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第17回(王国1)

 1.これまでのあらすじ


デズナ夢派の新派教祖、リリーの「夢の宴」により、テストラシア住民は「食事を取らなければ生きていけない」という人間の宿命から自由になった。ヒルナリックの発案により、宗教・軍事国家へと変貌を遂げたテストラシアは、しかし危うい弱点をかかえていた。もしリリーがいなくなってしまったらどうすればいいのか?

これを解決するために、南ブ探のメンバーは、リンデリクの「ハロウ・デック」を引くこととした。この強力な魔法のカードは、引いたものに強力な力や、運が悪ければ災厄を与えるものなのだ。皆が望んでいたのは、リンデリクにリリーと同じ能力を与えること。これさえできれば、当面リリーに頼り切った体制は緩和される。

残念ながら、結果はうまくいかなかった。リンデリクに取りついていた悪魔がいなくなるという嬉しい効果はあったものの、リンデリクは「夢の宴」の力を身につけることができなかった。それどころか、ハイダンヴュは性格が邪悪になり、リンデリクの代わりにヒルナリックに悪魔がついてしまった。

ヴュとヒルナリックは、王国内での地位を利用し、恐るべき計画を立てる。それは、臣下をアンデッドにし意のままに操ろうというものだった。これに対して、南ブ探のメンバーは打つ手がない。いったいどうやって状況の打開を図ればいいのか。

 2. 夢のお告げ


サルビアは、荒縄で縛り上げられたハイダンヴュを見下ろしていた。ヴュは、当惑した表情でサルビアを見上げた。「これは一体何の真似なんだ?」のどの奥から絞るような声を吐き出した。ヴェテンスカップが大きな黒い帽子を手にしながら、ヴュに近づく。サルビアに軽く目をやると、その帽子をヴュにかぶせた。ヴュの目が一瞬、大きく見開かれた。しかしまた、すぐに睨むように細くなった。サルビアは跪いてヴュの目を見る。そしてこうささやいた。「無礼な仕打ちと承知しております。すぐに対処します。何なりとお命じください。」その場にいた、ヴェテンスカップハマヌーもそれに合わせて「お命じください」と復唱した。ヴュの唇が、わずかに動いた。

その刹那、ヴュが急に立ち上がった。今は縄で縛られてはいない。なぜか先程とは異なり、鎧を着ている。両手には、なぜか大きな剣を携えている。ヴュは天井の方向を睨みつけた。サルビアがその方向に目を向けると、そこには天をつくような巨大な女性が立っていた。不思議なことに、場所も今までと異なっている。テストラの城にいたはずなのに、ここは、イバラでできた城のようだ。

やがてヴュは、雄叫びを上げながら巨大な女性に切りかかった。しかし、全く効き目がない。女性の口元の両端がわずかに持ち上がる。笑っているのか、快感をこらえているのか、判断のつかない表情だった。サルビアは、次に何をすればいいのか分からないまま、ヴュが死んで行くのを見つめていた。

「....!」

何かの物音で、サルビアは目を覚ました。ここはテストラの城、自分の部屋の寝所だった。夢か。一瞬ほっとしたが、あまりの不吉な内容に、顔のこわばりがすぐに取れなかった。心臓をだれかに握られているような、いやな感じだった。そうだ、王様の様子を見てこよう、念のために。サルビアはベッドを抜け出すと、武器を携えて部屋を出て行った。

 3. 風の暗殺者


何かの物音で、ハイダンヴュは目を覚ました。ここはテストラの城、自分の部屋の寝所だった。月明かりの中、ぼんやりと両手に鎌を持った男が立っているのが分かった。頭はまるい仮面で覆われている。昆虫のような目が2つついていた。「エステルだな。お前の風の称号は俺がもらいうける」男はそういうと、上半身を前後に揺らし始めた。その姿は、両手の鎌とあいまって、カマキリのように見える。

「ちょっと待った!」ヴュはそれを片手で制すと、「人違いだよ。エステルのところなら、俺が案内するからさ」とにんまり笑った。ベッド横に置いてあったグレイヴをひっつかむと、暗殺者の肩を軽く叩いた。「よく来てくれたね、歓迎するよ。すぐそこだから」と早足で駆けだした。

 4. 味方の味方は敵


ダリーは、いつもの夜間パトロールを行っていた。大臣という地位ではあったが、テストラのような小国では、優秀なものであればあるほどハードワークを要求されるのだ。城内警備の最終責任は、ダリーにあった。

すると、前方から2名の人影が見えた。一瞬表情がこわばったが、そのうちの一人がヴュであることを確認して、ダリーは声をかけた。「王様、こんな夜中にどうしたんですか」

ヴュは、「いや、エステルにお客様が来たから、ご案内してるんだよ。なんでも、その、わけありってヤツらしくてさ。外交上のアレらしいのよ。」と、仮面の男を親指で指しながら言った。ダリーは、本能的に胡散臭さを感じながらも、王様と表だって対立することもできないため、エステルのために時間を稼ぐことにした。「もう夜も遅いですし、明朝にならないのですか?」やや大きめの声で問いただす。ヴュがエステルの部屋へ向かうのをやめないため、追いすがるようにしてついて行った。「それがね、エステルがこの時間だって指定したらしいんだよね。ほら、外交上のね、アレよ。」一体どれなのだと言いたかったが、それを飲み込んだ。小走りのヴュを追い抜き、せめてエステルの部屋の扉をノックしようと拳を振り上げたところ、ヴュの太い腕がそれを制止した。「なんでも、合言葉があるらしいんだよ。ヤツに任せとけって。」

仮面の男が扉を開けようとしたところ、中にエステルが待ち構えていて男に手製の薬瓶を投げつけた。薬瓶は、大きな音を立てながら炸裂する。たまらず男が鎌を取りだしたところ、ダリーが中に割って入った。「曲者だ!」大声で叫ぶダリー。それにかぶせるように、「エステルが乱心した!」とヴュが叫んだ。

2対2で始まった戦闘だったが、やがてサルビアが参加した。とはいえ、ハイダンヴュに切りつけるわけにもいかず、戦況は芳しくなかった。そうこうするうちに、ヴェテンスカップハマヌー、ヒルナリックが駆けつけてきた。これでどうにかなる、と安心したダリーとサルビアだったが、ヒルナリックが唱えた「神への冒涜」の呪文に驚愕する。これは、善なる心を持つ者の体を縛り付ける恐ろしい呪文なのだ。エステルは、この呪文の影響を受けているうちに、仮面の男に殺されてしまった。

ハマヌーの回復魔法で動きを取り戻したダリーとサルビアは、仮面の男を切り殺し、ヴュを峰打ちで気絶させた。ダリーは、ヒルナリックをも倒してしまう。

城の廊下に倒れこんだヒルナリックの細い体が、小刻みに震えると、のどの奥が大きく膨らんでいった。そして口を大きく開くと、中から虫のようなものが這いずり出してきた。虫の大きさは、最終的には象くらいまでに膨れ上がった。とてもヒルナリックの小さな体の中に入っていたことが信じられない。虫の胴体は蜂の腹のような楕円形で、頭の部分に半分熔けたような人の顔が3つついていた。胴体には巨大な触手が生えていて、それがムチのように、動くたびに空気を切り裂くような音を立てていた。これが、ヒルナリックに取りついていた悪魔の正体だった。

悪魔は強かったが、ダリーとサルビアにやがて倒されてしまった。

 5. 戦いが終わって


サルビアは、荒縄で縛り上げられたハイダンヴュを見下ろしていた。ヴュは、当惑した表情でサルビアを見上げた。「これは一体何の真似なんだ?」のどの奥から絞るような声を吐き出した。あれ?これって何だか覚えがあるような。サルビアは先ほど見た夢のことをヴェテンスカップに相談した。すると、ヴェテンスカップの目がサルビアの帽子に釘付けになった。

注釈)サルビアの帽子は、「性格反転」の呪いがかかった、精神支配魔法の帽子だったのでした。みんな忘れていたけどね。急に思い出しました。(DM注:みんな忘れていたのでは無くて、みんな知りません。これはかぶったときに性格反転が発動し、さらにそれに成功したとしてもSpのSuggestionを使うともう一度反転が発動するという帽子だったのです。)

嫌がるサルビアを押さえつけ、無理やり帽子を脱がすと、呪いの効果がなくなったサルビアも、ようやく事情が飲み込めたように落ち着きを取り戻した。

ヴェテンスカップが大きな黒い帽子を手にしながら、ヴュに近づく。サルビアに軽く目をやると、その帽子をヴュにかぶせた。ヴュの目が一瞬、大きく見開かれた。しかしまた、すぐに睨むように細くなった。サルビアは跪いてヴュの目を見る。そしてこうささやいた。「無礼な仕打ちと承知しております。すぐに対処します。何なりとお命じください。」その場にいた、ヴェテンスカップハマヌーもそれに合わせて「お命じください」と復唱した。ヴュの唇が、わずかに動いた。「この縄を解け。」

ヴュの帽子が精神支配の呪文をサルビアにかけた。サルビアはそれに抵抗する。それと同時に、帽子の呪いがヴュの性格を反転させようとする。そしてヴュがそれに抵抗をする。これを何度か繰り返すうちに、帽子呪いがヴュの抵抗を押し切って、性格を邪悪から善へ変えてしまった。こうしてヴュの性格は再び善に戻ったのだ。ただし、ヴュはこの帽子を脱ぐことは決して出来なくなった。

次の日になって、ハマヌーエステルを死からこの世に呼び戻した。ヒルナリックにも同じ呪文を試みるが、ヒルナリックの魂の同意を得られず、失敗した。納得のいかないヴュは、ハマヌーに「死者と会話をする」呪文を唱えさせ、ヒルナリックの真意を問うこととした。

私がテストラシアに出来ることは、もうないと思います。それに、人の理に背いてまでしたいこともありません。では、みなさんお元気で。


ヒルナリックは、思いのほかそっけなかった。これは魂レベルで説得をしないと現世に戻ってくれそうにない。ハマヌーは、ヴュにかける言葉がなかった。

 6. ラッシュ・ライトの戦い

それから数日して、リヴァー・キングダムのピタックス王、アイロヴェティからの使者がテストラに訪れた。それによると、ピタックスの近隣の国から代表を集めて、ラッシュ・ライト村で競技大会を開くので、参加しないかという誘いだった。ピタックスにかねてから興味があったヴュは、この申し出を受けることにした。参加者は例によって、南ブ探のメンバー全員。フォート・ドレルヴからピタックス領内のラッシュ・ライト村までは馬で数日の距離だった。

ピタックス王、アイロヴェティは、精悍な顔つきをしており、異国情緒にあふれた服装を身に纏っていた。噂によれば、昔は冒険者をしていたらしい。そういう意味では、ヴュと共通するものがあるのかもしれない。

競技大会の内容は、弓、斧、ランス等の技量を競うものだったが、ピタックスのヴィラモアという偉丈夫が次々に優勝してしまった。主催者側に有利なルールが多少あったにせよ、ヴィラモアの武勇は明らかに群を抜いていた。

大会の後の宴が終わり、帰りの準備をしていると、から魔法で連絡が入った。それによると、フォート・ドレルヴに向けて、ピタックスから軍隊が進行しているということだった。

 7.フォート・ドレルヴの戦い

テレポートでフォート・ドレルヴに戻ると、ただちに兵を率いてピタックス軍を迎え撃つことにした。ヴュはクリスタル騎士団を、エステルは爆弾兵を、ハマヌーは神官兵を、サルビアは弓兵を、ダリーはテストラシア正規兵を、ヴェテンスカップは魔術師隊をそれぞれ率いた。
ダリーの正規兵が敵の主力を、サルビアの弓兵がワイヴァーン部隊を食い止めている間、エステルとヴュが敵を削るという戦略で、ピタックス軍はすぐに劣勢に陥った。こうなれば、もはやテストラシア軍に負けはありない。若干の犠牲はあったものの、ほとんどの兵を失うことなくピタックス軍を壊滅させてしまった。
敵兵を何人かとらえて尋問してみたところ、やはりピタックス軍がフォート・ドレルヴへの侵攻を行っていることが分かった。今回は先遣隊のようで、やがて敵の本隊が襲ってくるようだ。
敵の機先を制して、フォート・ドレルヴから軍隊を派遣してはという意見もあったが、ヴュは全面戦争には消極的だった。

 8.白薔薇修道院の戦い

捉えた敵兵の中に、ピタックスへ派遣したスパイが紛れ込んでいたとアーチャーが報告してきた。このスパイによると、ピタックスは大量殺戮兵器なるものを開発したらしく、その研究所が白薔薇修道院というところにあるらしい。これは、流れを変えるチャンスかもしれないと、ヴュは南ブ探のメンバーを率いて白薔薇修道院へと向かった。
修道院は小高い丘の上にあった。ヴェテンスカップによれば、この修道院は上質のワインを生産していたことで有名だったらしい。今は使われておらず、修道院の建物は膝まである雑草のなかにひっそりとたたずんでいた。
防御魔法を一通りかけると、南ブ探の一行は修道院の中に入って行った。果たして、中には姿を消す呪文をかけたピタックスの兵が待ち構えていた。ここは、百戦錬磨のダリーが敵の攻撃をかわしているうちに、ヴュがグレイヴで敵の頭を切り飛ばしていくという戦略で圧倒した。
敵の指揮官はガエタネというネズミ人間だった。勝ち目がないと悟ると、あっという間に降参し、白薔薇修道院には大量殺戮兵器などはなく、単にテストラシアに対する誤情報を流す作戦の一つだったことを白状した。なんとも、込み入った割には効果の少ない作戦ではないか。ヴェテンスカップはそれをあきれて聞いていた。
ヴュはガエタネを許した後、修道院の他の施設についても念のため調査していくことにした。ガエタネが本当のことをすべて話したとは限らないのだ。結果、大量殺戮兵器は本当にここにないことが分かった。代わりに、火の玉(ウィルオーウィスプ)や老人の幽霊がいて襲ってきたが、エステルが問題なく退治してしまった。

 9.全面戦争へ

その後、なんとか全面戦争を回避しようとピタックス周辺への偵察を試みるが、行軍を準備している敵兵が多すぎてうまくいかない。中には、マストドンに跨ったヒル・ジャイアントの小隊までもがいた。南ブ探だけでは、多勢に無勢、とても対処できるものではなかった。ヴュは、半ばあきらめたようにフォート・ドレルヴへの帰還を指示した。このままでは、全面戦争は避けられない。それは、テストラシアの国民の血が流されることを意味していた。