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第13回(王国1)

 4713AR 6月

ブレヴォイからの使者

テストラシア初代国王であるヴュ侯爵は、フォートドレルブを平定し、首都テストラに凱旋した。
国民が熱狂的に彼を出迎える中、彼に面会を要求するものがいた。ブレヴォイのソードロード、クロッカス卿である。
クロッカス卿はテストラシア建国時に出資した大貴族の一人であり、また、テストラシアの財務を預かるヒルナリック女史の実父でもある。ヴュ侯爵は直ちに彼と会談を持つことにした。
 
クロッカス卿は今回のフォートドレルブの混乱の収束に関して、ヴュ侯爵の働きが大きかった事をひとしきり賞賛した後、やや固い口調で告げた。
すなわち、ブレヴォイとしてはフォートドレルブは一刻も早く正当な支配者であるストルーン家のもとに秩序を回復すべきであると考えていると。物資援助などについてはありがたく受け取るが、それ以上は内政干渉に当たるとの見解であると。
これは、フォートドレルブも併合しようという動きを見せるヴュ侯爵への牽制であった。事実、ヴュ侯爵はすっかりフォートドレルブを吸収するつもりになっていたのだから、彼らの予想は正しかったといえるだろう。
更にクロッカスが合図をすると、彼の従者たちがいくつもの貢物を持ってきた。これはフォートドレルブの混乱を解消し、一族であるパヴェッタ=ストルーン夫人の命を救ってくれたことに対する、ストルーン家からの謝礼との事であった。
フォートドレルブ併合に待ったがかかった事にやや機嫌を害していたヴュ侯爵であったが、この貢物で気を取り直し、客観的にみて道理は向こうが通っていること、ブレヴォイとの関係悪化は何としても避ける必要があることからフォートドレルブに関してはこれ以上の干渉をしない事を約束した。
 
また、ストルーン家からはパヴェッタ=ストルーン夫人を至急レストフに送り返してほしい旨をしたためた親書が送られてきており、そのために使えというのかGreater TeleportのScrollまで同封されていた。
ブレヴォイ、ひいてはストルーン家を敵に回さないことを選択した以上、パヴェッタ夫人をテストラシアにとどめおくのは百害あって一利なし。彼女を速やかに送還することには誰一人反対するものはいなかった。ヴュ侯爵が自分自身で送っていくなどと言い出すまでは。
 
これにはヒルナリックを筆頭に強硬な反対があったが、結局いつものごとくヴュ侯爵が押し切った。パヴェッタ夫人のような身分の高い女性をそこらの使い走りに送らせるわけにはいかないし、ここでストルーン家に顔をつないでおくために、国王自ら出向くことで感銘を与えようというのはそれなりに筋が通っていたからだ。
もっとも、後者はうまくいかなかった。由緒正しいストルーン家から見れば、テストラシア国王など所詮成り上がりの田舎貴族にしか見えないのだろう。顔をつなぐどころか門前払いであった。
 
ともあれ、パヴェッタ夫人を送還するという目的を果たしたヴュ侯爵であったが、ここでまた気ままなヴァリシア人の悪い癖がむくむくと頭をもたげた。
せっかくレストフまできたんだから、ちょっと羽を伸ばしていこう、もとい情報収集をしていこうと言い出したのである。同行していたエステルサルビアも特に反対することがなかったため酒場に繰り出す一行。国王不在のテストラで必死に政務をこなしているヒルナリックに知れたら怒髪天ものである。あるいは深い深い溜息をつくか。
さておき、そうしてピタクスに関する情報を集めてみたのだが、結局あまりめぼしい情報は得られなかった。
 

フォートドレルブの娘達

さて、侯爵がレストフから帰ってくると少しばかり問題が持ち上がっていた。
タイガーロード・バーバリアンの聖地を強襲し、古のウォーロード「アーメグ」を打ち倒した後、ヴュ侯爵はテストラシアの政務が気になってまっすぐにテストラに帰還していた。その時、急ぐあまりに救出したフォートドレルブ貴族の娘達も一緒に連れてきてしまっていたのだが、これがどうも誤解を招いてしまったらしい。
外務大臣であるエステルがフォートドレルブ政府にあてて顛末を報告する親書を送っていたのだが、どうもその内容がかなり高圧的かつ要点のみで説明が不足していたため、テストラで人質として軟禁状態にあると認識されてしまったようだ。
フォートドレルブはかなり強硬な姿勢で、直ちに娘達を安全に送り届けなければブレヴォイの評議会に訴え出るとのこと。
こちらはまったくそんな気がなかっただけに腹立たしい。そもそも、自分の娘がさらわれたというのに他国の軍の慈悲にすがるしかなかったような連中が今更居丈高に吠え掛かってきても片腹痛いだけなのだが、ここは大人の対応として丁重に送り返すことにする。痛くもない腹を探られるのは面倒だし、娘達には何の罪もない。
 
この時連れ帰ってきた娘達は4人であった。
そのうちの一人、イオニアは家に帰れることを素直に喜んだのだが、残りの3人は一筋縄ではいかなかった。
幼いころから利発なことで有名だったヴィヴィアナは、このまま自らの能力を世に問うこともなく、政略結婚の道具に使われる人生に疑問を感じていた。そこに以前から興味を抱いていた秘術を今回目の当たりにし、すっかりと心を奪われてしまったようだ。
ヴィヴィアナは一旦はフォートドレルブに帰還したものの、両親を説得してテストラシアに留学してくることになった。ヴェテンスカップに変わってマジスターに就任したメティシエやヒルナリックに秘術や政治について教わり、順調に吸収しているようだ。いずれは次世代のテストラシアを支えてくれるかもしれない。
娘達の一人ジーンは不思議なことにテストラの王宮を抜け出し、行方不明になってしまった。どうやって見張りの目を盗んだかも不明だが、その後魔法まで使って大々的に捜索を行ったにもかかわらず何の手がかりも見つからなかったため、神隠しにあったのだとまことしやかに噂された。
そして最後の一人、ナメスティ卿の娘、呪われしリンデリック。
ただ存在するだけで悪魔を呼び込み周囲に不幸を撒き散らす、まさに生きた災厄とでもいうべき彼女をテストラシアに招き入れたことで、またもヴュ侯爵とヒルナリックの間で一悶着あったのだが、いつものようにヴュが強引に押し切ったのだった。
リンデリック自身このまま周囲に死と不幸を撒き散らしながら生きていくのにほとほと嫌気がさしており、テストラシアにとどまるのをためらっていた。とは言え、自ら命を絶つほどには思い切れず、悶々と悩み続けるリンデリック。
それに対してヴュ侯爵はあくまで能天気だった。曰く、「君の望みがかないそうになる度に悪魔が邪魔をするというなら、君がテストラシアにとどまって悪魔が襲ってきたら君はテストラシアに残るのが幸せって事だ」。正直、何にも解決になっていない気もするが、勢いに押されたリンデリックはヴュの言うとおり国に残ることになった。幸い父親であるナメスティ卿とは面識があったため、リンデリックが残ることはすんなり承認された。
 

人事異動の嵐

当面の問題が解決?したところで、廷臣一同しばらくは政治に集中する事になった。これが普通の姿でしょちゅう宮廷を空っぽにしているのが異常ともいえる。
まずは、だいぶ国も大きくなったということでポストの見直しを行うことになった。
結果、大々的に人事異動が行われた。
・ケステン  ワーデン → マーシャル
・ダリー   マーシャル → ワーデン
ヴェテンスカップ マジスター → ジャスティシアー
・メティシア マジスターに就任
・アキロス  ロイヤル・アサシン → バーデラー
・ドラッキー ロイヤル・アサシンに就任
・フラッセ  パスファインダーに就任
ドラッキーを国家の重職に就けて良いのか?という疑問は残るものの、人材不足の一言で退けられてしまった。また、もともとロイヤル・アサシンである事に不満を漏らしていたアキロスは更に華々しさにかけるバーデラー(農業大臣)にされてしまった事でショックを受けていた。この事が後であんな事態を引き起こすとは……
 

領土拡張&開発

さて、ブレヴォイとの友好関係を鑑みてフォートドレルブの併合は断念したものの、フォートドレルブ北東に広がる肥沃な草原地帯はあきらめるにはちと惜しい。フォートドレルブが混乱している隙に、East Sellen Riverの東を全て領土にし、河にかかるWyvernstone Bridgeも抑えてしまう。
既成事実を作るため入植者を大量に送り込んで開墾させ、街道も突貫工事で整備させた。これならば後からごねられても、街道の利用料をせびるぐらいはできるだろう。
また、ヒルナリックの国勢調査により首都テストラでは慢性的な住宅不足が起きている事が判明したため、急遽住宅地の整備を行う事になった。予定していたゴラムの神殿建立は、残念ながら翌月以降という事になった。
後は、今回の教訓を生かして国全体の防衛能力を上げるべく、いざという時の食料供給源となる王室禁猟地や、地方の防衛を担当する騎士の館を建設した。
 

満月の晩

そうして忙しい日々を送っていたエステルだったが、ある晩の事、深夜に彼女の家の戸をたたくものがいた。このところ激務が続き、早く休みたいと思っていたエステルが怒鳴りつけてやろうと戸を開くと、そこにいたのは大きなワーグだった。
「偉大なる北と南と東の風よ。夏祭りの迎えに来ました。今年も良い月が出ていますぞ」
ワーグの夏祭りといえば、ワーグ達に不思議な魔力を与える泉がある。ぜひともあの泉を研究したいと以前から思っていたエステルは標本採取用のビンをいくつも担ぐと、早速ワーグの背にまたがった。
再び風のように走るワーグに乗ってどことも知れぬ森の中を疾走すると、今年も前年と同じようにワーグ達が集っていた。彼らはみなうっとりと泉のしぶきを浴びていたので、自分も早速サンプルを採取しようと泉によっていくと、あまり見たくないものがいるのが見えた。
それは全長2〜30フィートはあろうかという巨大な白狼であった。あまりのサイズにそうは見えないが、よく見るとウィンターウルフらしい。
悪い予感のしたエステルが様子を伺っているとガルガンチュア・ウィンターウルフが重々しく口を開いた。
「お初にお目にかかる。北と南と東の風よ。我こそは西の風。わが称号が欲しければいつでも挑戦しに来るが良い。わしは逃げも隠れもせぬぞ」
そういうとウィンターウルフは呪文を唱えて掻き消えた。ディメンジョンドアーだった。
エステルは呪文も使えるガルガンチュア・ウィンターウルフに自分が食われている想像を頭から追い払うと、泉の水を持ってきたビンに詰め込んだが、後で調べると完全に魔力を失っている事がわかっただけだった。
多少のサプライズはあったものの夏祭り自体は平和に終わったので、エステルは再びワーグにまたがって帰る事にした。
すると途中でその道をさえぎるものがいた。虫に似た奇妙な仮面をかぶった人型生物だった。一応要件を聞いてみると
「お前が北と南と東の風か。だが、お前がその名を名乗れるのは今宵限り。今日からは俺がその称号貰い受ける!」
とやる気満々だった。
正直、こんな称号にはまるで未練が沸かないのだが、何と言うか称号を譲ってやるからおとなしく帰れといっても聞かなさそうだったので、相手にせず逃げる事にした。ワーグに全力で逃げるように告げると、え?戦わないの?期待はずれだなぁ、という目で見られたが、命令には大人しく従ってくれた。
その男は怒って追いかけてきたようだったが、ワーグのスピードには追いつけず、いつの間にか見えなくなった。まあ、なんか後でまた出てくる予感がしたが、その時は王様か誰かに押し付けようと思ったエステルであった。
 

デズナの星見祭り

6月はデズナの星見祭りが開催された。テストラシアではエラスティルを信仰するものが多いが、それはそれとしてお祭りはいつだって楽しいものだ。今年はヴュ侯爵も参加するとの噂が流れ、例年にない盛り上がりが期待されていた。もっとも警備を担当するダリーやケステンはかなり神経を尖らせていたようだが。
そのあたりの苦労はさておき、当日は見事な快晴、星の見やすい郊外の丘陵にはいくつものかがり火や屋台が準備され、人々は飲み食いするもの、火の回りで踊りに興じるもの、静かに星を眺めるもの、とそれぞれに盛り上がっていた。
中でもヴュ侯爵が登場した時は大きく盛り上がった。ふんだんに魔法を使ってきらびやかな演出が行われ、これには国民達も大いに驚かされたようだった。
民達への挨拶を終えたヴュ侯爵が舞台袖で見ていたリンデリックの下に戻ってくると、そこに声をかけてくるものがいた。その貴族風の男はムラキミアと名乗り、侯爵とリンデリックへの贈り物として大きなルビーを差し出した。
だが、歴戦の勇者であるヴュ侯爵はその笑い顔に後ろ暗いものを感じた。警戒心を露にするヴュ侯爵に応じて、そばに控えていたサルビア将軍はまやかしを見抜く強力な魔法を使用した。するとムラキミアの姿に重なって巨大な悪魔の姿が見えるではないか。蟹のような鋏を持つ緑色の悪魔、まさしくグラブレズゥと呼ばれる高位悪魔である。ルビーと見えたのは新鮮な生き血の滴る人の頭であった。
サルビアが怒りと警告の声を上げると警戒していた国王は愛用のグレイブを抜き放つ。国民に戦士王である事をアピールするために鎧を着用してきていたのが幸いだった。
正体を見破られたグラブレズゥはリバース・グラヴィティやコンフュージョンを使って付近の市民を巻き込む攻撃を行ってきたが、ヴュ侯爵が目を見張るような一撃であっさりと両断してしまった事により被害はほとんどでなかった。何人か負傷したものもいたが、ジョッド司祭とハマヌー司祭が争うように放出したチャネルエナジーによりすぐに癒された。
 
その後の調査により今回のグラブレズゥの襲撃はやはりリンデリックの呪いに関わるものであることが判明した。ヴュ侯爵はまったく気にしていないようだったが、リンデリックの立場はかなり苦しいものとなってしまった。
また、被害は極小であったとは言え、一人の子供が犠牲になった事を知り、リンデリック自身がすっかり塞ぎ込んでしまった。
リンデリックの呪いの恐ろしさを痛感した宮廷は本腰をいれてリンデリックの呪いを解く方法を調査する事にした。手始めにディビネーションの呪文で調査してみると、どうやらリンデリックが持っているデック・オブ・メニーシングスを使用するのが最も望みがありそうだった。
しかし、伝承ではデック・オブ・メニーシングスを使用すると、信じられない幸運がもたらされる事もあるが、とてつもない災厄がもたらせる事もあるといわれる。まさにリンデリックという実例があるのだ。気安く引く事はできない。この案は保留としてデッキから望みのカードを引く方法について継続調査する事になった。


 4713AR 7月


ヴァンホールドの疑惑

7月になり、タッツルフォードからWyvernstone Bridgeまでの街道を整備したおかげで交易が盛んになり、タッツルフォードはかなり潤っているようだ。
また、領土として組み込んだフォートドレルブ北東の平原の開拓も順調で、国全体の経済状態がかなり上向きとなる。
加えて、ヴァンホールドでもレストフから有名な貴族が遊びに来て豪遊して行ったらしく、大量の外貨を獲得したとの報告があった。
しかし、この報告を受けたヒルナリックは報告に不審な点を感じた。
気になって調べてみると、どうも金の流れが不明瞭になっている。税収等の明細が明記されず、大雑把に収入と支出が纏められているだけなのだ。
詳細な報告を提出するよう指示してもなしのつぶてで一向に改善されない。そう思ってそれ以外の報告を見てみると、いずれも問題なしの一言で却って疑わしいとも見える。
ヴァンホールドはテストラから距離があることもあり、代官であるフォルカスに任せきりにしていたので、現状を把握できていない事が露呈したのだった。
ヒルナリックは直ちにヴュ侯爵に上奏し、ヴァンホールドの実態調査の必要性を訴えた。無論、ヒルナリックとしてはそのための調査団を選抜し送り込むという意図で言ったわけだが、まあ、どうせ侯爵自ら本国ほったらかして乗り込むんだろうな、と半ばあきらめ気味だった。
 
当然、ヒルナリックの危惧は的中し、一応形だけは止めたヒルナリックをいつものように押し切り、ヴュ侯爵自らが調査に乗り出すことになった。調査方法については検討の結果、告知なしでテレポートでいきなりヴァンホールドに向かい、身分を隠して調査するという行き当たりばったりなものとなった。
いつもの面子で素人なりに変装してヴァンホールドにテレポートする。ヴァンホールドはそれなりに復興も進んでおり、活気もあってそれほどおかしいようには見えない。まずは宿を取ってヴュ侯爵など目立つ人は部屋にこもってもらい、影の薄いダリーが情報収集に出た。その結果以下の事がわかる。

・ヴァンホールドには大きなカジノができ、レストフからそこに遊びに来る人が落とす金で潤っている。
・カジノはレートが高く、ヴァンホールドの大半の住民は手が出せないが、何人か手を出した人の中には完全に破産して身を持ち崩した人もいる。
・カジノは公営ではないが、領主のフォルカスは友人の貴族連中と一緒にちょくちょく遊びに行っている。
・最近の町の噂は、公営で行われている富くじ。収益金は町の復興資金に当てられるという事で、結構売れている。

どうもカジノと領主の繋がりが疑われるが、決定的な情報が街での聞き込みで得られるはずもなく、さらなる調査が必要という結論になる。
最悪ばれたら開き直れば良いとのヴュ侯爵の方針が示された事でかなり乱暴な手段での調査を行うことに。具体的にはヴァンホールドの市庁舎をかねる砦に潜入し、経理情報などをこっそり調べる事に。ダリーとエステルがインビジビリティを使用して忍び込み、領主の部屋から経理の書類を洗いざらい持ち出す事に成功する。
だが、持ち出した書類をもと財務大臣のヴェテンスカップが徹夜で確認したが、特に怪しいところはなかった。無論、ヒルナリックが言っていたとおり明細がわからないような書類になっているのが怪しいといえば怪しいのだが。
ちょっとした手詰まりに陥っていると、富くじの抽選会が行われるという事なので全員で見に行く事に。抽選はバッグオブトリックを使ってランダムに出てきた動物の絵柄の並びで抽選するというもので、あまり見られない魔法の品物が使われるという事で結構盛り上がった。一行ではヴュ侯爵とダリーがくじを買っていたが、どちらも外れだった。というのは勘違いで実はヴュのくじが見事当たっていたのだが。
その後、こうなったら直接カジノのオーナーから話しを聞こうという事になり、ダリーが使いに出された。支配人に会いたがっている人物がいると伝えると最初は断られたが重ねて頼むと、貧相な小男が出てきたので一緒に宿に戻る。
この男はもちろんオーナーなどではなく単なる下っ端だったが、サルビアの魔法なども併用しつつ話を聞くと、やはり領主とカジノの支配人は繋がっている事が判明した。ただ、どの程度まで犯罪行為に手を染めているかは下っ端なので良くわからないとの事だった。
結局ヴュ侯爵としてはあからさまなイカサマを行っているわけでないのなら、ある程度フォルカスが役得を得ても見逃すつもりだし、今後改めるならこれまでの所業にもある程度は目をつぶっても良いとの意向だったので、直接カジノのオーナーであるボルダノと領主のフォルカスと会談を持つ事にする。
とりあえずはボルダノから接触しようという事でカジノに向かい、インビジビリティなどを駆使してカジノの地下に。すると折りよくボルダノとフォルカスが密談をしていた。その内容によると今回の富くじは仕組まれており、必ずフォルカスがあたるようになっていたらしい。明らかな詐欺であり、領主がやるのは大問題だ。
これはきっちり話し合って反省してもらわねばと姿を表すヴュ公爵とその家来達。フォルカスとボルダノはかなり驚いたが、どうも話し合いで解決できるとは思わなかったらしく、この場で公爵を亡き者にして有耶無耶にしようとした。
しかし、そこは歴戦の勇者である公爵とその家来達である。駆けつけた用心棒達はファイアボールであっという間に黒こげ。ボルダノはサルビア将軍に深手を負わせたもののヴュ公爵にばっさりやられてお陀仏。残ったフォルカスは降参した。
フォルカスの自白のより、他にもかなり悪質な詐欺行為に手を染めていたのが判明したので、体調不良を理由にして引退させ、テストラで軟禁する事とした。今回の事を公表すればテストラシアの威信に響くとの判断だった。
今回の事に懲りたので、ヴァンホールドの領主には信頼できる人物を、との事で建国当時から国防の要として尽くしてくれたケステン将軍を据える事になった。もともとは一傭兵団の団長だった事を思うと、絵に描いたような立身出世物語である。身一つで国王になったヴュ公爵と比べると霞むが。
ただ、ケステンの後任となるマーシャルがいないのが問題である。当面はワーデンのダリーが兼任という事になるが、どうしても細かい所までは見切れない。早急に後任を決める必要性がある。
 

ノーメン・ケンタウロスとの軍事同盟締結

また、ヴュ公爵はせっかくヴァンホールドまで来たのだからと、ついでにノーメン・ケンタウロスの集落を表敬訪問し、正式に軍事同盟を締結してきた。ケンタウロス達は領土侵犯しないという約束を守っているテストラシアにはかなり友好的で、西部のピタクスとの戦いになった場合でも力を貸してくれると約束。居留地さえ用意してくれれば、部隊を派遣しようと言ってくれた。1日だけの訪問の成果としては中々のものだと思うのだが、なにしろ何の事前連絡もなく、思いつきでやったため、後でヒルナリックにはこっぴどく説教されたのだった。

 4713AR 8月


ゴラム神殿完成

ヒルナリックの提言により内政に専念していたヴュ侯爵だったが、ようやくお許しが出たので今月はフォートドレルブの北、East Sellen Riverの西の探索を行った。侯爵は久々に腕が鳴ると意気込んでいたが、平穏無事に終わってしまい、微妙に残念そうだった。
フォートドレルブの北には丘陵地帯が広がっていたが、ストルーン家を刺激しないため、領土に組み込むのはやめる事にした。East Sellen Riverを国境線にする計画だ。
一方、首都テストラでは以前から建設中だったゴラムのカテドラルが完成し、完成祝賀会が開かれた。ハマヌーはその仕切りでてんてこ舞いで探索にも参加できなかった。

天使の悪戯

ヴュ侯爵が探索から帰ってくると、アーチャー配下の密偵から密告があった。
最近ゴラム神殿の裏に「天使の悪戯」という高級ホストクラブができ、男女問わずかなりの人数が入れ込んでいるとの事。
サービスは最高級、お値段はそれなり、今のところ特に怪しいところはないのだが、どうも密偵の勘がきな臭さを感じるらしい。
その報告を聞いたヴュ侯爵は、廷臣たちに一言も告げることなくお忍びで「天使の悪戯」に遊びに行ってしまった。それもどうも調査が目的というより純粋に好奇心っぽいのが彼らしい。
ヴュ侯爵が「天使の悪戯」に到着すると、非常に美しい女性達が出迎えてくれる。
その中の一人を見てヴュ侯爵は目を疑った。その娘はまさに在りし日のテストラに生き写しだったのだ。
激しい動揺を覚えつつその娘を指名してみたところ、やってきた娘はアンカと名乗った。ヴァリシア人だという。
ヴュはすっかり意気投合したが、しばらくするとアンカはもうすぐ常連さんがやってくるからからと言って去っていってしまった。
アンカが自分以外の男の相手をする事に少なからぬ嫉妬を覚えたヴュが、せめて相手の男を一目見ようと思って眺めていると、確かに新しくやってきた男がいる。
あまり目立たないように顔を隠していたが、良く見ると知った顔だった。アキロスだ。いいのかパラディン。
 
王宮に帰ったヴュがまったく悪びれずに「天使の悪戯」は最高だとのたまうと、ヒルナリックをはじめとした廷臣一同あきれ果てたような疲れ果てたような表情をした。
まあ、それはそれとして詳しく話を聞くとやはり普通の店とは思えない。ヴュも良く思い出すと頭の中を探られているような感触があったという。おそらくは魔法で客の記憶を読み取って、一番好みの姿にDisguiseしているものと思われる。
確認のためにアキロスを呼び出していろいろと話を聞いてみる。アキロスは自分がホストクラブに出入りしていた事がばれてちょっと動揺していたが、どうやらアンカではなく、エストルーデという同郷の娘がいて、その娘に入れ込んでいるらしい。彼女は良い子なんだと主張するアキロス。すっかりしてやられている。
これが純粋にサービスの品質向上のためだけであれば文句を言う筋合いはないのだが、おそらくそれだけとは思えない。またピタクスの間者が入り込んで情報を集めているのではないだろうか。
一同は相談の上、今度はサルビアが「天使の悪戯」に出向き、魔法を使って調査を行う事になった。
 
翌日、サルビアが「天使の悪戯」に出向くと、案の定、魔法で頭を探られている気配がするが、事前にわかっていたおかげか振り払う事に成功。するとサルビアの思い人であるボそっくりの男性が迎えに出ることはなく、無難にいろいろなタイプの美男子が出迎えてくれた。
とりあえず適当なホストを指名したサルビアが隙を見てDetect Thoughtをかけてみると、どうも呪文が効かなかった感じがする。それも抵抗されたというより掻き消された感触。まさか呪文抵抗?これは絶対にただものじゃない。
True Seeingを使って改めてよく見ると、確かに美男子は美男子だが、角やら尻尾やら羽やら生えているではないか。間違いない。インキュバスだ。慌てて周りを見回すとホールのメンバーは全員インキュバスかサキュバスのようだった。これは想像以上にヤバイ。
真っ青になったサルビアは早々に引き上げると慌てて宮廷に駆け込んだ。
 
いくらテストラシアが寛容と自由を旨とする国といえど、デーモンの跳梁を見逃すほどではない。
並行して行っていた調査によると「天使の悪戯」の経営者はイシュートンといい、「天使の悪戯」の隣にある屋敷に住んでいるらしい。これは即座にかちこんでまずは頭をつぶそうという事になった。デーモンの集団が相手となると一般兵士を連れて行っても犠牲が増えるだけなので、ヴュ侯爵を先頭にいつものメンバーで乗り込む。
屋敷は何の変哲もない屋敷だった。
一応ノックすると、意外な事に中から返事があり、がちゃりと扉が開いた。そこに立っていたのは全く予想外の存在だった。
大きさや全体的なシルエットは人間とあまり変わらない。ただ、その頭部はまさしくハエのそれだった。
いや、イシュートンもおそらくデーモンだろうとは思っていたが、まさか、まったく隠しもせずに出てくるのは予想外だった。
あっけにとられる一行にそのハエ頭は朗らかに言った。

「やあ、いらっしゃい。今日はいい天気ですね。私がイシュートンですが何か御用ですか?」

なんとなく気勢を削がれた一行が、国内をデーモンがうろつくのは看過できないので直ちに退去するよう要請するとイシュートンは顔をしかめた(と思われる)。
 
「なんですって?われわれは正規の手続きを経て営業許可を得ているんですよ。ちゃんと税金も納めています。なぜ退去しなければならないのでしょう」
いや、デーモンだし。
「そもそもこの国の法にデーモンが商売をしてはいけないとはどこにもかかれていないではありませんか。それは差別というものではありませんか」
何を言っている。魔法で心を読んでるのは分かっているんだ。いったい何を企んでる。
「企んでいるなんてとんでもない。我々はあくまでサービスの向上に努めているだけですよ。我々がこんなに誠心誠意努力しているのにデーモンだというだけで分かってもらえない。傷つくなぁ、もう」
 
立て板に水という勢いでしゃべりまくるイシュートンの勢いに気弱なダリーあたりは一瞬丸め込まれそうになったが、いくらなんでもデーモンを信用するなんてありえない。結局戦闘開始。交渉が決裂するとイシュートンは本性を表し、「天使の悪戯」で仕事中だったインキュバスx5、サキュバスx5を呼び出して一斉に襲い掛かってきた。
戦闘はかなり苦しいものとなった。
まず、サキュバスのヴァンピリック・タッチを続けざまに食らってヴェテンスカップが昏倒。前衛陣はイシュートンの超常能力でスロー状態にされ、サルビアがヘイストを準備していなかった事もあってヴェテンスカップが意識を取り戻すまでそのまま耐えしのぐ事に。
その後もサキュバスのヴァンピリックタッチで着実にダメージを積み重ねてくる敵に対し、ハマヌーの渾身のキュア連発で耐えしのぐも、イシュートンのコンフュージョンにぜんぜん抵抗できない前衛たち。一瞬全滅という言葉が頭をよぎる。
しかし、フォースボムを連発したエステルの身も蓋もない高火力と、幸運にもヴュ公爵が一瞬だけ正気を取り戻してイシュートンを攻撃したおかげで何とか勝利する事ができたのだった。
その後、イシュートンの住処などを調査した結果、思ったとおり彼らはテストラシアを内側から腐敗させ、政府に対する不平不満が一斉に爆発するように仕込むのが目的だったようだった。テストラシアが滅茶苦茶になればリンデリックが苦しむだろうという。要するにこれもリンデリックの呪いのせいだったわけだ。
この顛末を知るとまたリンデリックがふさぎ込むと思われたため、この事は一行だけの秘密にする事にした。表向きはピタクスからの間者が経営していたホストクラブを摘発した事になった。
 
「天使の悪戯」摘発の翌日。テストラからアキロスの姿が消えた。
誰からも大切に扱ってもらえない悲しみを癒していた最後の拠り所がなくなったのが耐え切れなかったらしい。
置手紙には一言「探さないで下さい」とあった。それでいいのかパラディン。

 4713AR 8月


テストラシアは順調に発展中

これまで領土拡大政策を取ってきたテストラシアであったが、ノーメン・ケンタウロスとの条約により東部への拡張が難しくなり、またフォート・ドレルブとの関係悪化を避けるために西部の開拓を控えるとなると、これまでのように拡大を続けるのは難しい。
そこで、開発コストの関係上手付かずになっていた、グリーンベルトの大森林地帯の開発に乗り出す事にした。
これまでは穀倉地帯となる平原の確保を優先していたため後回しになっていたが、豊かな森林資源、木材や珍しい果実、薬草などは立派な交易材料となるだろう。とは言え、開発は慎重に行わなければならない。テストラ西部に広がる大森林には古くからたくさんのフェイ達が住んでいる。彼らの機嫌を損ねるような事をすると、とんでもないしっぺ返しを食らう事になりかねない。
なにしろ、フェイというものがどれだけの厄介ごとを引き起こす事ができるか、ティグ・ティッター・タットの例を挙げるまでもない。国防上もフェイたちと友好関係を保っておけば、森林を抜けてテストラを奇襲しようという試みはまず成功しなくなるであろう。
と思っていた矢先、ヴュ侯爵がドライアドのテレシアのいたエリアを領土にしてしまったため、テレシアから苦情が出た。おおかた侯爵はこれでテレシアの顔を見に行きやすくなるとでも思ったのだろうが、怒らせてしまっては逆効果である。慌てて周辺を王室禁猟区に指定し、狩人などが近づかないようにしたのでテレシアの機嫌は直った。
テレシアはあの森のフェイたちの中でもそれなりに実力者のようなので、怒らせると大変なことになったかもしれない。くわばらくわばら。
 
一方で地道に進めていた街道整備が一通り完了し、西はWyvernstone Bridgeから東はヴァンホールドまで一本の街道で旅ができるようになった。
これによりヴァンホールドの鉱物資源をテストラや西方との貿易に運搬する際にブレヴォイに関税を支払わなくてよくなった。ますます国が潤うだろう。

不思議な盗難事件

そんな忙しい日常を送っている時、サルビアのもとに奇妙な事件が報告された。
以前の「謎の鍵開け犯」事件を解決して以来、兵士達の間では、なんだか良く分からない事件はサルビアが担当という認識になっているらしい。
何でもテストラ市内にある高級宝石店でダイヤモンドほか4点が盗難にあったらしい。
しかも不思議な事に忍び込んだ形跡が全くなく、捜査は難航しているとの事だ。
嫌な予感のしたサルビアは念のためティグ・ティッター・タットを呼び出し、最近、何かきらきら光るものを拾ったりしていないか恐る恐る聞いてみた。
へそを曲げられては厄介なので、盗んだとは言わないサルビアだった。
ティグは全く心当たりがないらしい。一応真意看破してみるも嘘を言っている様子もない。
あまりしつこく聞いて怒らせたくなかったので、帰すことにした。
仕方ないので、宝石店を張り込んだりしてみるも空振り。途方にくれたサルビアは、ハマヌーに頼んでディヴィネーションで神託をもらう事にした。
すると、「失せ物を見つけるには一に根性、二に根性。なくした場所を良く探せ」との回答が。
そこで、今度はダリーを巻き込んでもう一度現場を探してみる事にした。
すると驚いた事にゴマ粒ほどの大きさになったダイヤの指輪が発見された。急いで虫眼鏡を調達して二人して這いつくばって探すと、他の三点も次々と発見される。
デテクト・マジックをかけると変成術の反応が。おそらくシュリンクアイテムに違いない。
こんな無意味な事をするやつは彼女しかいない。
もう一度ティグ・ティッター・タットを呼び出して聞いてみると、彼女は目を輝かせて新しく覚えた呪文が如何に面白いか説明してくれた。なるほど、確かに盗んではいない。
色々と言葉を変えて説明してみたが、結局、彼女になぜシュリンクアイテムで悪戯してはいけないのか理解させる事はできなかったので、ノックの時と同じように彼女の気をそらすものを作成する事にする。
精巧な模型を作る職人を雇って彼に色々な模型を作らせ、それにシュリンクアイテムをかけさせる事にしたのだ。
ティグ・ティッター・タットとフェアリードラゴンのベルリバッシュ(彼も犯人の一人だった)はこれがすっかり気に入り、小さくした模型を使って精巧なディオラマを作って遊んでいるらしい。なるべく長い間飽きないでいてくれるといいのだが。
こうして「謎の宝石店盗難事件」を無事解決して更に名探偵としての評価を上げたサルビアだったが、今度はいつの間にか増殖する謎のジオラマの噂が流れて市民に不安が広がっているという。

大武闘大会と立ち込める暗雲

そんな事をしているうちに今年も大武闘会の季節がやってきた。
今年の大会は波乱含み。
緒戦で優勝候補の一角であるアーチャーとエステルがぶつかり、激しい射撃戦を制したエステルが勝利した。まあ、リソースをフルに使える自己バフ系に普通の戦士が対抗するのは難しい。
エステルは1回戦で危なげなくフラッセを下して勝ち上がったサルビアと2回戦で激突。いずれも名のある戦士だけに観客の期待も高まったが、いざ蓋を開けてみると試合開始直後にお互いにインビジビリティをかけて透明化。ブーイングを飛ばす観客をよそに強化呪文をかけ続けるという展開に。おかげで一時試合場の雰囲気は暴動寸前まで行った。
結局、このグダグダ試合を制したのはエステルだった。
そうこうしているうちに今大会の台風の目が吹き荒れようとしていた。どこからやってきたのかわからないのだが、弓を持った女戦士イングリッドが破竹の快進撃を繰り広げていたのだった。
彼女は強弓を使って狙い済ました一撃で相手の武器を吹き飛ばしてしまうというすさまじい技量を誇り、1回戦でハマヌーに勝ったのを皮切りに次々と強豪を下し、なんと準決勝ではリザードフォークの族長ヴェスケットをも倒してしまったのだった。
かくして、今年の大会決勝戦は、準決勝で爆弾が尽きたエステルを下して勝ち上がってきたヴュ侯爵と謎の女戦士イングリッドとの戦いとなった。
この戦いは短くも激しいものとなったが、紙一重の差でイングリッドの勝利となった。
 
さて優勝したイングリッドであったが、彼女は優勝商品としてヴュ侯爵との面会を求めた。どうやら今戦っていた相手が侯爵である事に気がついていなかったらしい。
ヴュが名乗って話を聞いてみると、彼女はノーメンケンタウロス領の更に東、イオバリア地方からはるばる助けを求めてやってきたらしい。
何でも彼女の部族の住む場所の近くに古代の遺跡があるのだが、地震の影響か、最近中から奇妙な蟲のような怪物が現れるようになったらしい。数はそれほど多いわけではないが、彼らはコンフュージョンのオーラを身にまとっており、バーバリアンメインの彼女の部族の連中は盛大に同士討ちを起こしてしまうので駆除もままならないらしい。
彼女の所属するイオバリアの部族には、西方の大国と互助条約を締結したという言い伝えが残っていたため、イングリッドが救援を求めにやってきたとの事だ。
バーバリアン以上に意思セーブの悪そうなテストラシアの廷臣一同は思わず顔を見合わせたが、そんな危険なクリーチャーが増殖しているという話は看過できない。きゃつらがイオバリアにとどまらなくなれば、やがてはノーメン・ケンタウロスやヴァンホールドにまで被害が及びかねないのだ。早急に調査を行って原因と対処法を突き止める必要がある。また、勇猛なイオバリアの蛮族と友誼を結んでおくのは悪くない選択だ。例えイングリッドの言う条約に全く心当たりがないとしても。
早速緊急会議が開かれ、いつものように救援部隊をヴュ侯爵自らが率いて調査に向かうことになったのだった。
 
 
 
つづく