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第12回(王国1)

 1.これまでのあらすじ


ストールンランドの西方,スロウと呼ばれる沼がちの土地に昔から住んでいたタイガー・ロード・バーバリアンの一族がいた。彼らはアーマーグという鬼神のように強かった戦士の末裔だと自称しており、彼ら自身も歴戦の戦士に負けないつわものぞろいだった。
ここへ、開拓のお触れでやってきたバロン・ハニス・ドレルヴは、野蛮な隣人を嫌い武力でこれを追い払った。

しかし、隣国ピタックスの助力を得て、タイガー・ロード・バーバリアン達はフォート・ドレルヴに逆襲にやってきた。ドレルヴは陥ち、バーバリアン達は蹂躙と略奪を始めようとしたが、ドレルヴを支配下に置きたかったピタックスに邪魔される。怒った彼等は、貴族の娘達を人質に取り、自分たちの集落へと引き下がるのだった。

4713AR2月、バーバリアンを加えたピタックスの軍勢が、トロール数匹との連合軍を率いてテストラシアに進軍した。フォート・ドレルヴの騎士団長の娘、キサンドラからこの情報を入手したハイダンヴュは、臣下の精鋭たちとタツル・フォードで迎え撃った。戦闘ははげしかったが、ヴュはからくもこれに勝利した。フォート・ドレルヴの惨状をきかされたヴュは、自らフォート・ドレルヴに潜入工作を行うことを決断した。

フォート・ドレルヴは国として機能していなかった。ドレルヴ男爵の妻、パヴェッタと接触したヴュは、男爵がクインテッサという愛人にたぶらかされており、政治のことに興味を失っていると聞かされた。クインテッサの兄イメッカスとともに、男爵の目を覚まさせようとするヴュであったが、激しい抵抗を受けることになる。また、パヴェッタとイメッカスが、男爵およびヴュの殺害、それによる両国王位の簒奪をたくらんでいたため、戦闘は混乱を極めた。結局、ドレルヴ男爵とクインテッサは死に、イメッカスは逃亡してしまった。

ヴュは、フォート・ドレルヴからピタックスの傭兵達を追い出すと、表向きには「ドレルヴはバーバリアンと勇敢に戦って死んだ」ことにした。また、フォート・ドレルヴをどさくさにまぎれて占領したようにみられないよう、一旦タツルフォードまで引き上げた。このとき、パヴェッタを保護の名目で連行していった。彼女はヴュに必死に取り入ろうとしたが、それに耳を貸すヴュではなかった。

4713AR5月、フォート・ドレルヴの暫定リーダーであるロード・ナメスティは,自分の娘を含む4人の貴族の娘達が捕らわれていることをヴュに明かす。女性が捕らわれていると聞いて一気にやる気を出し、その人相などを聞き始めたヴュの横で,フォート・ドレルヴのテストラ併合にあたって貴族の後押しを得る絶好の機会であろうと考えるヴェテンスカップの姿があった....。

 2. タツルフォード(1)

財務大臣のヒルナリックは、大量の書類を前にして額に指をあてていた。ずいぶん長い間事務作業を行っているのだが、いつまでたってもなくならないように見えた。次から次へと新しい案件が飛び込んでくるのだ。もちろん、パヴェッタという隣の国の王妃を自国内に事実上監禁しているわけだから、レストヴの貴族達から干渉されるのは分かる。また、フォート・ドレルヴの難民たちに援助が必要なことも分かる。来月にはテストラに新区域ができるから、その準備が大変なのも我慢できる。我慢できないのは、それらの重要な仕事をほったらかしにして、国王自ら、しかも重臣の大部分を率いて、タイガー・ロード・バーバリアンから人質の娘たちを取り返しに行くことだった。

ヒルナリックは昨日の会議で、テストラ守備隊長のケステンや、実力行使部隊のアーチャーに向かわせればよいと進言した。一方のヴュは、フォートドレルヴの貴族に貸しをつくるには、自ら任にあたるのが一番だといってきかなかった。また、ケステンやアーチャーでは任務失敗の可能性もあるという。人質の娘のうち一人がたいへんな美人であることを聞いていたヒルナリックは、そのことについても言及してみた。単に美人にいいところをみせたいだけなのではないかと。ヴュはさんざん言い訳をしていたが、やがて、「なんだよ、若い美人を助けにいくのがそんなに気に食わないのか?」と返してきた。

注釈)ハイダンヴュの中の人は、キャラクター・ポイントを使ってサイコロの振り直しをさせてまで、この娘のカリスマ強化をしていました。努力のかいあって、カリスマは18に。

テーブルを囲んでいた重臣達の視線が自分に集まるのを見て、ヒルナリックは気がついた。この会話の流れでは、まるで彼女が嫉妬しているよう聞こえるのだ。皆が考えていることを想像して、自分の顔が赤くなっていくのが見なくても分かった。しかたがなく下を向いて、「もう、勝手にしてください」と言ったところ、後はヴュが思うままに会議を取り仕切ってしまった。

ヒルナリックは額に当てていた指をはずした。小さくため息をついて、首を小さく横に振ると、目の前にある大量の書類に意識を集中させていった。そもそもヴュを説得できると思うのが間違いなのかもしれない、彼はいつもそうなのだ。今回だけ不機嫌になる理由なんかない。そう自分に言い聞かせた。

 3. タツルフォード(2)


タツルフォードの小さな小屋は、急ごしらえの謁見の間といったものだった。この小屋の中で、ヴュは、サルビアハマヌーが呪文などで集めてきた情報に目を通していた。

娘たちはまだ生きている。おそらく、フォートドレルヴの北西、アーマーグの墓所にいるのだろう

美人の娘はリンデリクという名前で、生まれつき目が白く、遠くのものが見えないらしい。

敵は屈強で手ごわい。武器をたたきつけ合う激しい戦いになるだろう。

いくつかの試練を乗り越えると、呪われた女と対峙することになるだろう。

敵を倒すには、ただただ力強くなければならない

北の方には、筒状の武器を持った巨人がいるらしい


考えてもよく分からない。ヴュはそう判断すると、椅子から立ち上がった。すると、いつの間に小屋の中に入ってきたのか、宮廷魔法使いのヴェテンスカップが立っているのが目に入った。彼は、山のような仕事を残して出立することが、ヒルナリックに気の毒ではないかと訴えに来たのだ。それに対して、ヴュは、頭をかきながらこう言った。「俺はできないことはやらせないよ。あいつが有能だからいけないんだ。」

ヴェテンスカップは、その返事ががヴュのいい加減さからくるものなのか、ヒルナリックに対する信頼の表れからくるものなのか、判断がつきかねていたが、やがて小さくうなづいた。

 4. ファラズマの祠

将軍のサルビア、外務大臣のエステル、警備隊長のダリー、大神官のハマヌー、そしてヴェテンスカップを引き連れ、ヴュはタツルフォードから北東へ数日向かった。ワイバーン橋を渡って、西へと行軍したところ、廃墟になった村跡にたどりついた。建物はまだそう汚れていないので、何カ月か前まで人が住んでいたように見えるが、今は誰もいない。一瞬アリカヒルやヴァンホールドのことが脳裏をよぎったが、どうやら少し様子が違うようだ。

結局、この村で一晩過ごすことになった。

夜中見張りをしていたサルビアが、ファラズマの祠と、そこから地下へと続くらせん階段への入り口を発見した。一緒に見張りをしていたダリーとともに中に入ってみたところ、奥へと続く地下道があることが分かった。慎重に進むと、机がある小さな部屋に行きついた。机の上には、羊皮紙が重なり合うように置いてある。秘術使いのサルビアが読んでみると、アビサルで書かれた「シャドウの生成法」についての研究であることが分かった。シャドウは恐ろしい敵だ。この先を進むのは危険だと判断し、二人は地上へ戻って行った。

ダリーが他の全員を起こして祠のことを報告した。ヴュは朝を待って地下の探索を行うこととした。夜が明けて、地下をさらに奥へと進んでいくと、30分ほど歩いたところで、丸い石柱が天井を支えている広い部屋へと行き当たった。部屋の中を調べているうちに、柱の影に潜んでいたシャドウと戦闘になったが、エステルサルビア、ヴュの強力な攻撃で、ほどなく倒してしまった。さらに部屋の奥には、暗闇の呪文がかかった部屋があり、その中に干からびた蛮族の死体が2体椅子に座っていた。先ほどのシャドウは、この2人のなれの果てなのだろうか。それを確かめるすべがないため、一行はここを後にした。

 5. バーバリアンの村

丘陵地帯をさらに西へと向かった。林を抜けると、川を挟んで向こう側に小さな集落が見えた。ダリーが一行を制して身を隠すように指示したが、そのかいもなく叫び声が集落のほうから聞こえてきた。すぐに、手斧を持った屈強な戦士たちが川辺に現れる。何やら大声で叫んでいるが、ヴュ達には分からない言葉であった。ヴェテンスカップが翻訳の呪文を唱えて、人質に取った娘たちを返すように要求する。しかし、バーバリアン達は耳を貸さない。結局、力ずくで分からせるしかないようだった。ヴェテンスカップのファイアボール、ハマヌーのファイアストーム、エステルのポーション爆弾が一斉に炸裂した。バーバリアンは手斧を投げて応戦するが、不利は明らかだった。やがてバーバリアンの一人が、人質の娘3人を連れ出してきて、大きな声で制止を促した。ヴェテンスカップがその内容を訳してきかせた。

俺の家族は皆この女どもの一族に殺された。俺には復讐をする権利がある。それを邪魔するな。

何も俺たちを止めることはできない。他に欲しいものはない。血は血であがなえ。


ヴュが目くばせすると、ヴェテンスカップは呪文で彼を人質のすぐそばに瞬間移動させた。グレイヴ一閃、ヴュはバーバリアンの手斧を叩き折ると、娘たちを避難させた。これを合図に、ダリーとサルビアが川を越えてバーバリアンの中へ走りこんでいった。数で勝るバーバリアンであったが、一人また一人と倒れて行き、手斧を折られたバーバリアンを残し、すべて倒されてしまった。娘たちも多少の傷を負ったが、ハマヌーがすばやくこれを回復させていったので、大事には至らなかった。

 6. ゴラムの神殿


最後に残ったバーバリアンはスティックと名乗った。スティックを縛り上げ、4人目の娘がどこにいるのかを聞いたところ、村の裏にあるゴラムの神殿の中につれていかれたと答えた。

ここがアーマーグの墓所を兼ねていると分かり、気を引き締める一行。サルビアのファミリアを娘たちの護衛に残し神殿の中へと足を踏み入れて行った。

神殿の壁、床、天井は、錆びた鉄で正方形にふちどりされた白い石でできていた。これは典型的なゴラムの神殿だとハマヌーがつぶやいた。最初の扉をあけると、3体の白い石像のある部屋に行きついた。石像はいずれも突起のついた鎧を着込み、長剣をたずさえていた。間違いなく、ゴラムをモチーフにしたものだろう。ハマヌーが像に向かって軽く会釈しようとすると、像の陰から黒い鎧に身を包んだ女性が3人現れた。いきなり呪文を唱え始める。しかしそれよりも早く、サルビアエステルがそのうちの一人を倒した。ヴュとダリーはそれぞれ他の2人の前に走りこんだ。と、そのとき、女性ののどの奥から硬いものをこすり合わせるような嫌な声が発せられた。それを聞いて、ヴュ、ダリー、サルビアの目が焦点を結ばなくなった。精神に働きかける邪悪な力を使われたようだ。前衛が機能しなくなったの見てエステルは舌うちをした。出し惜しみをしている場合ではないと、錬金術で作られた特製の爆弾を両手で叩きこむ。黒い女性達は呪文で抵抗しようとするが、ヴェテンスカップの呪文がいち早く彼女達をとらえ、その隙を与えない。ほどなく、3人とも倒されてしまった。

女性の死体を調べてみると、邪教ギョロナの印を持っていた。なぜゴラムの神殿にギョロナの信徒がいるのだろうか。ハマヌーヴェテンスカップにもそれは分からなかった。仕方がないので先を急ぐことにした。次の部屋は丸い部屋で、天井がドーム状になっていた。壁や床がつるつるに磨きあげられている。罠のような気がするというダリーの意見を尊重して引き返し、別の扉を開くことにした。

 7. 力の試練


次の部屋には、小さいものから大きいものまで大きさの異なる4つの鉄球が置いてある部屋だった。もっとも大きいものは、直径が人の背丈ほどもある。部屋は奥に行くに従って、ひな壇のように4つの段差がついている。面白いことに、各段には鉄球の大きさと一致するように、大きさの異なる穴が開いていた。「これは、鉄球をそれぞれ大きさの一致する穴にいれろということでしょう」とヴェテンスカップが指摘すると、力自慢のヴュとダリーが勇んで鉄球を転がし始めた。ところが、鉄球がかなりの大きさであることと、段差をうまく押し上げるの大変だったこともあってかなり作業に手間取ってしまった。10分ほど作業をすると、突然鉄球全部が部屋中を飛び回りはじめ、部屋の中にいた全員を手ひどく叩きのめしてしまった。ひとしきり暴れた後、すべての球は、最初の場所に自ら戻った。どうやら時間制限もあるらしい。

ヴェテンスカップエステルを部屋の外に避難させ、残る4人で2球づつ受け持つこととし、なんとか制限時間内に鉄球をすべて穴の中にはめ込むと、次の部屋につながる扉が開いた。

 8. 我慢の試練


階段を上り、扉をあけると、巨大な石臼のようなものが中央においてある部屋にたどりついた。その石臼を囲むように、4本の巨大な柱がそびえたっている。柱の天井に近いところには、それぞれ異なった武器が飾りのように据え付けられていた。ヴュが臼を触ると、金属の冷えた手触りがして、石でできたものではないことが分かった。軽く押してみると、左右に回転する。どうやら、大きな金属製の回転体のようだ。どうすればいいのかよくわからないサルビアは、次の部屋に続く別の扉を開けようとしたが、扉はがんとして開かなかった。すると扉を触ったことがきっかけとなったのか、部屋の壁全体が瞬間凍りつき、部屋の温度が急激に低下しはじめた。しまった、罠だったのか。どうにかして部屋の外に出なければならないが、どうすればいいのか分からない。ダリーが金属製の回転体を調べようとしたが、皮膚が凍りつくような冷たさになっていて、触ることができなかった。

「私、できるかもしれません。」ダリーを見ていたサルビアが、代わりに回転体に手を触れた。サルビアに流れる魔族の血が、寒さによるダメージを防いでいるようで、サルビアの表情は全く変わらない。彼女はそのまま回転体を押し回し続けた。5分も回し続けただろうか。やがて、壁を覆っていた氷が割れ、奥へ続く扉が開いた。

 9. 戦いの試練


扉をあけると、長い廊下が続いていた。慎重に奥まですすむと、すぐに次の扉が見えた。罠がないことをダリーが確認し、扉をあけると、そこは大きな暗い空間だった。手元の光が向こう側の壁までとどかないのではっきり分からないが、見える範囲では壁が内側に婉曲しているので、おそらく丸い部屋だと推測された。4本の巨大な石柱が天井を支えているのがぼんやりと見えた。しかし、それより目を引くのは、部屋の中央に立っている巨大な鉄像だった。突起の付いた金属鎧に巨大な長剣、これもまた、ゴラムの神像であると考えて間違いないようだった。

「巨大な部屋と、中央に鉄像。あやしいです。あれ、動いて襲ってくるかもしれませんよ。」ヴェテンスカップが警告する。果たして、鉄の像は動き出してこちらに向かってきた。本来動く鉄像は魔法や物理攻撃に強く、相当手ごわい敵である。ただし今回は、錬金術師のエステルが、強酸性の薬を投げつけることによって、ひどく手傷を負う前に倒すことができた。サルビアが、アダマンティンというどんな硬いものでも切り裂く剣を持っていたのも幸いした。

 10. 地下の鍾乳洞


鉄像を倒した後、部屋の様子を調べたところ、やはり円形の大きな部屋だということが分かった。先へ続く扉は二か所。入ってきた扉からみて、左側と奥側である。一行は、奥側の扉を開けて先に行くことにした。下へ降りて行く階段をしばらく行くと、そこは自然洞窟につながっていた。鍾乳石や石筍がところどころに生えているのが見える。奥には遠くから見えるほどの大きな扉があり、その前を骸骨人間の一団が守っていた。が、数こそ多いものの、大神官ハマヌーが聖なるエネルギーでその多くを焼き殺してしまったため、扉にたどりつくのは容易であった。

扉の先は、鍾乳洞ではなく、白いタイル張りの通路になっていた。今までと比べると、通路の幅が広くなっている。通路を進むと、十字路になっていた。左手を明りで照らすと、すぐに行き止まりだった。正面は上に上る階段。右手は細い通路だった。ダリーは、まず右に行こうと手でサインを送った。

 11. リンデリク


10メーターほど歩くと、右に通路が折れていた。慎重に角から中を覗き込むと、大きな暗い空間と、その中にランプの光が見えた。一人の人間がランプを持っているように見える。なおも慎重に部屋の中に歩を進めると、誰何する声がした。女性だった。ヴュがそれに応えて名乗ると、声の主は「まあ」という安堵をもらし、それに続いて「危ない!」と叫んだ。突然、一行の背後に、ひときわ目立つ4本の角を持った悪魔が現れた。ゴリラのような体躯、青いトカゲのような肌をしていた。

ヴュは、履いてきた魔法の靴の力を借りてすばやく悪魔に回り込み、強烈なグレイヴの一撃を与えた。しかし、悪魔に手ひどい傷を与えることはできなかった。悪魔は人が作った武器に耐性があり、よほどの力でなければその皮をつきぬくことはできないのだ。悪魔はさらに、呪文を唱えて同胞を1体召喚した。ここが使いどころと、ハマヌーがヴュのグレイヴに聖なる武器の呪文をかけた。聖なる武器であれば、悪魔の皮を引き裂くのは可能なのだ。

ヴュがグレイヴを振り回している間、錬金術師のエステルは薬入りのフラスコを悪魔に投げつけていた。錬金術師の技は、悪魔の皮の耐性すらかいくぐるのだ。防御を失った2体の悪魔は、やがてじり貧になり、倒されてしまった。面白いことに、悪魔は倒されると死体がなくなってしまう。この2体もその例外ではなかった。

女は、やや白く濁った青い瞳をしていた。人質の中で最も美人だといわれるリンデリクと特徴が一致する。果たして彼女は自分をナメスティの娘、リンデリクと名乗り、悪魔が襲ってきたことについて詫びた。彼女が言うには、子供のころ触れてしまった魔法の品、ハロー・デックの呪いのため、彼女の周りには常に悪魔がいるのだそうだ。悪魔は、彼女が不幸になることと、彼女が(自殺を含めて)死なないように常に干渉してくるのだという。話を黙って聞いていたヴュは、「分かった、安心しろ。これからは俺が君を幸せにするから」と、場合によっては求婚していると取られかねない申し出をした。

リンデリクはともかく、テストラシアの重臣たちには分かっていた。ヴュは怒っているのだ。また、例のヴァリシア気質が出た、と、エステルは思った。自由をなによりも大事にするヴァリシア人は、束縛されたり制限されたりすることを何よりも嫌うのだ。そして、ヴュは、典型的なヴァリシア人だった。

ヴュにどう返事をすればいいのか戸惑っていたリンデリクだったが、大事なことを思い出したように語り始めた。それは、アーマーグのことだった。アーマーグは伝説的な戦士で、恐るべき魔法の長剣の使い手であった。その武器が、この墓所に安置してあるというのだ。タイガー・ロード・バーバリアン達は、その武器の秘術と、アーマーグの墓所の霊力を用いて、二代目のアーマーグを誕生させようとしているらしい。「一振り一万人を殺す」と言われたアーマーグが復活すれば、その害はフォート・ドレルヴだけにおさまらず、テストラシア、ひいてはブレヴォイまでに影響するとリンデリクは強調した。

 12. 生まれ変わったアーマーグ


リンデリクとともに十字路まで戻り、階段を上がってゴラムの礼拝堂へと向かった。そこは、12本の装飾をした白い石柱が天井を支える、大きな空間だった。柱にはそれぞれ明りがともされており、礼拝堂全体を赤く照らしている。入口からみて左側と右側の壁に、それぞれゴラムの像が1体づつ置かれていた。また、正面にある、奥に続く上り階段の両脇に、武器をかまえたゴラムの像が置いてあった。部屋の中にいたのは、一人だけだった。突起付きの金属鎧をきており、赤く、黒く光る両手持ち剣を持っている。ゴラムの化身かと思われるようなこの男が、二代目アーマーグだろうことは間違いなかった。

ヴュは最初、アーマーグが力を取り戻した後何をするのかを聞き出そうとした。彼にとってみれば、古の戦士の二代目が誕生すること自体は特に問題ではなかったからだ。フォート・ドレルヴや、テストラシアに敵対するつもりがなければ、見逃すことも考えられた。しかし、会話を続けているうちに、二代目の精神が初代のものに置き換わられているようだと分かってきた。残念だが、仕方がないか。リンデリクの言ったことは、正しいらしい。ヴュは、腹から大きく息を吹き出した。古のバーバリアンの王が今の世に戻ってすることなど、彼にすら想像できた。グレイヴの柄を強く握り、アーマーグに突撃した。

戦闘は、恐ろしく悲惨なものとなった。魔剣の力のせいか、いくら切りつけてもアーマーグは死なないのだ。剣での攻撃もさることながら、剣の切っ先から遠くまで届く衝撃波を繰り出してくるため、通常攻撃を受けないエステルヴェテンスカップも傷を負っていた。ハマヌーが回復の力をひっきりなしに使うなか、サルビア、ダリー、ヴュが肉まで削げそうな攻撃を繰り返す。もはや本当に不死なのか、と、あきらめの気持ちが芽生えてきたころ、アーマーグはついに倒れた。

 13. 戦いが終わって


ヴェテンスカップが識別の魔法を唱えると、アーマーグの魔剣は「オブニールヴェイン」と呼ばれる強力な武器だと分かった。「全敵の敵」を意味するこの呪われた剣は、自ら考えて行動することもできるのだという。この秘宝を悪人の手に渡らせないため、これはテストラのゴラム神殿に保管することとした。

礼拝所の奥にはアーマーグの棺桶と、おそらくは宝物庫があったようだが、墓場泥棒のようなことはしないことで全員了解した。

神殿の入り口まで戻り、3名の娘と合流すると、ヴュはバーバリアンのスティックを解放してこう言った。

今日俺は、お前を許し、解放する。一族も許し、今後こちらから攻撃しないことを約束する。

この神殿は、お前の一族の所有物だと認める。また、神殿の宝は何一つ取っていない。

お前は「血は血であがなえ」と言ったな。

フォート・ドレルヴの住民が平和に暮らすことは、お前らの命と信仰を守る代償だと思え。


スティックは、それになにも反応せず、早足で川を渡り、やがて林の中へ消えていった。

ヴュは4人の娘たちを連れ、テストラに帰ることとした。ここでフォートドレルヴに寄り道するのは、さすがとヒルナリックに悪い気がした。フォートドレルヴの貴族達には、テストラに娘を迎えに来させることにしよう。タツルフォードから使いを出せば、テストラで来賓の準備をする時間もかせげるだろう。ヴュは馬上で、今後の計画を考え出した。

こうして、テストラシア国王、ヴュ公爵は、アーマーグの復活を妨げ、フォートドレルヴの貴族に返せない貸しを作った。面白いことに、娘たちをテストラに連れ帰ったことは、ヴュが考えた以上の効果を生みだしていた。貴族達は、テストラシアがフォートドレルヴを併合する動きを妨害すると、娘たちの命があぶないと考えたのだ。もはや、フォートドレルヴがテストラシアの一部になることに反対する者は、どこにもいなくなっていた。