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第一話

第一話アンコラトー島


 物語の背景

Andoranは自由の国である。数十年前に有力な商人達を中心として市民革命が起きて以来、この国では商人の力が強く、またその自由の文化を様々な場所に広めることにも関心が高い。
そのような試みの一つなのか、Bountiful Venture Companyという投資会社がAndoran政府と組んで始めたのがArcadiaに開拓地を作るという事業だった。
Andoranは昔、Taldorの一部だった頃にも似たような事業を試み、Sun Temple Colonyという開拓地をAzlantの廃墟に打ち立てていた。しかし、最終的に開拓地の住民とは連絡が取れなくなり、事業は失敗に終わったということになっている。
そういった事例があるにもかかわらず、開拓地での新しいチャンスやAzlant帝国の遺跡・秘宝という魅力に引き寄せられ、何人もの若者がBVCの開拓者募集に応募するのだった。

 PC

オーキッド
由緒あるデラマンチ家の一員で、今回の開拓計画の隊長に任命された。少しずれた所もあるが、頼れるソーサラー(ただし全身鎧)。
ウルバノ
漁師出身の若者。力仕事が得意。
ヴィクター
華麗な剣捌きで、大人な対応のスワッシュバックラー。力仕事も得意。
イスカ
野外活動と占いが得意なシャーマン。力仕事も得意。
トレイシー
コミュ力高めの若いウィッチ。使い魔のエメラルドは、悪食な恐竜。
アルコル
普段は人当たりの柔らかな神官だが、夜になるとたき火を前に月に向かって怪しげな祈りを捧げる滅びの神の崇拝者。

 面接

PC達はBVCが募集をかけているアルカディアの開拓計画にそれぞれの理由で志願していた。全員が集められた共通説明会では、以下のような現状が説明された。

  • 開拓計画は、Andoranも国として支援している半官半民の事業。
  • アルカディアの島を開拓し、その農業成果や木材等を独占貿易することで成果を得るというのが最終目的。
  • 計画は、二年前にアンコラトー船長が率いる調査船団を送るところからスタートした。
  • 結果、中央に火山があるものの、開拓が可能そうな直径16kmの島、アンコラトー島<Ancorato island>が発見された。
  • 島へは船旅で約6週間。既に、第一次の船が派遣されてから4ヶ月が経過している。今回の派遣は、第二次の派遣となる。
  • 第一開拓団は100人規模、今回は50人規模が予想されている。第二開拓団が到着する頃には、現地には畑や井戸等のインフラは整備されていることが予測される(現地からは連絡手段が無いので、特に状況は分からない)。そのため、第二開拓団は現地に着いてから四週間分の食料と、第一開拓団に必要な資材を持って出発する。船の代金、食費はBVCが出す。
  • 第二開拓団の到着後、3ヶ月後に再度船が到着する予定なので、気に入らなければ帰っても良い。
  • 既に第一開拓団がある程度確保しているだろうが、第二開拓団も開拓した土地を所有できる権利を持つ。
  • 開拓団の団長は、BVCにも出資しているデラマンチ家のオーキッド殿である。前の団長、イーグルナイトのアークリー殿は副団長として現地に留まる。

その後、個人面接が行われたのだった。

オーキッド

「話は聞いていると思うが、私がオーキッドです。よろしくお願い申し上げる。」
「もちろん伺っております。我々のほうもご紹介したい人物がいます。副団長のラモナです」
部屋に入ってきたラモナは20代半ばに見える真面目そうな女性で、少しびっくりしたような様子で、オーキッドと握手した。
「初めまして、ラモナです。失礼ながら、思ったよりもお若いので、少々驚いてしてしまいました」
「若さゆえ、経験が足りないところも多々あるでしょう。開拓の成功のため、ぜひお力添え頂ければと思います。ラモナと呼んで良いかしら?」
「はい。私も、オーキッドと呼んでもよろしいでしょうか」
「もちろんです、よろしく、ラモナ」

トレイシー

「…トレイシーさん、あなたは何が出来ますか?」
「はい、私は服とか作るのが得意です。」
「服ですか。でも、現地には布とかもありませんから、それを作るところからになりますかね」
「あーそうなんですか。あと、一応魔法使いなんで、回復呪文とかも使えますね」
「なるほど、それは素晴らしいですね。採用です」

イスカ

「…イスカさん、あなたは何が出来ますか?」
「私はシャーマンでして、治癒等の魔法が使えるほか、自然に関する知識やサバイバル技術もあります」
「シャーマンですか。そうすると占いとかも出来ますか?」
「そうですね。占いや、幸運を呼ぶ儀式などもできますよ」
「占い、大事ですよね。採用。」

ウルバノ

「…ウルバノさん、あなたは何が出来ますか?」
「俺は漁師なんで、魚が取れます。あと、腕力にも自信があります」
「魚大事ですね。採用。」

ビクター

「…ビクターさん、あなたは何が出来ますか?」
「剣の腕には少々自身があります。最初は島にも危険も多いでしょうから、用心棒としてお役に立てると思います。また、遺跡があるらしいという話も聞きまし、遺跡探索にも荒事が出来るメンバーは必要でしょう。人が増えれば、何かとトラブルも起きると思います。そんな時には自警団として仲裁にあたることも出来ます」
ビクターがすらすらと答えると、面接官達は感心したようだった。
「いやまったくおっしゃるとおりです。採用とさせて頂きます」

アルコル

「…アルコルさん、あなたは何が出来ますか?」
「私は遺跡とかが好きなので、そこの探索に一緒に行ければ、と思って応募しました。あと、一応冠婚葬祭とか、回復呪文とか使えますかね」
「なるほど、クレリックということですか。実は、開拓団には既に二人ほどクレリックの方々が内定しておりますので、ご紹介しますね」
そう言って、ハーフエルフと人間の男が呼ばれてきた。イアモン、カービスと名乗った男達は、それぞれエラスティル、アバダールの神官らしい。二人は、アルコルに仕える神を尋ねた。
「フフ、私が使える神はこういう者です」
そう言ってアルコルが懐から取り出したホーリーシンボルは、月の表面にうっすらとドクロのような文様が浮かぶものだった。神官達は3秒ほど固まった。これは、空虚、忘却、廃墟の神にして終末の時を告げる者、グロータスのホーリーシンボルではないか!
イアモンは突然呪文を唱え始め、目の前の男が悪では無いことを確認したようだった。何も気にしていないかのように、アルコルは言った。
「アンドーランは自由の国、私がどのような神を信仰しようと、それだけを理由に咎められることは無いでしょう。そして安心して下さい、私は、『布教活動』には何の興味もありませんから」
イアモンはまだ何か言いたそうだったが、カービスが遮って言った。
「分かりました、今はあなたを信じましょう。癒やし手はどんなにいても多すぎるということは無いですし、イデオロギーが無いというのもある意味好都合ですからな。この人は採用して良いですよ」
BVCの面接官は、少し不安そうな顔をしつつも、書類に採用と書き込むのだった。

こうして面接は終わり、この6人を含む約50人の開拓団メンバーが選ばれたのだった。

 船旅

出港

アルカディアへと向かう船は放浪号<the peregrine>という船である。出港の日、開拓団のメンバーは桟橋に集まって、乗船を待っていた。
その時、港の向こうから馬が駆ける音が聞こえてきたかと思うと、全身に鎧をまとい、腰にロングソードを帯いた騎士が桟橋に駆け込んできた。騎士はひらりと馬から飛び降りると、重さに少しつんのめりそうになるも持ちこたえ、兜を脱いだ。その中から現れたのは、若くてかなりの美人とも言える、自身に満ちた少女の顔だった。
それを見ていた放浪号の船員は、(馬…馬をどうするつもりなんだ!?連れて行くのか!?)とドキドキしていたが、少女が指をパチンと鳴らすと、馬はまるで元から存在していなかったかのようにその姿を消した。驚く人々を前に、彼女は声を張り上げた。
「ごきげんよう、わたくしがこの開拓団のリーダーを務めさせて頂く、オーキッド・デラマンチです。…皆さんは、幸運です。なぜならば、このわたくしが団長を務めるこの開拓団の一員として選ばれたのですから。私が率いるからには、この開拓事業はアンドランの歴史に残る偉大な事業となり、後世に語り継がれることになるでしょう。そして、皆さんの名もまた、このオーキッドと共に偉業を成し遂げた人々の名として歴史に刻まれることになるのです!」
雰囲気に押され、開拓団のメンバーからは大きな拍手と歓声が巻き起こった。指笛を鳴らして野次る男もいる始末である。そして、乗船が始まった。
オーキッドがラモナと話をしていると、しゃれた身なりをした男が一人近づいてきた。
「オーキッド・デラマンチ殿、素晴らしい演説でしたな。私はハーコート・キャロルビー。キャロルビー家の代表としてこの開拓団に参加する者です。以後お見知り置きを」
キャロルビー家は、BVCに出資している別の名家である。オーキッドが少し警戒するような素振りを見せると、すかさずハーコートは、「デラマンチ家もこの開拓団に出資しているということはもちろん存じております。まぁどちらが上というのでも無し、お互い食い合わないように仲良くやろうじゃありませんか。…それより、開拓団の参加者を見てあなたはどう思いましたか?」
「どう、とは?そうですね、多様な人材が集まったのではないかと思いましたが」
「ほほう、さすがデラマンチ家のお嬢様、上品な物言いをなさる。僕に言わせれば、小さな権利を求めて必死になっている雑多な貧乏人共ですよ。正直、ああいう下賤な奴らと一緒にいるとこっちも貧乏臭くなってしまう。ここは上流階級同士、仲良くやって品位を保とうじゃありませんか」
ハーコートはこう言って、去って行った。パスファインダー協会で身分とは無関係の仕事も経験しているオーキッドは、(上流階級にはああいった輩もいるのは知ってはいますけれど、まぁ仲良くはなれないわね…)と心の中で思うのだった。
こうして、最後にオーキッドとラモナを乗せた船は、様々な思惑の人間達を乗せてAlmasの港を出港するのだった。

航海

船の中では、人々は船室にこもり気味で、それほど様々な交流が行われたわけでは無かったが、だんだんとどういった人が目立つのかということは分かってきた。
例えば、ハーフエルフのエラスティル神官イアモンは気さくな人柄で冗談も多く、「お気楽坊主」とみんなに呼ばれるようになった。その幼なじみらしいアバダール神官のカービスはもっと無愛想だったが、彼等はお互いにいつも悪口を言い合っているような、不思議な関係だった。
イスカは、船室が同じだったトレイシーと仲良くなっていた。そのトレイシーは、とりあえず開拓団の全員と話をするのが目的らしく、毎日色々なところに行っては相手を選ばず話しかけていた。その中でも、アルコルという神官は、表面上は穏やかに対応してくれるものの、話に全く興味が無いらしく、「火が燃やせないと祈りを捧げられないなぁ」と上の空で独り言を言い始めるのだった。そのうち、トレイシーも話しかけるのをやめた。また、メドリアンナというトレイシーより少し若いくらいの子は、半ば無理矢理両親に連れてこられたらしく「絶海の孤島に行くなんて、全く正気じゃ無いわ!」と毎日文句ばかり言っていた。
他にも、ドワーフ錬金術師のアルバ、ショアンティ人のハンターのアーニャ、戦士のカーバー、ヴィクターあたりが腕が立ちそうな人物として一目置かれていた。ヴィクターは、さらに自分よりも腕の太い人物として、漁師だというウルバノに目をつけていた。もめ事が起こったら、あいつは使えるかもしれない。
オーキッドは、何かと絡んでくるハーコートを適当にあしらいながら、BVCの社員であるライラ、パーレル(二人とも調査探検の専門家として派遣されているが、やり方と性格が反対なので互いにライバル視している)と、ラモナと一緒についてからの計画などを検討していた。ラモナは、第一開拓団にも付き添い、島の近くまでは行っているということだった。
アンコラトーまでは、予定通り6週間かかったが、その間に特に大きな問題は起きなかった。そして、島の影が水平線の向こうに見えてきた。

不吉な予感

オーキッドが船首で近づいてくる島影をわくわくしながら眺めていると、ラモナがやってきて無言で単眼鏡を渡した。
オーキッドはそれで開拓地の建物が出来ているのを見て、まぁ細かい船の進め方とかはラモナが見てくれるんだろうと思ってさくっと単眼鏡を下ろすと、ラモナが
「気がつきましたか。」
と冷静な声で言ってきたので、何も気がつかなかったオーキッドは慌てて単眼鏡を構え直した。そして見渡してみると、
「あれ、人がいない!」
「大きな声を出さないで下さい。他の面々に知れると動揺を呼びます。続きは船長室で。」
ラモナとオーキッドは船長室を閉めきり、今後の対策を話す。
「ラモナ、私は少し離れたところに停泊して、斥候を出すのが良いと思います」
「それには賛成ですが、開拓団の皆さんにどうやって停泊を説明されるおつもりですか?
「そのまま説明したらだめなのですか?」
「100人もの人が消え失せたと知れれば、人々の士気は大きく落ちて、このままAlamasに帰る、といった声も上がる可能性があります」
「ふーむ…。しかし、いずれにせよ斥候は必要でしょう。ライラとパーレルを呼んできてください。」
「…分かりました、説明する方法は、私が考えましょう」
しばらくすると、ライラとパーレルが船長室にやってきた。話を聞いた二人は青ざめた。
「えーと、私たちが偵察に行くんですか?」「そんな危険そうな所にですか?」
「そうです。話を広めるに訳はいきませんから、BVCのお二方にお願いしたいのです」
「…あの、私よりも適任な人を知っています。腕が立って、ちゃんとした人です」
ライラはこう言って、ヴィクターを連れてきた。ヴィクターは、
「なんと、それは大変だ。俺一人ではなんだから、腕の太いやつをもう一人連れて行こう」
こうして、ウルバノが連れてこられた。
「神官も一人行ってもらいたいところですね。イアモンか…いやあいつは口を閉じていられそうに無いから…そうですね、あの無口なアルコルという男にしましょうか」
こうして、アルコルも連れてこられた。
一方その頃、ラモナはイスカとトレイシーの部屋を訪れていた。
「イスカさん、トレイシーさん、占いは出来ますか。実は、船がどういう方向から島に近づくべきか、占って欲しいのです。」
イスカは幸運の精霊を信奉するシャーマンであり、占いや幸運のまじないの類には詳しい。
「確かに、事業の最初の一歩ですから、方角は大事ですね。占いましょう」そう言って、袋から色とりどりの石や枝を取り出して占いを始めた。一方トレイシーはあまり占いには詳しくなかったが、昔教わった魔女のお茶の葉占いを思い出して、飲んでいたお茶で占いを始めた。
たまたま、二人の占いは一致して、船は西から島に近づくのが良い、ということになった。ラモナはその結果を見て満足したようで、去って行こうとしたが、途中で思い出したように、
「そうだ、お二人にお願いがまたありますので、後で船長室に来て頂けますか?」
びっくりした二人がうなずくと、ラモナは今度こそ去って行き、その足で船長のところに向かって、進路の変更を告げた(船長「…占いならば仕方ありませんな」)。そして船長室に戻ってくると、なにやら人数が多くなっていた。ラモナは状況を整理して言った。
「それでは、ヴィクター、ウルバノ、アルコルを連れて、我々は開拓村に上陸しましょう。船は、一度西に向かい、西に船を着けて人を下ろし、そこから徒歩で開拓村に向かうことにします。船は、その後荷物を持って再度開拓村につけ、荷物を下ろします」
「え、我々、というのは、ラモナも行ってしまうんですか?」とオーキッドは少し不安そうに言った。
「…『団長は』行かないんですか?」とラモナ。
「あ、いや、その…団長と副団長が両方いないというのはまずいでしょう。…わかりました、私が行くことにします。ラモナはここに残って指揮を取ってください」
「承知しました。そうそう、先ほど占いをしてくれた二人にも一緒に行ってくれるように頼みました。占いは、大事なので。」
「そうですね」

こうして、事情の説明を良く受けていないイスカとトレイシーを加え、オーキッド、ヴィクター、ウルバノ、アルコルら6人の調査隊は、ボートに乗って放浪号から開拓村へ向かってこぎ出したのだった。

 タルマンドールズ・バウンティ

上陸

一行の中でも力の強い(ことが判明した)イスカとウルバノがオールを漕いで、ボートは進んでいく。透き通るような水のエメラルドグリーンが美しい。
水深5ft.位の所まで来ると、オーキッドは木製のカヌーが水面下に沈んでいるのを見つけた。
「止めなさい。」
しかし上から見ても良くは分からない。オーキッドは調べたそうにしていたが、他の人々は早く陸に上がろうと進言し、オーキッドも納得したためにさらにボートは進んだ。
その時、小さなサメのような生き物が2匹、ボートに向かって突進してくるのをトレイシーが見つけた。よく見ると、その下半身はタコのようになっており、また上半身には腕もついていて、小さな槍を持っている。
トレイシーが眠りの呪いをかけるも、タコ鮫には効かず、逆に船のわきにつけてきたそいつらにトレイシーとアルコルが攻撃された。が、その後、座ったまま背負っていた杖でイスカがタコ鮫の頭を殴ると、鈍い音がしてタコ鮫はプカンと力なく浮かんだ。そして同じく座ったままウルバノが斧を抜いて一閃すると、タコ鮫のタコと鮫は分離し、あたりの海を血で染めた。こうして、大きな被害も無くこの島での最初の戦いは終わった。トレイシーの使い魔のエメラルドは、イスカが叩いたタコ鮫の死体を引っ張り上げて食べようとしていた。
その後は何事も無く、ボートを桟橋につけることが出来た。

無人の開拓村

ボートから下りると、そこは久しぶりの陸地だった。船に乗り慣れない人達は、まだ体がぐらぐらする。そして、陸に上がるとわかるのだが、そこは太陽がさんさんと降り注ぐ南の国であり、猛烈に暑かった。アルコルとトレイシーは、熱にやられて、少しぼーっとしていた。
全身鎧で騎士風の格好をしたオーキッドは、暑さにもめげること無く、隊列を整えて村の中心地に向かって歩き出した。

村は、小高い場所に半分くらいまで柵で囲われたいくつかの大きな建物があり、その周辺に畑や、小さめの家が広がっている構成で、一部テントも残っていたが、住む場所についてはかなり出来ているという感じだった。そして、もちろんそこには人っ子一人いなかった。
最初に入った家は、鍛冶屋のようだった。鍛冶屋は道具も置きっ放しで、慌てて逃げ出したかのような雰囲気を醸し出していた。
鍛冶屋の隣はログキャビンスタイルのチャペルで、あまり使われておらず、人が最後に入ったのはずいぶん前のことのようだった。壁には弓がかかり、壁際にある台座には、エラスティルの像が飾ってあった。また、壁には神棚があって、アンドランの守護天使、タルマンドールの像も飾ってあった。
寺院の床をよく見ると、人が争ったような後と、血痕が見つかった。血痕を追っていくと、像の置いてある台座の前まで続いている。この台座は動かせるのでは無いか?イスカが台座を動かすと、台座の裏は中空で、その中には腐りかけのローブを着た死体が入っていた!
一行が死因を調べるかどうか議論をしていると、オーキッドとイスカは背筋が凍るような感じがした。見ると、死体の上空に、顎の外れたされこうべのような半透明のものが浮かんでいる。そいつが恐ろしい叫び声を上げると、ウルバノとトレイシー以外は恐怖のあまり逃げ出してしまった。また、そいつは、逃げるオーキッドの背中に念動力でエラスティルの像をぶつけてきた。ウルバノは、とりあえず斧で切ってみたものの、手応えが無いので逃げることにした。
アルコルの話によると、あれはポルターガイストという幽霊で、魔法の武器でなければ倒せないらしい。よしんば倒せたとしても、恨みの元を絶たねば何度でも甦るとのこと。とりあえず、寺院から出てくることは無さそうなので、放置することにした。

その隣の建物は、泥棒が入ったような感じで、家具が散らばっていた。探すと、「リヴィへ」、と刻印された金の指輪と、鉄のチェストがあった。オーキッドはいそいそと鎧を脱ぐと(※ACPの軽減)、なれた手つきでチェストにかかっていた鍵を針金で開けるのだった。
…一行の間に、(本当に上流階級のお嬢様?)という疑問符が浮かんだが、オーキッドは、
「私はパスファインダー協会にも所属しているので、こういった仕事も色々経験しているのです」と何事も無かったかのように鎧を着直していた。
チェストの中には、お香や銀の粉など、呪文のマテリアル・コンポーネントのようなものが小袋に分けられて入っていたが、とりあえず戻した。

その隣の家は、表札に「アークリー」と書いてある。この時オーキッドは即座には思い出せなかったが、第一開拓団の団長の家のようだ。
ここは家が荒らされておらず、木製の家具や、武器用のラックなどが置いてあった。ここは、神殿と比べると比較的最近まで使われていたようで、埃の積もり具合などは薄かった。オーキッドが調べると、梁の上に開拓団のチャーターと、名簿が見つかった。
また、椅子にはまだ動いているコンパス付きの銀のゼンマイ式ポケットウォッチと、ウナ・ヘンドレイクと署名のあるSpellbookが置いてあった。

その隣、開拓村で一番大きそうな建物は二階建てで、集会所か何かだったようだ。1階には木で出来たチェストがあって、中には開拓村の作業計画と進捗が記されたドキュメントがあった。記録は、1ヶ月程前で途切れており、さらにその1週間くらい前から、内容がほとんど無くなっていた。さらに、最後の4pg位がナイフで切られていることも判った。一方で、村人消失の手がかりになるような情報は得られなかった。

二階に行こうとすると、オーキッドは目玉に足がついたような変な機械が、上からこちらを見ているのに気がついた。慌ててオーキッドとイスカが二階に追いかけるが、目玉は突如羽を生やし、窓から飛び立っていった。しかしイスカが必中祈願をした後にジャベリンを投げると槍は見事に命中し、目玉は落下して地面に激突して動かなくなった。そしてウルバノがそれを拾って、みんなで調べようとすると、突然爆発するのだった。
オーキッドによると、アズラントには、こういった機械と魔法仕掛けのサーバントがいたらしい。コアに壊れた宝石が入っていた残骸はトレイシーが楽しそうに袋に詰めていた。

次の家は木造藁葺きの長屋だった。長屋の前には小さい穴がいくつも空いており、動物が開けた穴のように見えたが、穴からは酸っぱい臭いが漂っていて、普通の動物のようには思われなかった。
長屋の中を調べると、先ほどのスペルブックと同じ持ち主のカラースプレーのワンドと、魔法のタリズマンが見つかった。

その隣の建物は泥レンガ作りで、窓が無い。開けてみると、中ではハーブや肉が乾燥させられていた。何人かで入ると、アルコルがGが歩いているのを見つける。そしてふと上を見ると、何匹ものGが…。アルコルがGの群れに襲われて少しケガをしたが、オーキッドが扉をバタンと閉めると、Gが出てくることは無かった。…見なかったことにした。

さらにその隣は、開拓に使う道具がいっぱい納められた小屋だった。この小屋を見る限り、人々がどこか別の場所に意図的に移動した、という可能性は低いだろう…。

これで、中央の施設はほぼ調査し終えたので、周辺の調査に向かう。まず、テント場で、ポーションや魔法のシャツなどを見つけた。また、近くの畑に向かうと、どうやらトウモロコシを育てようとしていたみたいだが、雑草だらけになっており、また動物に荒らされたような痕も見つかった。

次に、農家らしい建物が密集している場所に向かうも、建物内にめぼしいものは無く、その近くの畑にもトウモロコシが枯れているだけであった。
と思った瞬間、枯れたトウモロコシから花粉が舞い上がり、イスカなどは目が見えなくなっていた。花粉が収まった後には、鋭い葉の生えた三本のツタ的なもので攻撃してくる不気味な植物が立っており、ヴィクターが切り刻まれそうになるが、うまくバックラーで受け流していた。しかし1回命中してしまうと、その切り口は鋭利で流血が続くようだ。一行は少し色めき立ったが、次の瞬間ウルバノの斧がナゾの草の幹を真っ二つにし、脅威は去った。なお、その草に殺されたらしい、ゴブリンの骨も見つかった。
この畑の近くに椰子の木があったが、その根元から箱が顔を覗かせているのにオーキッドが気がついた。箱の中を改めると、先ほどの日誌から切り取られたと思われる羊皮紙に、手紙のようなものが書いてある。内容的には、先ほどのスペルブックの魔術師から誰かに宛てたもので、団長のアークリーが乱心したため、そいつから逃げるように指示する内容だった。しかし、状況が良く分からないため、何が起こったのかまでは理解できなかった。

町外れにも、家が一軒建っているのが見えたので行ってみる。そこにはレヴィンの農園と札か下がっていた。建物の周りには、人型らしき小さめの生き物が歩き回った後があり、足跡は中に続いている。用心しながら扉を開けると、その中には大きな酒樽があり、灰色の体をした裸の人型の生き物が酒を飲んでいた。ヴィクターが声をかけると、こちらをぎょろりと振り向く。その顔は口が裂けており、とても人間には見えない。
化け物は酔っ払っているようだったが、さっと立ち上がると腕を伸ばしてヴィクターに殴りかかってきた。その後、トレイシーの邪眼で弱体化されたところ、オーキッドがワンドからカラースプレーを発動して化け物は気絶し、結局ウルバノに切り倒されていた。

…これで、村はあらかた調べ終わった。村から歩いて大勢で出て行ったのだとしたら、足跡が残っているだろうとあたりを調べ回る。また穴が空いている場所があり、そこでアンクヘッグに襲われるが、これもオーキッドのカラースプレーで気絶したため、事なきを得た。アンクヘッグの生息地には骸骨が1体分あり、そいつがしていた魔法の指輪には、エドウィンフォックスと名が刻んであった。
しかし、大勢の足跡らしいものは見つからなかった。

他に出来ることも無くなったので、最初にスキップした船を引き上げに行くことにした。ウルバノが潜っていくと、逆さになった船の中から大きなカニの爪のようなものが見える。あわてて引き返すが、カニは襲ってきた。カニのように見えたのは、手にカニのはさみがついた謎の人型の生き物だった。そいつはアクアンが喋れるようで、オーキッドが取り直すと、判ってくれた。村人については詳しくなかったが、船は村人達の手で沈められたとのことだった。

次に、死体を埋葬すれば良いかもということで、ポルターガイストのところに再び向かう。イスカのUnnseen Savantで死体を引きずり出すも、なんとポルターガイストは昼間の光の中で出てきて、あたりの石を念動力で投げ始めた。
ヴィクターが、「こっちの言葉がわかるなら、何をして欲しいのか教えろ」と言うと、ポルターガイストは砂に、「何故自分が殺されたのかを知りたい」と書いてきた。ヴィクターが、「今調査中だ」的なことを言うと幽霊は怒ってまた石を投げ始めたので、手がかりを求めてもう一度神殿の中に入り、扉を閉めた。
結局何があったのかは判らないが、祭壇で、エラスティルの経典と、オン・ガバメントとという、昔よく読まれた市民革命に関するベストセラー本が焦げているのが見つかった。また、死体については、背中からぶすぶすと刺されており。信頼していた人から奇襲を受けたのが見て取れる。
適当な推測をブラフしてみたが、通じず、ここも放置することにした。ポルターガイストは、念動力でまた死体を元の場所に隠していた。

 放浪号との合流

これで、本当に出来ることは無くなったので、一通り村から価値のありそうなものを回収し、本隊と合流するために西へ向かうことにした。船から見えた地形を元にイスカが占う(=Survivalする)と、なるべく海岸沿い、でも基本直進が良い、という結果となり、その通りに進むことになった。
途中、川にぶつかったが、水量はたいしたことが無かった。その時、遠くに人影が見えた。緑色の服を着た人に見え、声をかけたが、無視されたので深追いはしなかった。
そうして歩いているうちに日も暮れたので、野営することにした。野営にはウルバノとイスカがなれていたのでてきぱきと準備が進んだが、蚊の多さは想像以上で、夜はかなり寝苦しいものとなった。
一人、久しぶりにたき火を焚いて、グロータスへの正式なお祈りが出来たアルコルだけがハイテンションだった。同じ2直だったヴィクターはそれを微妙な目で見ていたが、関わり合いになりたくなかったので気づかないふりをしていた。

翌朝、歩き出した一行は、また森を抜けて砂浜に着いた。ふと見ると、砂浜に、村でも見たクロックワークと思われるクリーチャーが、群れを成して転がっているでは無いか。クロックワークは完全な球体のように見え、ころころと転がっていたが、草地に入るとグリップが効かないのか空転を始めた。しばらく見ていると、突然球体からスパイクが生えて、草地を猛烈に転がって、島の中央にある火山のほうに向かって行った。あそこに、何かがあるのだろうか。

火山から目を戻すと、なんと放浪号が目の前の海を航行しているのが見えた。これは予定よりも大分遅い。
のろしを上げると、向こうも気がついてくれたようで、ボートを出してくれた。
船に戻って話を聞いてみると、突然進みが遅くなったが、思い当たる理由は無いとのこと。一応海中も調べたという話だったが、ウルバノの再度調べてもらうことになった。ウルバノは戻ってきて、何も無かったと報告したが、いや、やはり何かいるのでは、ということで、目の良いイスカを連れて再度ダイブ。イスカは、船の下に変なコバンザメのような生き物がくっついているのを見つけた。
なにやら良く分からないが、多分そいつらが原因だろうということで、改めて全員で潜る。トレイシーの睡魔の呪いが効果があって、2体とも眠った所をウルバノがずんばらりした。死体を船に持って帰ると、船長がびっくりしたように、これは船乗りの間で有名なエケネイスという化け物で、こいつが1匹とりつくと速度が半分に、2匹で1/4になるという速度を食う生き物だということであった。

ラモナは、船の速度が遅くなっていたことで、開拓団のメンバーにも不満がたまっていたことを説明し、オーキッドに演説をしてくれるように頼んだ。
オーキッドは、槍に刺さったエケネイスを持って人々を集め、語った。

「皆さん、船の速度を落としていたのは、この伝説の怪物エケネイスです。私と勇敢な有志の方々の手により、怪物は屠られ、船は今まで以上のスピードで上陸地点に向かっています。そして、その地には私の名を冠したあたらしい開拓村が出来上がることでしょう。そうです、皆さんは、第一開拓団が作った村の隅に住まわせてもらうのでは無く、新しい土地を0から自分たちで開拓するのです!」

突然の宣言に、人々は驚きを隠せないようで、ざわざわと話し合っていた。オーキッドはラモナに船長室に引っ張り込まれた。
ラ「演説ありがとうございました。が、新しい村を作るという話は聞いていないのですが、どういうことなのでしょうか」
オ「だって、あの村、タルマンドールズ・バウンティに何があったのかは結局判らずじまいでしょう。アンクヘッグやポルターガイスト等もいるわけですし、あそこに住むのは危険だと思います」
ラ「...とはいえ、この50人でイチから村づくりをするのは、それはそれでかなり過酷な話ではありませんか?人々も戸惑っています。」
オ「それに、どうせなら私の名前がついた開拓地に住んでみたいと思うし...」
ラ「(怒)...分かるように説明してください」
オ「じゃなくて、100人の人がいなくなった曰く付きの村で暮らすというのも、それはそれでそうと分かればあまり気持ちの良いものでは無いでしょう?反対する人出てくると思いますよ」
ラ「それは、確かに。では、タルマンドールズ・バウンティの人々は、あの場所に住めない理由が出来て、どこか他の場所に移動した、ということにいたしましょう。それであれば嘘とは言えないですし、あとで合流することになったと説明しましょう。いずれにせよ、いなくなった人たちを捜索しないわけにはいけませんからね。」
オ「いいですね。では、そのような方針で。」

こうして、不安な開拓民達を乗せた船は、上陸地点に近づいていくのだった。果たして、上陸地点には何が待ち受けているのか。そして、消えた第一開拓団の運命とは。
(つづく)