがさ、トロルって再生能力があるから、倒すと即座にとどめをさしちゃったんだよね。最初は情報収集しようと思ってたんだけど、ほら、血気はやっちゃって。結局情報を聞き出す前に全部やっつけちゃった。でも、きっとピタクスが糸を引いてるんだよ。グリゴリと同じ黒幕。」



そこまで話すと、ハイダンヴュは思い出したように手紙の封を開けた。内容に素早く目を通すと、やや表情を曇らせ、椅子から立ち上がった。「いや、今日は久しぶりに訪ねてくれてありがとう。楽しかった。残念ながら仕事だ。東に新しくできたヴァンホールドの開拓地が盗賊に襲われているらしい。急いで増援を送ろう。」