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第二回

海賊家業も楽じゃない


 新人いびりも楽じゃない


先日、強制的にハリガン海賊団の一員にリクルートされたタイバンリー、ネリネバハンガ、フレア、ホブノブの5人は、その日も1日こき使われた後にMr.プラッグからの呼び出しを受けていた。
遅れれば、またもや鞭打たれる事になるだろう。無言でMr.の元に向かう一行だったが、甲板に上がる階段でだべっている連中がいる。デブのフィップスを中心とした4人組だ。階段にどっかりと座り込み、邪魔な事この上ない。
フレアが急いでいるので通してくれないか?と頼んでみたが、ニヤニヤとするばかりで一向にどく気配がない。この野郎、わざとだな。海賊船でも新人いびりというものはあるらしい。
無理に押し通ろうにも、人数は4対4で互角。ぶっちゃけ戦力外としか思えない老婆やお嬢さんがいる一行に勝ち目は薄そうに見える。どうしたものか。困惑した雰囲気の流れる中、一人、空気読まない男バハンガがいつものように口汚く罵りだした。「この罰当たりの根性なし共が。文句があるなら堂々と言ったらどうじゃ!」
ひょっとしたらフィップス達は軽く嫌がらせをするだけのつもりだったのかもしれない。新人共が身の程をわきまえて平身低頭頼めばあるいは通してくれたのかもしれない。しかし、そんな平穏な未来はあっさり閉ざされた。バハンガの罵倒にぶち切れたフィップス達は一行に殴りかかってきたのだった。
迎え撃つタイバンリーとバハンガ。慌てて逃げ出すフレアとネリネ。明らかに不利な状況だ。しかし、そこに救いの神が現れた。甲板の方から一行と一緒にリクルートされてきたモンクのバンザイが下りてきたのだ。かつて荒くれ用心棒として名をはせたバンザイにとって喧嘩とは参加するもの。そして、不利な方に加勢した方が腕を売り込めるものである。状況は全く分かっていなかったが、バンザイは迷うことなく手近な男を殴り飛ばした。まず殴ってから考える、もしくは面倒なので考えない、それがバンザイの生き方だった。
バンザイの参戦により戦況は一転した。バンザイはモンクなので、Improved Unarmed Strikeを持たない他のキャラクターが素手で攻撃しようとすると、もれなく機会攻撃で見事なカウンターを食らうのだった。うん、モンクと素手で喧嘩するもんじゃないな。バンザイの連打により次々と打ち倒されるごろつき達。あまつさえ一人はひよってネリネを襲おうとしたところをSleepで眠らされてしまっている。ちゃっかり懐を漁って小銭をせしめるネリネ。それを見た一行は、あの婆さんあなどれねぇ、と一目置くのだった。
こうしてバンザイの活躍により、見事にフィップスたちの妨害を排除した一行ではあったが、結局、集合が遅いという事でMr.プラッグに鞭打たれる羽目になった。なお、ホブノブ一人だけがいつの間にか集合場所についており、罰を逃れたのだった。そう言えば、いつの間にか姿が見えなくなっていた……。
 
まあ、ちょっとした悶着はあったものの、どうにか自由時間になり、一行は思い思いに過ごす。
バンザイは一行を助けた時の活躍が知れ渡り、実力者として一目置かれるようになった。
ホブノブは同じハーフリングであるロージーに話しかけてみたところ、大事なフィガロを取り戻すのを手伝ってくれるよう頼まれる。快諾したホブノブは物品を管理しているカット・スロート・グロックを説得し、無事にフィガロを取り戻した。更にロージーにバンドを組もうと持ちかける。ロージーのフィガロに合わせて自分が踊れば、きっと人気が出てお捻りなんか期待できるだろうという目論見だ。
ロージーは音楽は好きなもののあまり自分の腕には自信がなかったため渋っていたが、熱心な説得により承諾。ここにちっちゃいバンド"プチ コンビ"が結成されたのだった。しかし、2人だと寂しいため、もっと他のメンバーを増やしてからデビューしようという方針になった。
一方、空気読めない男バハンガは懲りずにMr.プラッグのところに行って、自分にもっと真っ当な仕事をよこせと直談判していた。Mr.プラッグは明らかに何かを含んだ笑顔で明日を楽しみにしておけと言ったが、当然気がつかなかったのだった。

 ネズミ退治も楽じゃない

さて、翌日であるが、当然バハンガの望んでいたようなロープワークのような船乗りらしい仕事が割り当てられる事はなく、下っ端御用達である船倉のネズミ退治が一行に割り当てられた。どうも同時期にリクルートされた一行はMr.プラッグの中では一緒くたにされているらしく、なぜかリガーのタイバンリーや厨房担当のフレアまでネズミ退治を言い付かる。とんだとばっちりである。
ぶつくさ言いながらも逆らうと鞭打ちなのでやむなく船倉に向かう一行。バハンガが唱えたLightの呪文に照らし出されたのは数匹のネズミ……であったが、そのサイズがおかしい。ダイアラットじゃねぇか。なんでこんなでかいのが今まで気づかれなかったのか疑問が残るが、まあ、そういうものらしい。恨み言を言ってても意味がない。早速戦闘に入る一行。と言ってもネリネが唱えたSleepの呪文でネズミ達はあっさりと寝てしまい、ホブノブがグロックから返したもらっていたダガーで止めを刺して回って終了。タイバンリーが少し噛まれて病気になったぐらいで、被害らしい被害もでなかった。
その後、ダイアラットの死体は病原菌の元ということで海に投棄されたが、その前に何に使うつもりなのか、ネリネが内臓などを抜き取っており、それを見た一行をドン引きさせていた。リクルート3日目にして既に、関わってはいけない人という共通認識が形成されつつあった。

 人間関係も楽じゃない

この後は数日の間、比較的平穏な日々が続いたが、一行の立ち居地については次第に明暗が分かれてきた。
一番うまくいっているのはバンザイである。例のフィップス達を一蹴した事で一目置かれていた彼だったが、その後、とある事件により更に確固たる評判を勝ち得た
マスター・スコーレッジがタイバンリーを唆して、100gpを賭けて船員の一人である"アウルベア"ハーツショーンと決闘させようとした際に、尻込みするタイバンリーの代わりに受けてたったのだ。
この時は不利になった"アウルベア"にスコージが棍棒を手渡すというひどい反則があったにもかかわらず、これを一蹴、見事に100gpを手に入れたのだった。"アウルベア"は知恵遅れで船員の中では最下層に位置していたが、その恵まれた体躯と膂力から戦闘力に関しては恐れられていた。強い奴は偉い。海賊の思考なんてそんなものだ。こうしてバンザイの評判はますます高まり、一部にセンセイと敬意をこめて呼ぶものも現れ始めたのだった。
ホブノブも目立ちはしなかったが、順調に自らの立ち位置を確保しつつあった。ロージーと組んだバンドは、小型種族によるコミカルなバンドという方針に沿ってメンバーを勧誘し、ホブノブの熱意と巧みな話術のおかげでドラム担当のラッツバーガー(ハーフリング)、ボーカル担当のターラッチ(ノーム)、軽業担当のパッチソルト(ノーム)を加え、"プチ 5"に成長していたのだった。
甲板での酒盛り時にデビューを果たした"プチ 5"のショーは割りと好評で、特に物品管理を担当する上級船員のグロックにかなり気に入ってもらえたのが大きかった。グロックはこの後もホブノブ(とプチ 5)のために色々と便宜を図ってくれる事になる。
一方、あまり有意義な時間がすごせなかったのはフレアである。彼女もまたホブノブと同じく人脈を広げるべく様々な人に積極的に話しかけたのだが、何と言うか人を見る目がないのか、もともと彼女に友好的でない相手に話しかけてはけんもほろろに追い返されるということを繰り返していたのだ。こういう人が将来駄目な男に貢ぐ羽目になるのかもしれない。まあ、ホブノブほどの熱意と押しの強さがなかったせいでもあるが。
その様子にかわいそうに思ったのか、グロックだけが「大丈夫、そのうち友達もできるよ」と慰めてくれた。ホブノブの時といい、なんかグロックいい人だな。
バンザイに見せ場を取られたタイバンリーは実はダイアラットに移されたラット・フィーバーが悪化し、地味に死に掛けていた。自分で自分を治療するという努力の結果、どうにか持ち直したものの、なんとも寂しい数日であった。
最後にバハンガネリネは、その態度の悪さと奇矯な行動から、早くも船内ではアンタッチャブルとみなされ始めていた。
そうは言っても、バハンガは同じ酒好き、ギャンブル好きという共通点から、コックのクループや船員のティリーと仲良くなっていたし、ネリネはおつむの弱い"アウルベア"に麻薬を与えて手懐けていた。便利に使える手駒にする予定だったのだろうが、ネリネの予想以上に"アウルベア"のおつむが弱かったため、思ったとおりに動いてくれずに苦労していた。それでも、嵐の晩に運悪く"アウルベア"が海に落ちたときに、近くにいたネリネが投げたロープのおかげで助かった事もあって、随分となついたようであった。

 食材確保も楽じゃない

そんなこんなでMr.プラッグの理不尽なしごきに耐えて数日たった頃、船はちょっとした珊瑚礁の傍に停泊した。そしてまたも召集される新入り達。今回はバンザイとよくつるんでいるベスマラの女神官サンダラもいる。
集まった一行に与えられた仕事は、カニ漁であった。なんでも船長のハリガンがカニを食べたがっているらしい。
カニはうまいよなーと何故か乗り気なバハンガを先頭にタイバンリー、ホブノブ、バンザイ、サンダラが獲物を入れる桶をかついで海に飛び込む。金づちのネリネ婆さんと泳ぎに自信のないフレアはお留守番として船に残った。
海に入った5人は順調にカニを集めていき、程なく全員の桶がいっぱいになったので、そろそろ戻ろうかという雰囲気になったが、得てしてそういう時にアクシデントが起こるものである。いつの間にかテリトリーに入っていたのだろうか、3匹の巨大エビ?が一行に襲い掛かってきたのだった。
このエビは鋏、鋏、噛み付きの3回攻撃で、当然のように鋏でつかんでくるというよくいるタイプの敵であったが、つかんでいる相手への自動ダメージがHPの少ない1Lvキャラにはきつかった。
また、つかんだ相手を水中に引きずりこむ性質を持つため、助けようと思ったらわざわざもぐっていく必要があり、肝心な時に泳ぎに失敗して何もできないなど、かなり混沌とした戦闘となったのであった。
結果的にかなりヒヤッとする場面があったものの、NPCのバンザイとサンダラの活躍のおかげで何とかエビ達を全て倒す事に成功したのだった。
このエビは非常に美味らしく、船長は予定を変えてカニではなくこのエビを食すことになり、大変満足したようだった。
もちろん、折角とったカニも無駄になる事はなく、船員たちに振舞われた。思わぬご馳走といつの間にか更にメンバーを増やし"プチ6+1"となっていたバンドのショーのおかげで、その日の夜はいつになく盛り上がったのだった。

 プロモーターも楽じゃない

その後も船は航海を続け、一行は相変わらず他のみなが嫌がるような仕事を押し付けられていた。
理由は不明だが、甲板長のマスター・スコーレッジが彼らを毛嫌いしており、その影響かMr.プラッグも彼らを役立たずとみなし始めていた。他の船員たちは厄介ごとに係わり合いになるのを避けて距離をとるようになっていた。全く理不尽な話である。イジメかっこ悪い。まあ、若干自業自得な人達もいたわけだが。
そうして徐々に船内に緊張感が高まっていくのを他所に、マイペースなバハンガは酒を飲む小金欲しさに一計を案じた。以前、"アウルベア"とバンザイの決闘で盛り上がった事を思い出し、再び賭け試合を企画する事にしたのだった。そこで賭けの胴元を張って一稼ぎするつもりなのだ。
まずは、主役というべきバンザイに話を付けに行くと、バンザイは強い相手と戦えるならと条件付で承諾してくれた。しかし、バンザイの相手となるとなかなか適当な相手がいない。見た目が強そうと言うことなら以前戦った"アウルベア"が1番なのだが、同じ相手とのマッチでは盛り上がりに欠ける。そもそもバンザイの強さは知れ渡っているので、相手になろうというもの自体がいないし。
結局バハンガは以前一行に嫌がらせをしようとしてバンザイにぶちのめされたフィップスの元を訪れた。当然フィップスが彼に良い感情を抱いているはずもなく、最初は話も聞いてくれない様子だったが、3対1のハンデキャップマッチでバンザイにリベンジできるぞ?と持ちかけるとその気になった。こうしてめでたく対戦相手が決定し、その夜、バンザイ VS フィップス+2の賭け試合が行われた。
この戦いは、流石に数の暴力でフィップス側が勝利するかと思われたが、バンザイは器用に相手の攻撃をよけては拳を叩き込み、紙一重ではあったもののバンザイの勝利に終わったのであった。この事でバンザイは更に船内での評価を高め、確固たる地位を築き上げた。一方、これにより小金を稼いだバハンガはその後厨房に入り浸って酒を飲む毎日を繰り返し、飲んだくれのごくつぶしとして、ますます評価を下げたのであった。

 日々の仕事も楽じゃない

そんな日々の中で、新人たちを集めてのボーディング訓練が行われた。いつもの面子が集められ、それぞれボートに乗せられて海に出される。そこからフック付ロープを使って船に乗り移る事ができれば合格だ。加えて他の船員たちがゴミを投げつけて妨害してくる。マスター・スコーレッジの無言の圧力の下、多数の船員たちが舷側に並んで待ち受けていた。
この過酷な訓練に、当然のごとくネリネは失格。金鎚である彼女はそもそも海に入ろうとさえしなかった。フレア、ホブノブも同じく失格。
結局合格したのは、タイバンリーとバハンガだけだった。ちなみに普段の行いの関係上、投げられるゴミはバハンガに集中したのは言うまでもない。半数以上が失格となった事で、Mr.プラッグの機嫌はますます悪くなり、後日の再訓練を言い渡して去っていった。
 
Mr.プラッグの機嫌と同調するかのように船内の雰囲気はますます重苦しさを増していった。そんなある日、バハンガはいつものラットキャッチャーではなく、ポンプで水を汲み出す係りを命じられた。懲りずにぶつくさと文句を言いつつ向かうと、Mr.プラッグがやってくる。そして、バハンガのホーリーシンボルに目を留めると、難癖をつけて没収しようとした。
よせばいいのにバハンガが反抗すると、プラッグは実力行使に出る。それに対しバハンガも呪文を使って対抗するが、ことごとく抵抗され、鞭で打たれて気絶してしまった。幸い止めを刺される事はなく数分して目を覚ましたが、ホーリーシンボルは奪われた後だった。
ひどい目にあったが、仕事をしないわけにもいかないので、船倉に向かうとなぜかフィップスともう一人がいる。疲れていたバハンガは、またか、と相手にしない方針にしたが、驚いた事にフィップスとその仲間はどこからともなくダガーを取り出し、襲い掛かってきた。その動きには明らかに殺意がある。この船では殺しはご法度のはず。差し違えても良いとまで恨まれているとも思えない以上、おそらくは揉み消す算段がついているのだろう。
プラッグとの戦いで消耗している上に2対1では勝ち目がない。バハンガは最後に残った力で Obscuring Mist を唱えて2人を煙にまき、その場を逃げ出した。しかし、船内では隠れるところもない。揉み消せないように他の船員がいるところに逃げるしかない。
そう考えているところに、またも救いの神が現れた。バンザイである。バンザイは事情を聞くと船倉に行ってフィップス達を叩きのめし、締め上げて誰の差し金か聞きだした。思ったとおり、マスター・スコーレッジが黒幕であった。また、今日に限って別の仕事が割り当てられた事や、直前の出来事を考えると、Mr.プラッグも1枚噛んでいるに違いない。船の実力者2人に睨まれたバハンガの運命は風前の灯だ。
バハンガが呪詛の呻き声を上げていると、何とか考えてみようといってバンザイは去っていった。と言っても考えるのが得意ではないバンザイの事。おそらくサンダラに相談しに行ったのだろう。命の危険を感じたバハンガも、比較的安全と思える厨房に逃げ込むのであった。

 海賊家業は死と隣り合わせ

じりじりと悲劇の予感が忍び寄る中、それを吹き飛ばすかのように事件が起こった。
航海に出てから約半月、ついに手ごろな商船を補足したのである。商船は必死で逃げようとするが、船足は海賊船のほうが速い。半日と待たず交戦距離に入るだろう。船員達は全員招集され、各自に武器が支給されていく。
ポートペリルでリクルートされたタイバンリー、ネリネバハンガ、フレア、ホブノブの5人はまたも同じグループとされ、舵輪付近を制圧するよう命じられた。新人に任せるにはなかなか重要な役目である。何か裏があるのではないか?先日殺されかけたばかりのバハンガなどは、敵よりも背後の味方を気にしていた。
程なく両船の距離が縮まり、ガンナー長のリアリスからFireballが飛ぶ。あれ?大砲は?
まあ、それはさておきFireballで帆が焼け落ち、目に見えて速度の落ちた商船に接近すると、先を争うようにボーディングロープが投げつけられ、次々と海賊達が飛び移っていく。商船側でも何とか一矢報いようと船員たちが武装して待ち構えている。たちまちそこかしこで剣戟の音が響き始めた。
一行も他の海賊たち同様に商船に飛び移ると、そのまま舵輪方面に向かう。すると、商船側の船員たちが6人、巻上げ済みのヘビークロスボウを構えて待ち構えていた。
初の海賊行為ということでか動きの鈍い一行の機先を制して次々と放たれるヘビークロスボウ。これが見事に命中し、鎧もろくに着ていない一行のうち数人が倒れてしまう。まさしく絶体絶命。
そこへ現れたのがバンザイとサンダラだった。バンザイは突撃し、サンダラは Channel Energy を使用して倒れたもの達の傷を癒してくれた。この二人の参入でどうにか盛り返した一行は必死の反撃を繰り出す。負けた海賊の運命は言わずもがななのだ。
しかし、必死なのは商船側も一緒で、そこからの戦いは熾烈なものであった。前線で呪文を使うフレアやバハンガは目立つせいかクロスボウの標的にされて何度も倒れる羽目になり、頼みの綱のバンザイも集中攻撃を受けては凌ぎきれるものではない。それを支えたのがサンダラの Channel Energy であった。これによる回復がなければ、簡単に壊滅していただろう。
また、さりげなくネリネ婆さんも活躍していた。得意のSleepやDazeといった心術を使って敵の行動を妨害し、目立たないが勝利に大きく貢献していた。
ベスマラによる回復でゾンビのように何度も立ち上がってくる一行を前に、集中攻撃で一人ずつ数を減らしていった商船側は、ついに全滅したのだった。
しかし、完全勝利というわけには行かなかった。一人だけ少し離れたところで戦っていたタイバンリーが帰らぬ人となってしまった。実はダンピールであるタイバンリーは、ベスマラの Channel Energyに巻き込まれると逆にダメージを受けてしまうので、単独行動をとっていたのであった。
結果として、激戦の中、余裕がなかったこともあり、フォローが間に合わなかったのであった。
 
その後、一人で船長室に乗り込んでいったキャプテン・ハリガンが敵船長の首を取ったことで戦闘は終結した。一行はタイバンリーの死をそれなりに悲しみつつも、ここぞとばかりに敵船員の死体から武器や鎧を剥ぎ取るのであった。戦利品の中には魔法の矛もあったのだが、マスター・スコーレッジが横取りしようとしたため、結局、全体の戦利品として提出された。少なくともスコーレッジに渡すよりはマシ、というのが全員の見解だった。
 
船に戻って点呼を取ると、タイバンリーの他に、ティリー・ブラケットが犠牲になっていた事が判明し、彼女と飲み仲間、ギャンブル仲間として親しかったバハンガは大いに嘆いていた。ぶっちゃけタイバンリーが死んだ事より残念がっていた。
その後、タイバンリーとティリーはClericであるサンダラとバハンガの立会いのもと水葬にされた。そして、それを吹き飛ばすかのように戦勝の宴が催された。普段は一行を嫌っている連中も、興奮しているのか酔っているのか比較的友好な様子を示し、ネリネはいつの間にか作っていた麻薬をこの機に配って回り、数人の犠牲者を増やしていた。
宴会が終わると船員達にも略奪の分け前が与えられた。今回はかなり実入りが良かったらしく、一人当たり200gp近い分け前が与えられたのだった。中でも、戦闘中にキャプテン・ハリガンの背後から忍び寄る敵に気がついて警告したバハンガには、キャプテンから特別な褒章として Amulet of Natural Aromor +1 が授与された。無論、マスター・スコーレッジやMr.プラッグがそれを苦々しげに見ていたのは言うまでもない。
それから、捕虜となった商船の乗組員達にはこの先の運命について選択肢が与えられた。簡単に言えば、死か服従かという事だ。脅しとして鮫の餌にされた船員の末路が効いたのか、ほとんどの捕虜が服従を選んだ。何人かは海賊団に加わり、比較的裕福な連中は身代金と引き換えに解放される事となった。
また、拿捕した商船自体かなり良いものであり、沈めるのはもったいないという事でポート・ペリルで売却する方針となった。副長であるMr.プラッグが臨時船長として幾人かの船員と共にポート・ペリルに船を持っていく役目を授かった。キャプテン・ハリガンはこのまま新しく加わった船員の訓練がてら航海を続けるらしい。
おそらく、ポート・ペリルに向かう連中はMr.プラッグの子飼いの船員で固められるだろう、ようやく折り合いの悪い上司がいなくなる、希望に胸を膨らませた一行だったが、メンバーが発表されるとその期待は無残に打ち砕かれた。何と彼ら全員がメンバーに含まれていたのだ。
まさか、Mr.プラッグが彼らを信頼してメンバーに加えたとは思えない。おそらくはキャプテンの目の届かないところで始末するつもりなのだろう。なぜそこまで憎まれるのか全く分からないが、大人しくやられるわけにも行かない。全員の危機感はマックスになったのだった。

 新たな職場も楽じゃない

こうして新たな船に乗り込み、ポート・ペリルを目指す航海が始まった。
とりあえずはいきなり始末される事もなく、表面上は平和な航海が続く。乗組員にはバハンガの飲み友達のクループや、マスター・スコーレッジを毛嫌いしているベスマラ神官のサンダラなども加わっており、一行以外は全員がマスター・スコーレッジのシンパという最悪の事態は避けられたようだ。しかし、乗組員は皆、何かを予感しており、ひそひそと噂をしていた。
 
一方、その頃、船内で不穏な動きをするものがあった。ホブノブである。彼はここに強制リクルートされた事を快く思っておらず、芸能活動に隠れてこっそり反乱を考えていたのだ。しかし、船内に人脈も少なく、自身の実力も足りない現状では成功の見込みも薄い。思い切った行動には出られないでいたのだった。
そこに、ベスマラの神官サンダラが接触してきた。都合の良い事に、サンダラも自分に色目を使うマスター・スコーレッジが気に入らないらしく、下克上を考えており、その件でホブノブに接触してきたのだ。
サンダラの話では、キャプテン・ハリガンはパイレーツ・ロードの一人であり、その実力も相当なものであるが、その片腕と言われるMr.プラッグはハリガンにおべっかを使ってのし上った人物であり、現在の地位に相応しい実力は持っていないという。ハリガンやリアリスといった実力派と離れた今こそが反乱のチャンスだというのだ。
サンダラは下級船員の中では実力派と思われるし、そうなると、サンダラとつるんでいるバンザイの力も当てにできる。急に話が現実味を帯びてきた。この日からホブノブは裏で策謀していく事となる。
 
ホブノブはまず、唯一の友人であったグロックが向こうの船に残ってしまったためにぼっちになってしまっていたフレアに接触して仲間に引き込んだ。フレアもまた強制リクルートには全く納得していなかったので、話は早かった。
その後はフレアと手分けして他の船員たちの様子を探りつつ、こちら側に引き込めないか交渉を行っていった。
しかも、バハンガを引き込もうとしたフレアに対して「奴は他の船員の評判が悪いから、下手に味方にすると仲間が集まらなくなる。なーに、あれだけプラッグと悶着があったんだ。放っといても勝手にこちら側についてくれるさ。放っとけ」との指示を行う徹底振りである。
目的のためにあっさりと他人を切り捨てる冷徹な判断に、頼もしさと同時に僅かに恐怖を感じるフレアであった。
 
一方、バハンガがいつものようにクループと酒を飲んでいると、クループがおかしな事を言い出した。どうも、船の行く先がポート・ペリルではなくブラッドコープなのではないか、というのがクループの見解だった。あるいは、Mr.プラッグはハリガンの元から離れたこの隙に、船を奪って独立するつもりかもしれない。
その予想が正しかった場合、結構大事なのだが、所詮は酔っ払いである。二人はそれ以上そこには突っ込まず、次の寄港地で何の酒を仕入れるかに話がそれていったのだった。

 飲み水探しも楽じゃない

こうして3日ほどが過ぎ、4日目の事だった。猛烈な嵐が襲ってきたのだ。嵐は一昼夜に渡って吹き荒れ、全員が必死で働いてどうにかやり過ごす事に成功したものの、航路を大きくそれてしまった上に、船が座礁してしまったのだ。
その上、点呼を取ってみると行方不明になった者がいた。サンダラと"プチ 6"の一員であるロージーがいなくなっている。おそらくは嵐の間に波に攫われてしまったのだろう。反乱時に頼もしい戦力となるはずだったサンダラがいなくなってしまったのは痛恨であった。
不幸中の幸いと言えるのは、座礁時に受けた船の損傷が比較的軽微で数日で修理できそうな事と、座礁した場所の近くに島があり、水や食料の補充が望めそうな事であった。
特に水については嵐の間に水樽が破損してしまっていたので、ここで補充できないとかなりまずい事になってしまう。早急に調達する必要があった。
もちろん、こういう面倒な作業に借り出されるのはいつもの面々である。
ネリネバハンガ、バンザイ、フレア、ホブノブのポート・ペリル組5人に加えて、もともと商船に乗っていて降伏してきた傭兵のヴァンリートを加えた6人が水を探すために島に派遣される事になった。渡された水樽をいっぱいにするまで帰ってこなくて良いということである。どうやらヴァンリートもMr.プラッグのブラックリストに載せられてしまったらしい。可哀想に。
 
一行がボートに乗って島に向かうと、海面に怪しい物体が点在しているのが発見された。それはどうやら人間の骸骨で作られたモニュメントのようで、かなりの数が間隔を置いて設置されている。骸骨には海草がこびりついているが、その下には何か怪しいルーン文字が掘り込まれているようだ。一体誰が作ったのだろうか?少なくともこの島が無人でない可能性が高くなってきた。
骸骨を調べようというやる気のある人物はいなかったため、一行は怪しい骸骨に近づくのは避け、間を縫うようにして島に接近した。海岸線沿いに進んでいくと、村落を発見。しかし、しばらく観察しても人影が全く見えないし、建物などもかなり傷んでいる。放棄されてかなりの年月がたっているようだ。
とりあえず安全そうに見えるので、村落から上陸してみると、はたして村は無人で、何も残っていなかった。
人が生活するには水が必要不可欠である。であれば集落の傍には水場があるに違いない。そう考えた一行は集落付近の探索を開始。なかば埋もれかかった道にそって島の奥に進んでいくことに。
しばらく進むと大きな水溜りを発見。道は更に先に続いているようだが、渡されていた橋は既に崩壊しており、橋桁だけが点々と残っている状態である。水底は深く泥が積もっており、所謂底なし沼状態のようだ。左右を見渡してもずっと水溜りが続いており、見渡す限り渡れそうなところはない。
念のため水が飲めそうか調べてみたが、泥混じりの上、おそらくは地下を通って海水が染み込んで来ているようで、塩辛くてとても飲めたものではなかった。
結局、橋桁が残っている分、他のところよりはマシだろうということで、この場所から渡河を試みる事になった。持ってきた水樽は、空っぽの今なら浮かべてロープで引っ張れば何とかなりそうだ。帰りのことは帰りに考えよう。
そうと決まったところで、短気なバハンガが早速橋げたの上を渡り始めた。橋桁は1mから1.5mぐらいの間隔で並んでおり、慎重に渡っていけば何とかなりそうだった。ネリネ婆さんはそれでも厳しそうだったが、まあ、気合で頑張れ。
しかし、順調だったのは途中までだった。バハンガが3分の1ほどを渡ったところで、沼の中から大型犬ほどもある巨大な蛙が2体現れたのだ。どうやら彼らはバハンガを適当な餌とみなしたらしく、長い下を伸ばしてバハンガを絡めとってしまった。
バハンガは水中に引きずり込まれ、助けに向かおうとしたバンザイももう1匹の蛙に捕まってしまう。しかし、バハンガを捕まえた方の蛙はネリネのSleepで眠らされ、バンザイの方は逆に近づいて蛙を殴り倒してしまった。眠らされた蛙の方も、この後、全員で石をぶつけて止めを刺した。
倒した蛙は久しぶりの新鮮な肉としてありがたくいただく事にして、適当に切り分けた後、一行は水を求めて更に奥地へと進むのであった。