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第10回(王国1)

 1. Tattleford

タッツルフォードの市役所に急ごしらえでつくられた牢獄では、先日タッツルフォードを襲撃したフォートドレルブ軍の指揮官、アメオン=トラスクの尋問が行われていた。アメオンはテストラシアでそれなりの待遇を得ることを条件に、フォートドレルブの現状について語った。
 
アメオン:
現在、フォートドレルブは混乱の極みにある。
タイガートーテム・バーバリアンの襲撃から街を守るために雇い入れた傭兵達が暴走し、街で好き放題に暴れているんだ。
しかも、それを止めるべき男爵はイカレちまって頼りにならない。国内の混乱を収めるどころか、これを機にテストラシアに攻め込もうとしている。正気を失っているとしか思えない。
今のところ、どういうわけかタイガートーテム・バーバリアンの連中が積極的に動く様子を見せないからいいものの、いつ奴らが動き出すのかは誰も分っていない。
俺は男爵の命令で仕方なくここを襲撃しただけだ。本当はこんな事したくなかった。これからはあんた達に協力するよ。
 
ヴュ公爵はアメオンの証言をもとに宮廷魔術師のヴェテンスカップと協議を行い、この件を緊急事態とみなし、自らフォートドレルブの様子を確認しに出向くことを決定した。同行者は最大限の危機を想定し、直属の親衛隊である、ヴェテンスカップハマヌーエステル、サルヴィア、ダリーに加え、道案内としてアメオン、キサンドラを連れていくこととした。
いつものごとく、公爵の留守中の権限は内務大臣兼財務大臣であるヒルナリック女史に一任された。4713AR,3月16日の事だった。
 
フォートドレルブとテストラシアの間には広大な沼沢地が広がり、大きく迂回する必要がある。ヴュ公爵は近頃領土にくみこんだ北西部の視察を兼ねて沼沢地の北部を行軍。さしたる障害もなく歩を進めた。
しかし、フォートドレルブまであと3日程の地点にさしかかった時に首都テストラから送られてきたSendingが事態を一変させた。テストラ南西の湖に浮かぶキャンドルメア塔で異変が起こったと言うのだ。ヒルナリックは自ら調査隊を率いて塔に向かうと言う。
この知らせを受けてヴュ公爵は急遽計画を変更し、最大速度でテストラに戻る事にした。しかし、事態は公爵の帰還を待ってはくれなかったのだ。

 2. Tethtra

その日、財務大臣であるヒルナリックはいつものように執務室で膨大な量の事務処理をこなしていた。既に慣れっこになってしまったとはいえ、公爵が自ら遠征に出ている間は彼女が最高責任者となる。しかも、宮廷魔術師であるヴェテンスカップやサルヴィア将軍といった重臣たちまで一緒にいなくなってしまうため、公爵遠征中のヒルナリックの忙しさはまさに殺人的になる。ヴュ公爵を呪う暇すら惜しい程だった。
そのヒルナリックの執務室のドアを慌ただしくノックする音が。急ぎの決済でも持って来たのかと思ったヒルナリックは開いていると声をかけた。しかし、開いたドアから入ってきたのは予想外の人物、宮廷魔術師であるヴェテンスカップの祖母であるメティシエであった。彼女がここテストラシアの地がシャドウプレーンと繋がりつつある事を調査中である事は、ヒルナリックも聞き及んでいた。おそらくはその関係であろう。であれば、これは容易ならざる事態が発生したと考えるべきだろう。
 
ヒルナリックの予想は当たっていた。
テストラ南西にたつキャンドルメア塔周辺に、天をつくような巨大な火柱が5本発生したのが観測されたのだ。その巨大さは想像を絶し、夕刻が迫り空が暗くなるとテストラからも観測できるほどであった。しかも、メティシエの話では塔を中心に急速にシャドウプレーンの影響が強くなっていると言う。
よりによって公爵不在の折にこのような非常事態が起こるとは。ヒルナリックは目眩がした。ヒルナリックの目から見て公爵には為政者としての欠点が多々あるが、非常事態における決断力と実行力は自分など及びもつかない。その一点に関して言えば、公爵は国民に絶大な信頼を得ていた。
とは言え、事態の緊急性は極めて高い。タッツルフォードのはるか西、フォートドレルブへの途上にある公爵の帰還までにやれる事はやっておかなければいけない。ヒルナリックはテストラに残っている重臣を呼び集め、直ちに事態解決をはかる事にした。
招集されたのは以下のメンバーであった。
まずは国防を預かるケステン=ガレス将軍。
エラスティル神殿からは市民代表でもあるジョッド司祭と聖騎士アキロス。
衛視隊からは不在のダリー隊長に代わって隊を預かる副隊長のフラッセ。
公爵の懐刀であり、諜報面を取り仕切るアーチャー。
そして、参考人としてメティシエ。
会議はすぐに終わった。そもそも議論すべき情報がほとんどないのだ。現地での調査が急務である事は確定で、後は調査隊メンバーの選出と留守中の体制を決めるだけだったからだ。ヒルナリックの要請を受けたジョッド司祭、アキロス、フラッセ、アーチャーの4人は協力を快諾し、留守をケステンに任せたヒルナリック自らが調査隊を率いることとなった。
いくら調査にウィザードが必須だったとは言え、ヴュ公爵と同じ事をしている自分が少しおかしかった。
 

 3. Tower of Candlemere

オールド・ヴェルダムら周辺住民に避難を促した後、調査隊はキャンドルメア塔がある島に上陸した。
そこはかつてヴュ公爵が訪れた時とはかなり様変わりしていた。キャンドルメアの塔は短時間の間に崩壊が進んでおり、既に上層は崩れ落ちている。しかし、最も目を引くのは塔の前の広場にたつ巨大な5本の火柱だった。火柱は概ね等間隔で円を描くように発生している。高さは見上げるほどもあり、地面から直接生じているように見えた。明らかに魔法の産物である。
逆五芒星を描くかのようなこの火柱の配置に、ジョッドは思い当たるものがあった。九層地獄の住人であるデヴィルの召喚には良くこのような魔法陣が用いられる。それを裏付けるかのようにアキロスによるDetect Evilの結果も黒であった。
ジョッドら術者達が火柱を調べている間にアーチャーは周囲の足跡を調べ、ここ最近の人の出入りを探っていた。いくらなんでもなんのきっかけもなしにこんな事が起きるとは思えない。必ずこれを引き起こした連中がいるはずだ。
アーチャーの予想は正しく、周囲には多数の人間が出入りした痕跡があった。足跡はキャンドルメア塔の基部に開いた地下への階段へと続いていた。以前、ヴュ公爵がこの塔を探索した時には発見できなかった階段である。
どうやら、この事態を引き起こした連中は塔の地下で何かを行っているようだ。詳しい話は彼らに聞くのが早いだろう。
調査隊は地下の様子を探るため、まず隠密行動に長けたアーチャーを単独で送り込むことにした。
 

 4. Underground of Candlemere

アーチャーが足音を潜めながら階段を下りていくと、その先は小部屋になっており二人の男が見張りをしていた。彼らは盗賊風の恰好をしていたが、油断している様子はなく、良く訓練されているように見て取れた。
アーチャーは少し考えた後、単独で攻撃を敢行する事にした。幸い、今のところこちらは気付かれていない。不意を突けば悲鳴を上げる間もなく2人を始末する事が可能かもしれない。少なくとも上で待機している騒々しい連中を連れてくるよりは成功の見込みがあるように思えた。
慎重に狙いをつけ、必殺の矢を放つ。だが、この敵は一筋縄ではいかなかった。直前で攻撃に気がつくと、かろうじて急所はかわし、警戒の声を上げたのだ。その声に反応し、階段の上から仲間達が駆け下りてくる足音と、隣の部屋でガチャガチャと何者かが動き始める気配がする。ち、ヘマしたか。アーチャーは舌打ちするとこれ以上厄介なことになる前にトドメの矢を打ち込んだ。
見張りの男達は難なく倒したものの、そのまま隣の部屋にいた4人の男と戦いになる。彼らもまた盗賊にしては統率がとれており、なかなかの強敵であったが、アーチャーやアキロスの敵ではなかった。しかし、そこへ強力な炎の魔法が襲いかかった。援軍として駆けつけてきた、盗賊団を率いる女司祭のFlame Strikeだ。だが、既に半数の部下をやられてしまっていた女司祭の来援は少し遅く、ジョッド司祭のチャネル・エナジーで態勢を立て直した調査団の攻撃に屈したのだった。
 
調査団はここで一旦塔外に撤退し、この女司祭からここで何をしていたか情報を得ることにした。
彼女の名はアバツィーと言い、驚くべき事に悪魔マモンの司祭であった。マモンの信徒がこんなところで何をしているのだろうか。
アバツィーはアキロスの尋問に屈せず、ヒルナリックが持ちかけた司法取引に対しては、応じた振りをして出鱈目を吹き込もうとした。幸いなことにその嘘はアーチャーが見破ったため、調査団は更生の余地なしと判断してアバツィーを処刑した。
一部より彼女に隊列の先頭を歩かせ、罠探知機代わりとしようという意見も出たが、それは非人道的という事で却下された。
 
アバツィーの情報は信用ならないものであったため、調査団はしらみつぶしに塔の地下を探索することとした。ジョッド司祭が強く主張したため、最初はアバツィーが宝物庫と言っていた部屋から調査する事となった。
宝物庫の前には頭が3つある獣のゾンビが2体待ち構えていた。元から頭が3つある獣なのか、ゾンビにした後でおぞましい改造を施されたのかは分からない。
ケルベロス・ゾンビ達は宝物庫を守るよう命令されていたようで襲いかかってきたが、アーチャーが目の覚めるような技で1体を片付けると、もう1体も程なく片付けられた。
ゾンビ達が守っていた部屋はアバツィーの言っていた通り宝物庫だったが、目ぼしいものは既に持ち去られた後のようだった。残っていた幾ばくかの宝物を接収したものの、この事態の手掛かりになりそうなものはなく、調査団はその部屋を後にした。
 
アバツィーが裏切り者を閉じ込めていると言っていた部屋を調査すると、果たして中には一人の男が捕らわれていた。残念ながらアキロスのDetect Evilの結果は黒。警戒して武装解除した上で手当てし、話を聞く事にする。
男はジャルキと名乗った。曰く、自分はピタクスの有力者、リアチェンザ家に雇われた密偵で、チルドレン・オブ・ナイトの動向を探っていたのだと。ここで活動していた連中もチルドレン・オブ・ナイトの手のものだと言う。チルドレン・オブ・ナイトと言えばヴァンパイアに牛耳られた組織という認識であったが、悪魔カルトとも繋がりがあるのだろうか。
ジャルキはここに連れられてきてすぐに密偵である事がばれ、ここに閉じ込められたため、それ以上詳しい話は知らないと言う。特に嘘をついている様子もないようだったので、解放することにした。
また、ヒルナリックはジャルキにピタクスの情報を流してもらうダブルスパイの仕事を持ちかけ、交渉は成立した。話を聞いた限りではそれほど重要な情報を得られる立場にはいないようだが、情報源は多いほどいい。
 

 5. Corridor of Flame

入口付近は捜索しきったため、調査団は更に奥に歩を進めた。先頭を行くのはローグとしての訓練も積んだアーチャー。その後ろをアキロスとフラッセが固め、ジョッドとヒルナリックは少し離れてついて行く。
しばらく進むと長い通路に出た。通路には一定間隔で穴が開いており、そこから時折ものすごい炎が噴き出している。噴き出す間隔や場所には法則性はないようで、回避するのは困難だ。
一行は周囲を調べたが炎を止める方法は見つからず、このまま進むのは非常に危険だ。そこで進み出たのはアーチャーだった。自分ならば身が軽いから、うまく炎をかわして前進することが可能だと言う。危険な賭けとなるが、他に方法がなかったためアーチャーが提案した単独偵察は採用された。
ジョッド司祭がせめてもの助けとしてResist Energyをかけた後、アーチャーは一人危険な炎の回廊へと踏み入った。一行が固唾をのんで見守る中、器用に炎を交わしながら前進していく。その姿はすぐに炎に遮られて見えなくなってしまったが、しばらくすると無事に回廊を通り抜けたという声が聞こえ、一行はほっと胸をなでおろしたのだった。
 
回廊を通り抜けた先には驚くべきものがあった。珍しいクリスタルでできた樽やパイプが複雑に組み合わさった装置が轟々と雷のような唸りを上げていたのだ。樽の中には沸騰する赤い液体が溜まっており、パイプでどこかよその場所と循環しているようだった。
良く分らないながらも、とにかく近くで調べようとアーチャーが近づくと、装置から放電が襲いかかってきた。間一髪避けたものの、まずは装置を止めなければじっくりと観察することもできないらしい。
しかも、どう見てもまともなものではない。間違いなく魔法が絡んでいるだろう。となると、自分の手には負えない。そう考えたアーチャーは大声で部屋の様子を説明し、ジョッドやヒルナリックら、魔法の知識の深いメンバーに意見を求めた。
しかし、やはり実際に目にしないと何とも言えないという結論になり、その日は一旦休んで翌日出直すことになった。
 
翌日、Resist Energyの呪文を全員にかけ、強引に回廊を突破する。幸いにもジョッド司祭による守りは非常に強力で、大きな傷を受けたものは一人もおらず、僅かに傷を負った者も、Cure Wandの魔力ですぐに回復した。
ヒルナリックとジョッドは装置をしげしげと観察したが、やはり詳しい事は分らない。何らかの魔法装置である事と、現在活動中であることぐらいだ。テストラからネリサヴィエルやメティシエを連れてくれば、より詳しい事実が判明するかもしれないが、事態はそれを待ってくれないように思えた。調査団は装置の陰に隠されていた奥への扉を発見し、更に先を探索することにしたのだった。
 

 6. Inner Part of Candlemere

扉を抜け、通路をしばらく進むと円形の部屋に出た。ここで目につくのは中央にあるプールであろう。プールの水はかなり高温の様で、部屋はプールから立ち上る蒸気で視界が悪い。また、壁や天井の一部を先ほどの魔法装置と同じようなクリスタル製のパイプがはしっている。先ほどの部屋と繋がっているのだろうか。
プールの水は魔力を帯びており、Enchantの気配を感じたが、それ以上詳しい事は分らなかった。先へと続く扉を発見したので、更に先を進む。
 
扉の先は緩やかなカーブを描く通路となっており、ところどころに扉が見える。一行はアーチャーを先頭に慎重に扉を調べながら進んだ。
途中でアンデッドやヒュージ・ウォーター・エレメンタルの襲撃を受けたが、アーチャー、アキロス、フラッセの活躍により撃破。順調に探索を続ける。
アンデッドが住んでいたと思しき部屋では彼のノートを発見したが、残念ながら内容は良く分らなかった。唯一つわかったのはここがネシアン・スパイラルと呼ばれる地であると言う事だ。確かにその名の通り緩いカーブを描く通路はマップに書き表してみると大きな円を形作っているようだった。その要所要所に最初に見たのと同じプールが設置されている。その数は5か所。地上に出現した火柱と同じ数である。
あるいは、このプールが火柱と連動しているのではないかという推測もあったが、今さら再び炎の回廊を戻って確かめるわけにもいかない。残された道は前進あるのみだ。
 

 7. City of Illusions

5個目のプールを通り過ぎ、更に奥へと侵入を果たす。そこで一行を待ちうけていたのは、予想外の光景だった。
地下だと言うのに突然いずこかの街の雑踏につながっていたのだ。しかもその街の住人達は人間ではない。恐るべき悪魔達だったのだ。あまりの光景に呆然とする一行の目に更に不可思議なものが飛び込んできた。それは空中に浮かぶ長机と椅子だ。街路に唐突に浮かぶそれは何とも言えない非現実感を漂わせていた。
しかも、その椅子には4体の怪物が座っていた。豪奢な服を着たそれもまた人ではなく、鋭い牙や角、そして異形の翼を備えていた。彼らもまた、悪魔なのだろうか。こちらに気づいていないと言う事もないだろうが、関心を持っているようでもない。一旦後退して対応策を協議することになった。
 
ここで調査団の意見は二つに割れた。慎重派のヒルナリックはここでの戦いを避け、ヴュ公爵の帰還を待とうと主張し、ジョッド司祭は悪魔らしき怪物を放置することなどできないと主張した。ジョッド、アキロスは最悪二人だけでも戦うと譲らなかったため、勝ち目がなさそうであればすぐに撤退するという条件でヒルナリックが譲歩した。
こうして戦いに挑んだ調査団だったが、結果的にはジョッド司祭の主張が正しかった。怪物たちは実はただのガーゴイルであり、難なく倒されたのだ。また周囲に見えた悪魔たちの街もただの幻影である事が判明した。
 
更に探索を進めた調査団を待っていたのは奇妙な光景の連続だった。
最初の部屋には溶けた黄金のプールと腹に傷のある大きな悪魔のステンドグラスがあった。プールは幻影だったが、ステンドグラスは隠し扉になっており、下へ階段が隠されていた。階段はカーブを描きながら下りていく。なるほど、名前の通り螺旋構造の迷宮になっているのだろう。
 
次の部屋はどことも知れぬ荒涼たる砂漠。空には見た事もない巨大な構造物が浮かんでいるところを見れば、ここも物質界とは異なる場所の風景なのであろう。鋭いとげの生えた藪から飛び出してきた4本足の鳥に似た怪物、アケイライの襲撃を受けたが、これも問題なく撃破。アケイライと言えば本来は地獄などに住む異界の怪物であるが、なぜこんなところにいるのだろうか。
 
次に訪れた部屋はうって変わってどこかの鉱山の内部のようだった。ここもまたイリュージョンのようだ。
この部屋にはビーヒアが巣食っており、無数の足でかきむしられたアキロスが深手を負ったが、ジョッド司祭の癒しが間に合ったおかげで事なきを得た。
 
次の部屋は再び広く見える。一見ごく普通の森に見えるが、そこかしこに生えている樹はいずれも金属製だ。ここもまたどこか別の次元界の光景をイリュージョンで映し出しているらしい。
この部屋で待ち構えていたのは一体のミノタウロスだった。ただし、その体は炎に包まれており、明らかに通常のミノタウロスとは異なる。炎のブレスを吐いて攻撃してきたが、炎の回廊を突破するためにかけていたResist Energyが功を奏し、深手を負ったものはいなかった。程なくミノタウロスは倒れ、一行は次の部屋へと向かった。
 

 8. Gurdian of the Candlemere

そこは久しぶりに普通の部屋だった。部屋の中央には小ぶりのラウンドテーブルがあり、そこに一人の人影が座っていた。だが、その人影もまた普通の人間とは異なっていた。一見すると金属鎧を着た人間にも見えるが、その鋼の肌は彼自身のものだ。上方次元界に住むというイネヴァタブルと見える。
イネヴァタブルは部屋に入ってきた調査団を見ると一言、「契約書は持ってきたか」と尋ねた。何の事か分らなかったので、正直に持っていないと答えると、突如態度を一変させ、こちらへと襲いかかってきた。やむを得ず迎え撃つ調査団であった。
イネヴァタブルは大変な強敵だった。Vamplic Touchの疑似呪文能力を用いて攻撃と回復を同時に行う事ができるうえ、強力な秩序のオーラに守られた体は、混沌の力を宿した武器でないとほとんど傷つけることができないのだ。そのうえ自己修復機能まで備えているのだから始末に負えない。
ここまで強力な弓の技で敵を倒してきたアーチャーもこのオーラには有効な手立てがない。このままではじり貧だ。
その時、イネヴァタブルを強力な一撃が撃ちすえた。フラッセの一撃だ。その攻撃はイネヴァタブルの防御を打ち破り深手を与えている。なぜならば、彼の一族が受け継いできた剣には自由を愛するエルフの魂、すなわち混沌の力が宿っているからだ。剣に宿る混沌のオーラが秩序のオーラを打ち破り、その守りを無効化していた。
フラッセはメイガスの十八番ともいえる剣と魔術のコンビネーションでイネヴァタブルを攻め立てる。残り全員の援護の甲斐もあって、ようやくこの強敵を滅ぼすことに成功したのだった。
とは言え、こちらも満身創痍。呪文も使い果たしたため、これ以上の探索は危険と判断した調査団は一旦休憩して明日続きを探索することとした。
 

 9. Center of the Candlemere

イネヴァタブルがいた部屋の隣は図書室になっており、一人のメデューサが守っていた。このメデューサはソーサラー能力も有しており、Displacementで守りを固めてきたが、幸いなことに誰一人石になる事もなく倒す事が出来た。
 
一行はいよいよキャンドルメア塔の地下迷宮、その最深部に到達しようとしていた。
そこはいかにも奇妙な部屋であった。部屋には魔法陣が描かれ、その上に大きな金属製の檻が浮かんでいる。檻は壁から伸びた7本の鎖で支えられているようだ。
檻の中には何かのクリーチャーがいるようだが、赤い炎のようなもので檻全体が満たされているため、はっきりとは姿が見えない。あれはいったい何者なのだろうか。
非常に危険な雰囲気だが、とにかく状況を把握しなければ始まらない。意を決して檻の中のクリーチャーに声をかけてみると果たして返事があった。天上語だ。
その言葉によると、このクリーチャーは天使で、邪悪なカルトに捕まってここに閉じ込められているらしい。何とか檻を破壊して解放して欲しいと懇願してくる。
この言葉を信じて良いものだろうか。まずはアキロスのDetect Evilで……と考えている間に、性急なアキロスはさっさと檻を破壊しようと動いていた。慌ててアキロスを止めようとした他のメンバーだったが、既に時遅し。なんとアキロスの敵意を察知した檻自身が襲いかかってきたのだ。
檻は魔法で空中に浮かび、支えかと思っていた鎖を振り回してこちらを絡め取ろうとしてくる。また、その鋼鉄製の体は頑強で、刃ではほとんど傷がつかない。それでもアーチャーの攻撃が上手く接合部に命中し、要を失った檻は崩壊した。
 
檻が崩壊すると部屋に歓喜の声が満ちた。数百年ぶりの自由を喜ぶ声だった。檻に満ちていた赤い炎が噴き散らされ、捕らわれていたモノの姿があらわになる。
真っ赤な鱗におおわれた巨体。二本の鋭い角。一対の黒い翼に、とげの生えた尻尾。その姿は途中のステンドグラスに描かれていた悪魔の姿にそっくりだった。伝説に語られる強大な地獄の悪魔、ピットフィーンドだ。
通常ならば、調査団のかなう相手ではない。だが、今この時、ピットフィーンドはひどく弱っているようだった。長い長い封印の時が射し物大悪魔の力をもそぎ落としたのであろうか。今をおいてこの悪魔を倒す機会はない。この場にいた誰もが直感した。そして今倒さなければ、この悪魔がこの後何をするのか分らない。ひょっとしたらこのまま地獄に変えるのかもしれないが、あるいは彼らの愛する国、テストラシアに大いなる災いをもたらすかもしれないのだ。
こうして悲壮な覚悟を持って戦いは開始された。
ひどく弱っているとはいえ、ピットフィーンドは恐ろしい相手であった。いまだ封印の影響が残っているのか、その動きは鈍いものの、その怪力から繰り出される攻撃は易々とアキロスとフラッセをなぎ倒した。呪文もほとんど効かず、戦士達が必死に繰り出す攻撃も超常的な回復力により一瞬にして治ってしまう。やはり無謀な挑戦だったのか。一行の心に僅かな絶望が忍び寄った。
その時、ヒルナリックの脳裏にかつて下方次元界について学んだ時に聞いた言葉が浮かんだ。
下方次元界の住人の中でも強力な存在は悪の力で守られている。彼らを倒すには善の力が宿った武器が有効だ
一縷の望みを込めてそれを告げると、得たりと応えるものがいた。ジョッドである。ジョッドはエラスティルに祈りを捧げ、アーチャーの弓に善の力を宿した。既に、アキロス、フラッセは倒れている。これが最後の希望となるだろう。
果たして天は味方した。善の力の宿ったアーチャーの矢はピットフィーンドの防御を貫通し、見事に急所に突き立ったのだ。ピットフィーンドはこんな下等な生命体に自分が破れる事が信じられないという顔でしばらくたっていたが、やがてどうと倒れた。見事な勝利だった。
 
ピットフィーンドが倒れると同時にこの地全体に漂っていた邪悪な気配は消え去った。轟音を発していたクリスタルの装置や炎の回廊も動作を止めており、地上の火柱も消滅していた。
その後の調査で分かった事だが、このキャンドルメア塔あらためネシアン・スパイラルは地下に封じたピットフィーンドの魔力を吸い取って邪悪なエネルギーに変換し、様々な儀式に利用するために作られた大がかりな魔法装置であった。
チルドレン・オブ・ナイトはネシアン・スパイラルを利用してシャドウ・プレーンとマテリアル・プレーンの繋がりを強くする儀式を行い、そして残念なことにその儀式は完了してしまっているらしい事が判明した。メティシエによれば、この地を覆っていた地獄由来の邪悪な気配はピットフィーンドを倒した事で消え去ったが、強まったシャドウ・プレーンの気配は元に戻っていないという事だ。事態は予断を許さない。
 
とは言え、エネルギー源であったピットフィーンドがいなくなった今、これ以上ネシアン・スパイラルを悪事に利用される事はないだろう。シャドウ・プレーンに関する対策は今後も継続しなければならないとはいえ、一旦は事態は収束したとしてテストラシア全土に布令が出され、迅速な対応に国民は安堵したのだった。
 
こうしてヴュ公爵不在の中で非常事態に沈着に対応し、的確な対応を行った調査団の活躍は各国で評価され、これまでテストラシアをヴュ公爵のワンマン国家と侮っていた諸国はその認識を改める必要性に迫られたのだった。

 おまけ - 中の人