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第0話の変更点

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!!第0話「村」
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!本の記憶
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ケリアンが覚えているのは、居心地のいい図書室。そこで、ケリアンは誰かに魔術の手ほどきを受けた。
「ここにあるのは人間の進歩の歴史。それをあなたは学ばなければならない。」そう言う誰かの顔はおぼろげだ。ただ、その優しさだけが記憶にある。
「いつか、あなたは彼がやり残したことを引き継ぐ運命にある。これはそのために必要な知識だ…」
記憶の中のケリアンは難しい呪文を本から自分の呪文書に書き写していた。
しかし、物心がついたときからケリアンは村にいた。村で本が揃っているところと言えばモルガンの家くらいで、あんな図書室が村に無いことは確かだった。
だが、その記憶が夢で無い証拠に、やはり物心ついたときから、ケリアンの脇にはいつもあの呪文書があった。モルガンが言うには、その呪文書は珍しい魔法の呪文書らしい。呪文書には呪文が書き込まれているようだったが、ケリアンはそれを読むことはできなかった。
魔法は気にはなったし、モルガンもケリアンに魔法を教えたいようだったが、なんとなく教わる気がしなかった。モルガンも無理に教えようとするでもないので、ケリアンは彼女の家に出入りし、そこにある本をマイペースに読んでいた。本は、いくら読んでも飽きなかった。そんなケリアンをスピーディは「根暗」などと揶揄するが、ケリアンは気にする風でも無かった。

!裂け目への落下
''AR4706''
オーディーの両親はなにかのグループに所属する魔法使いにして学者で、「亀裂」というものを調査していた。亀裂はこの世界を別の世界に繋いでしまう危険なものだそうで、それを見つけて塞いだり、それが出来てしまう理由を探すのが仕事だと言うことだった。
小さい頃はKyoninという国にいたそうだが、オーディーが物心ついてからは両親は彼を引き連れてずっと調査の旅に出かけていた。エルフの父親は凄腕の魔法使いで、何かがあって呪文を使い尽くしたときに野宿する以外はMagnificent Mansionで寝泊まり出来たので、オーディーは旅を辛いと思ったことはなかった。夜になると、父親はオーディーに秘術の技を、また人間の母親は剣の使い方や罠や鍵の仕組みについて教えてくれた。
そんなある日、オーディーは両親と一緒にどこかの洞窟を歩いていた。その洞窟で、両親は何か凄いものを見つけたらしく、興奮していた。仕事の邪魔をすると怒られるので、オーディーはいつものようにおとなしく両親の動きをながめていた。すると、何かの文様を解読する母親の後ろに、突然赤い色をした人型の化け物の群れが現れた。「母さん、危ない!」オーディーは叫んだ。
慌てることもなく、父親はオーディーをResilient Forceに閉じ込め、化け物目がけてCone of Coldを放つ。母親も氷付けになった化け物に剣を抜いて斬りかかった。慣れたといるほどではないが、戦いは何度も経験している。落ち着いて見ていると、化け物の中に一匹だけ、黒い剣をもったひときわ強そうなやつがいた。そいつは母の後ろから忍び寄り、黒い剣を突き刺す。母が膝をつくと、そいつは剣を抜いて笑った。その時、母が調べていた文様が突然光って、辺りが震えた。良くは分からないが、その化け物が近づいたことで何かが起こったようにオーディーには見えた。黒い剣の化け物は驚いて、周りを見回すと、慌ててテレポートして消えさった。父親も異常事態には気がついたが、引き続き襲いかかる他の化け物の相手ですぐには対応できない。そうこうしているうちに、文様は最後の光を放って消え失せ、そして洞窟の足下に大きな亀裂が口を開けた。
慌てることもなく、父親はオーディーをResilient Forceに閉じ込め、化け物目がけてCone of Coldを放つ。母親も氷付けになった化け物に剣を抜いて斬りかかった。慣れたというほどではないが、戦いは何度も経験している。落ち着いて見ていると、化け物の中に一匹だけ、黒い剣をもったひときわ強そうなやつがいた。そいつは母の後ろから忍び寄り、黒い剣を突き刺す。母が膝をつくと、そいつは剣を抜いて笑った。その時、母が調べていた文様が突然光って、辺りが震えた。良くは分からないが、その化け物が近づいたことで何かが起こったようにオーディーには見えた。黒い剣の化け物は驚いて、周りを見回すと、慌ててテレポートして消えさった。父親も異常事態には気がついたが、引き続き襲いかかる他の化け物の相手ですぐには対応できない。そうこうしているうちに、文様は最後の光を放って消え失せ、そして洞窟の足下に大きな亀裂が口を開けた。
両親も化け物もオーディーも、その亀裂に吸い込まれていく。その亀裂の先は、際限なく広がった、赤黒い空間で、気がつくと両親や化け物達の姿は見えなくなっていた。どうやら足下に向かって落ちているようだが、360度どこを向いても暗い空間が広がるばかりで、またResilient Forceの中にいるからか風も感じず、本当に落ちてるのかも判らなかった。
ただ、足下の方向には、黒い闇の中に光輝く巨大な網目状の格子が広がっているのが見えた。そして、その格子の中に、オーディーは何かを見た。その何かは、そこに閉じ込められていた。そいつの発する怒り、憎しみ、そして破壊の衝動は、言葉では言い表せないほどだった。このままでは、あそこに落ちていく。恐ろしくなったオーディーはResilient Forceを叩くが、いつもは頼もしい防護壁も今は牢獄に他ならなかった。怒りに燃え、オーディーは手から血が出るまで力場の壁を叩き、そして焦りと恐怖が最高潮に達したとき、フッと目の前が暗くなった。
気がつくと、オーディーは村のベッドで目が覚めた。傍らにいる角の生えた綺麗な、だが角の生えた女は、オーディーに水のカップを手渡し、彼が村の近くで倒れていたことを教えてくれた。
気がつくと、オーディーは村のベッドで目が覚めた。傍らにいる綺麗な角の生えた女は、オーディーに水のカップを手渡し、彼が村の近くで倒れていたことを教えてくれた。
オーディーは、黒い剣の化け物が母を突き刺し、そして文様が光ってどこかに落ちていったことを話した。その先のことはぼんやりとした恐怖としてしか思い出せなかった。ただ、そこで自分の中の何かが変わってしまったような、そんな気がした。
「近くに両親はいなかったでしょうか」
「倒れていたのはあなただけだった。あなたがなぜ助かったのかは判らないけれど、あなたのお父さんは力のある魔法使いのようだから、あなたを魔法で助けたのかもしれない。もしかしたら、すぐにもScry&Teleportで迎えに来るかも。」
だが、1週間たっても両親は来なかった。村にやってきたクラーダというClericが神託の呪文を唱えてくれたが、両親の安否は判らなかった。
オーディーは、今の自分の力では両親を探しに行けないことは判っていた。看病してくれた女はこの村の村長らしく、好きなだけ村にいていいと言ってくれた。オーディーは、村の魔法使いモルガンに師事して秘術の勉強を続け、いつか両親を探しに行く日を夢見るのだった。

!嵐の王と護り石
''AR4707''
サールディンはケナブレスと言う街に住んでいた。両親はOrder of the Holy Lightに所属する騎士で出掛けがちだったので、普段は祖父と暮らしていた。
サールディンが7才のある日。その日は、珍しく両親が揃って家にいる日だった。突然、外ですさまじい落雷の音と、獣のような吠え声、そして悲鳴が聞こえてきた。両親は、「家から出てはいけない」と言い残して、武器を取って出かけていった。
待てども、外の騒ぎは静まらず、両親も帰ってこない。…突然表の扉が開くと、一匹の赤い化け物が家の中に入ってきた。祖父は武器を取り、「お前は裏口から逃げてHoly Lightのギルドホールに行くんだ」と叫んだ。
言われたとおりに、サールディンは裏口から街路に出た。街にはデーモン達が溢れ、人々を襲っている。恐ろしさに震えながら、サールディンはギルドホールへと走った。
「こっちだ!」ふと、両親の声が聞こえた気がしたが、姿が見えない。サールディンは言いつけ通りギルドホールに向かおうとしたが、その声に助けを求めるような響きを感じて、声の方向に走り出した。その後も何度か声に誘われて辿り着いた先は、街の中心にある大きな広場で、そこには白い魔法のオベリスクがあった。これが、この街を守っているのだと祖父に聞いたことがあった。
そして、そのオベリスクの前には倒れた騎士達と巨大な赤い悪魔が立っていた。悪魔が剣を振るうと、また騎士が二人倒れた。それは、サールディンの両親だった。
「助けを呼ぶんだ、サールディン、Wardstoneを、これを砕かれるわけにはいかない…」そう言い残して、父は動かなくなった。
悪魔が言った。「なんと!クルセイダーが最後に恃んだのがTieflingの子供とは!フハハハハ。…助けを呼んだところで、来るわけが無いぞ。この街を守護するドラゴンは我が配下が足止めしている。そして、ここを守る騎士達はみんなお前の足下に転がっているのだ。」
「さぁ、どうする子供。助けを呼んでみるか?言っておくが、呼んでも呼ばなくても、あるいは逃げようとも、何をしてもお前はこの剣で切り裂かれる運命にある。この剣はなぁ、凄く良く切れるんだ。だが、痛みが無くすっと切れるわけでは無い。体が千に引き裂かれる痛みを触れられるだけで味わうんだよ」
しかし、サールディンはそれを無視して助けを呼びに走り出した。悪魔は、その後ろから無慈悲に切りつけた。しかしその瞬間、オベリスクが白く光って、サールディンの体も白く包まれた。恐ろしい剣はサールディンの背中を肩から腰にかけて切り裂き、その痛みは信じられないほどであったが、傷口から溢れた光がサールディンを癒やし、そして悪魔をひるませた。
「このStormkingの太刀をうけて立っているとは、おもしろい!貴様、このWardstoneの何なんだ?まぁいい、次はWardstoneごと砕いてくれる」
悪魔は、痛みと驚きで立ちすくむサールディンを、今度はオベリスクごと叩き切ろうと剣を横に薙ぐが、その時空から銀色のドラゴンが悪魔に体当たりをかけた。悪魔の剣はサールディンを外れ、Wardstoneには当たったが、ガキンという音を立てて弾かれた。
ドラゴンは悪魔に噛み付きながら吼えた。
「Malilith数匹で私を止められるとは考えが甘いな、デーモン。お前はここで爆発四散する運命にある」
「お前がテレンデルヴか!我が名はコーラムゼイダ、Balor Lordたるこの私をあの役立たず共と一緒にしてもらっては困るな!」
ドラゴンと悪魔は戦い始めた。それを見ながら、サールディンの視界は暗くなっていった。
気がついたとき、広場には動くものは何も無かった。悪魔達は撤退したらしく、街は嗚咽やうめき声の他は静かだった。家に帰り着いたサールディンが見たのは、血まみれになって倒れた祖父と、悪魔の死体だった。
その後、ギルドホールに行ったサールディンは保護され、孤児院に引き取られて暮らすことになった。
そこで待っていたのは、やはり戦いで親を亡くした孤児達だった。サールディンは体の傷と悪魔的な特徴から、すぐにいじめの対象となったが、誰もかばってくれるものはいなかった。親をデーモンに殺された恨みは、サールディンも痛いほど理解できた。
他の孤児達を避けるように、サールディンは孤児院を抜け出して街を歩き回った。デーモン達の襲撃は短かったが、街に大きな傷跡を残していた。Wardstoneにも、Stormkingが打ち据えたところに小さな亀裂が入っていた。
強くなって、悪魔を倒す。そう決意したサールディンは、街の外れで棒きれを振るい、剣の訓練のまねごとを始めた。Order of the Holy Lightにも行ってみたが、先の戦いで団員達はほとんどが倒れ、サールディンの面倒を見る余裕は無いようだった。彼は一人で鍛錬を続けた。
そんなある日、素振りをするサールディンに、フードを被った女性が声をかけてきた。
「私は、ここで訓練をするあなたを見てきました。また、孤児院でのあなたも。周りの子達にいじめられて,辛いのでしょう?」
しかしサールディンは答えた。「いえ、みんなはぼくのことを怖がっているだけです。それはしかたの無いことだとおもいます。だから、つらくは無いです」
「…。そうね、あなたの言っていることは正しい。正しいけれど、でもそれでも、あなたが苦しむ必要は無いと思う。
私の村にはあなたのような特徴を持った子供達が他にもいる。それを理由にいじめられることはない。武芸の勉強もすることができる。…無理にとは言わないけれど、私の村に来ない?」
「…わかりました。むりにここに残っても、みんながぼくを怖がらなくなるとも思わないし、一緒に行きます。でも、孤児院の先生には挨拶していきたいので待っていてくれませんか」
サールディンは、孤児院の先生に挨拶に行った。
「先生、ぼくを里子として引き取ってくれる人が見つかったので、ここを出て行きます。今まで本当にお世話になりました。」
「そうか…。すまないな、サールディン、何もしてやれなくて」
「いえ、ここにおいておいてもらえただけでもうれしかったです。」
「サールディン…お前は本当によい子だな。そうだ、お前はクルセイダーになりたいのだったね。ちょっとまっとれ」
孤児院の先生は、しっかりとした作りの長剣を持ってきた。
「これは私が昔使っていたものだ。デーモンに対しても有効な武器となる。これを餞別にあげよう。…お前の両親は立派な騎士だった。その名に恥じぬよう、精進するんだぞ」
「はい、ありがとうございます。きっと立派な騎士になります。」
さすがに他の子供達には声をかけず、サールディンは孤児院を後にした。フードの女性は院長と二言三言交わした後、サールディンに追いついてきた。
「サールディン、私の名前はアルシェイルと言います。さぁ、私たちの村へ行きましょう」
こうして、サールディンは村の子になった。

!月夜の逃避行
''AR4707''
Balemoonという部族の住む村で、メイプルは特別な子供として生まれた。生まれたときから額にある印は、部族にとって特別なものだったからだ。それが何を意味するのかメイプルには良くは分からなかったが、小さい頃から「神の子」としてかわいがられて育ってきたことだけは判っていた。
しかし、メイプルが4才の時、その手にかぎ爪のついた6本目の不気味な指が生えてきたとき、村の人達の反応は変わった。「神の子」は次第に「悪魔の子」と噂されるようになり、人々は徐々にメイプルを気味悪く思うようになっていった。中でも、マレハヴォクという村長の息子が、メイプルは呪われた子供で、この村を不幸にすると言い始めてからは、両親(どちらもTieflingではなかった)までもがメイプルに辛く当たるようになった。
そしてあの日の晩、夜寝付けなかったメイプルは村の人達が大勢で家のほうにやって来るのを見た。彼等が静かに戸を叩くと、両親は黙って招き入れ、そしてメイプルの部屋へと足音が近づいてきた。
メイプルが恐ろしさに震えていると、辺りがぼんやりと光った。どうやら、額の印が光っているようだ。そして、光の粒子と共に狼のような、大きな獣が姿を現した。その獣の額にも、メイプルの額の印と同じような印が光っていた。
「我が名はシロップ。ここから逃げよう、神を呼ぶものよ。」
獣は静かに言うと、おびえて動けないメイプルを、脇から生えた触手で優しく背中に載せ、窓から外へと走り出した。驚いた村人達が走って追いかけてくる中、獣は白い翼を広げ、月夜の空へと飛び立った。…獣の背中に揺られ、いつしかメイプルは眠りに落ちていた。
気がついたとき、メイプルは不気味な荒野に倒れていた。シロップは姿を消していた。時間的には昼のようだったが、空はまだらに赤い変な色をしており、太陽とも思えない奇妙な光に照らされた大地にはとげとげしい植物がまばらに生えるのみで、荒涼としてた。
メイプルが泣きじゃくっていると、丘の向こうから荷車を引いたフードの一団が近づいてくるのが見えた。メイプルは、とっさにとげの生えた茂みの影に隠れた。一団は、メイプルには気がつかなかったようで、茂みの前をそのまま通り過ぎていった。しかし、最後尾にいたフードの一人が、列を離れ、茂みの前へと戻ってきた。メイプルは息を殺した。
「もし、あなた、どうしてここに一人でいるの。ここはあなたのような子供がいるべきところではないわ」
「…」
「怖がらなくても大丈夫、あなたを傷つけたりはしません。…何があったの?」
メイプルは泣きじゃくりながら出てきて、たどたどしく昨夜の出来事を説明した。それを聞いて、フード姿の女はフードを取り、メイプルを抱きしめた。女の顔には角が生えており人間とは思えなかったが、同時に非常に美しくもあった。
「そう、辛かったのね。大丈夫、一緒に私の村に行きましょう。村には、あなたと同じような子もいる。あなたは悪魔の子ではないし、いじめられる理由なんて無い。安心しなさい」
そう言って、女はメイプルを軽々と抱きかかえ、列の後を追った。
こうして、メイプルは村の子になった。
!村の生活と志
''AR4707''
ペンテシレイアは村で生まれ、村で育った。小さい頃から好奇心旺盛、そして悪戯が好きで(本人には悪戯という自覚はなかったが)、そして見つかったときには凄いスピードで走り去ることから、村のみんなからはスピーディーという愛称で呼ばれていた。
スピーディーは同い年くらいの子供であるドロク、エレンス、ケリアンをつれて、村を荒らし回った。スピーディーの思いつきには奇妙な説得力があり、馬鹿馬鹿しいと思うエレンスや、興味がなさそうなケリアンも結局は巻き込んでトラブルとなるのだった。
スピーディーが6才の頃にやってきたオーディーは、スピーディーをなんとかする役目を与えられた。本を読みながらオーディーはスピーディーをそれとなく監視したり、村の外へ脱走しようとするスピーディーを罠で捕まえたりしていた。この頃になると、ケリアンは面倒くさいのでスピーディーを避けてモルガンの家に入り浸るようになり、またエレンスも真っ当に料理などの家の仕事を習ったり手伝ったりするようになった。スピーディーもそういうことをしないではなかったが、すぐに飽き、彼女の金魚のフンであるドロクをつれて色々な「事業」を考え出すのだった。
スピーディーが6才の時、村にサールディンとメイプルがやってきた。最初、サールディンは無口で顔も硬く、メイプルはおどおどしてなんとなくサールディンの後ろにくっつくように行動していたが、そのうち、スピーディー達と打ち解けてきた。そして、サールディンから、スピーディーは衝撃的な身の上話を聞いたのだった。翌日、彼女は村長のアルシェイルの家に向かった。
「村長、わたしはサールディンから凄い話を聞きました。この村の外にはケナブレスという大きな町があって、デーモンがそこを襲っているんだそうです。助けに行かなくちゃ。」
「…。スピーディ、デーモンがケナブレスを襲ったのはもう半年以上前です。そして、デーモン達はケナブレスを護る銀竜テレンデルヴによって追い返されました。だから、もう助けに行く必要はないのですよ」
「でも、デーモン達はまた来るんじゃないですか?村にもたまに来ます。またケナブレスに来たときには、みんなで助けに行かなくちゃ」そう言って走り去ろうとするスピーディーの襟を掴まえて、アルシェイルは言った。
「あなたのその志は素晴らしいけれど、行かない理由は3つある。一つ目は、ケナブレスにはケナブレスの護り、テレンデルヴや騎士団やWard Stoneがあって、普段はちゃんと町を護っていると言うこと。二つ目は、あなたは小さくて、無力で、助けに行っても何の訳にも立たないと言うこと。そして三つ目は、この村はこの村でデーモンの脅威と戦っているのだから、まずはこの村を護るのが先決だということ。」
「え…!じゃあアルシェイルはサールディンみたいに酷い目に遭う子がいてもしょうがないって言うんですか。この村だけ平和ならそれでいいって言うんですか。それっておかしくないですか。」
「サールディンような目に遭う子はいない方がもちろんいい。だけど、弱いまま飛び出していけば、そういう目、いいえ、もっと酷い目に遭うのはペンテシレイア自身になる。みんなで行けば、ドロクやメイプルがそういいう目に遭うかもしれない。」
「なるほど…。じゃあ、みんな強くなればいいんですね。だったら、私たち特訓します!」
そう言ってスピーディーは、走り去っていった。「…オーディーに言ってこなきゃ」アルシェイルは頭を抱えてテレポートした。
スピーディーは、走ってサールディンの所にやってきた。
「サールディン、強くなるために特訓が必要だよ」
「うん、そうだね」
「強くなって、ケナブレスを助けに行こう」
「わかった」
「騎士団の名前を決めないといけないな…」
「騎士団だったら、ぼくは大きくなったらOrder of the Holy Lightに加わるよ」
「え…。でもそれ、他の人達のを勝手に名乗ったらだめなんじゃない?新しいのにしようよ」
「新しいのじゃなくて、ぼくはOrder of the Holy Lightに加わるよ」
「うーん…じゃあOrder of the Holy Lightでもいいけど、それの別働隊ってことで、やっぱり新しい名前を付けることにしよう。Orderがかっこいいから、Order of the Righteous Mightっていうのはどう?」
「???」
「だから、私たちはOrder of the Righteous Mightで、それはOrder of the Holy Lightの別働隊なの」
「うーん、良く分からないけれどOrder of the Holy Lightならぼくはなんでもいいよ」
「やった!じゃあ私たちは今日からOrder of the Righteous Mightね。あとドロクとエレンスとケリアンとメイプルと…一応オーディーも仲間に入れてやるか。そうと決まったら次は師匠を探さなきゃ」
「師匠?」
「強くなるためには誰かに教えてもらわないと。よし、村長のところに聞きに行こう」
サールディンと途中で見つけたドロクをつれて、スピーディーはまたアルシェイルのところにやってきた。
「村長、私たちに師匠を紹介して!」
「アルシェイルさん、ぼく、ちゃんと騎士の稽古がしたいんです。将来、Order of the Holy Lightを復興させるために。お願いします」サールディンが付け加えた。
「そうですね、サールディン。確かにあなたは正しい剣の振り方を身につけた方がよいでしょう。…アンダルトにお願いするのがよいかしら。彼は歴戦のPaladinですから」
そう言って、アルシェイルは3人を村に住む老Paladin、アンダルトの所に連れて行った。
「サールディン、お前の話は聞いている。…剣を習いたいそうだな」
「はい、ぼくは両親の名に恥じない立派な騎士になりたいのです。そのために、剣を教えて下さい」
「なるほど。だがな、ここWorldwoundの地で戦うには、剣の振り方を覚えるだけでは駄目だ。ここでは、心を鍛えなければならないのだ」
「心?」
「そうだ。我が主アイオメディ様の教えに、こんな言葉がある『正義と名誉は我ら正しき道を行く者の大きな重荷である。だが我らは、弱き者が強く、臆病な者が勇敢になるためにも、この重さに耐えて行かねばならない。』…人々の心は弱い。折れるときには簡単に折れる。そしてみんなの心が折れてしまえば、ここはデーモン達の世界になってしまうだろう。だから、心を鍛える。そしてお前の心が折れないのを見て、みんななの心も耐えることが出来る。立派な騎士になるとは、そういうことなのだ」
「…。」
アンダルトは遠い目をして続けた。「…だが、この地は本当に厳しい土地だ。終わらない戦い、どれだけの数がいるとも知れぬ悪魔達、人々の内に宿る疑心暗鬼、そしてそんな時にも己の欲望を抑えることが出来ぬ者達。一緒に立ってきた仲間達が、一人、また一人と倒れていく中、それでも立っていることが、お前に出来るだろうか。…わしには、無理だった。だからな、偉そうなことを言える立場じゃないんだが、だからこそ、心を鍛えることの重要さも分かっておる。辛いこともあるだろうが、それでも騎士になりたいというのなら、明日からうちに来なさい。」
アンダルトの家からの帰り道、スピーディーはサールディンに言った。
「ねぇ、なんかあれ、師匠としては微妙じゃない?既に負けてるっぽい感じだし」
「うーん、そうかな。心を鍛えるのは大切だっておじいちゃんも言っていたし、あの人は正しいと思うよ。剣も習えるようだし、ぼくはアンダルトさんのところで頑張ってみるよ」
「あっそう。うーん、なんか私は他の人を探そうかな。アイオメディはかっこいいからそれ系がいいな。」
サールディンと別れると、スピーディーは村の掲示板に張り紙を貼った。
 アイオメディのことを教えてくれる師匠大募集! スピーディー&ドロク
そして、他の子供達を見つけると、騎士団のことと、師匠捜しのことを説明したのだった(エレンスにはあきれた目で、ケリアンにはどうでもよさそうな目で見られた)。
翌日、ケナブレスに師匠を探しに行こうとして村を脱走しようとし、オーディーの罠に捕まったスピーディーのところに、Half-Elfの男がやってきた。男はドーレスタという名前で、何の仕事をしているのか、微妙によくわからないふらふらした感じの印象をスピーディーは持っていた。
「スピーディー、おまえアイオメディ様のことを知りたいって本当かい?」
「そうだよ」
「ふーん。実はな、俺はアイオメディ様の信徒なんで、お前にいろいろと教えてやってもいい。だが、まずは『アイオメディの御業』に書かれている言葉を教えてやる。『正義と名誉は我ら正しき道を行く者の大きな重荷である。だが我らは、弱き者が強く、臆病な者が勇敢になるためにも、この重さに耐えて行かねばならない。』…これがどういう意味か、わかるか?」
「強くなれって意味でしょ」
「うん、間違っちゃあいないが、正確じゃない。…人間の心ってのは弱い。折れるときには簡単に折れちまう。そしてみんなの心が折れちまえば、ここはデーモン達の世界になっちまうだろう。だからさ、俺たちが、みんなの心を折れないようにしないといけないワケ。具体的には、心の折れそうな奴を見つけて、折れないように何とかする」
「何とかするって?」
「まぁいろいろ。例えば、励ましたり。でも、一番効果があるのは、そいつに悪影響を与えている奴を見つけ出して、そいつを何とかする。デーモンってやつは、人間に紛れ込んだりするのがうまいわけ。だから、見つけ出して倒す。あとは、デーモンと心の底からわかり合っちゃうような悪い奴もたまにいるので、見つけだして倒す。こうやって悪い影響を除いていけば、弱い奴らも強くなれるし、臆病な奴らも勇敢になれる。逆に、こういうのがいると弱い奴らはふらふらと悪い方向に流されて行っちゃったりもするので、強い者達が正義を執行してそういうことがなるべく無いようにすると、そういうことをアイオメディ様の言葉は言っている訳よ」
「なるほど。そうすればみんなが強くなれると。」
「こういう、悪の源を探し出す力を、俺たちはInquisitionと呼んでいる。どうだ、これでもまだ興味があるか?まぁ正直言うと、勧めはしない。お前は子供だから判らないかもしれないが、俺たちの仕事は全員から笑顔で迎えられるようなもんじゃねぇからな。…誰かが背負わなければならない重荷だとしても、みんなが背負う必要はない重荷なのさ」
「わたしは強くなってケナブレスの人達を助けたい。だから、弱い者じゃなくて重荷を背負う者になりたい。そうしたら、きっとOrder of Righteous Mightはみんなで強くなれると思うから」
「…なるほど。じゃあ、明日からうちに来い。俺の技を教えてやるよ」
「わかった。ドロクと一緒に行く。」
「オーケー、じゃあな」
そう言って、ドーレスタは罠にかかったスピーディーを置いて去って行った。しばらくするとオーディーがやってきて、スピーディーを罠から外してくれた。
「スピーディ−、村の外に出て何をしようっていうんだい。外にはデーモンしかいないよ」
「師匠を探そうと思ったの。でも、もう見つけたからいい」
「あ、そう」
翌日から、スピーディーはドロクと一緒にドーレスタのところに通うようになった。そしてそれからは、人が変わったようにおとなしくなった。オーディー楽になってほっとしていが、ドーレスタがスピーディーに、「Inquisitorたるもの、大騒ぎして人に見つかってしまうようでは駄目だ。一に注意二に注意、目立たず紛れて、ここぞというところでその力を発揮するんだ」と言ったことがスピーディーの行動を変えていたとは知らなかった(スピーディーはばれないように抜け出したりすることも学んでいた)。
!サモナー
''AR4708''
サールディンは、アンダルトのところで剣と心の修行を始めた。剣の修行の方は得意だったが、心の修行である座学は、予習復習をしっかりやってもあまり得意ではなかった。だが、老アンダルトの具体的な「心が折れるシーンとその対策」の授業は、従順で真面目で、かつ既に十分不幸な経験をしてきたサールディンの心を確実に鍛えていった。
その脇でいつも泣きそうな顔をしているのはメイプルだった。村に来た時期が一緒で、また面倒見のいいサールディンになついていたメイプルは、サールディンと一緒にアンダルトの所に通っていた。剣を振るのはそれほど苦手ではなかったが、心の修行は色々と辛いものがあった。サールディンにも、「うーん、騎士の修行はあんまりメイプルには向いていないのかもな…」と言われ、メイプルは一人悩んでいた。
ある夜、トイレに立ったメイプルは空を眺めていた。村の夜はいつも暗く、星も月も、不気味なほど速く流れ行く雲間から時折姿を見せるだけだった。…その時、空から不気味な鳴き声と共に、メイプルの体ほどもある大きなカラスが、彼女に向かって急降下してきた。悲鳴を上げ、身を固くして目をつぶったメイプルだったが、痛みは来ない。おそるおそる目を開けると、辺りは額の明かりでぼんやりと光っており、そして目の前にはあの夜と同じ獣がいて、カラスを触手で捕まえていた。
「メイプルに触れることは許されん、穢れた鳥よ」
シロップが触手に力を込めると、カラスの首と翼が変な角度に曲がり、そして動かなくなった。シロップはカラスを脇に置くと振り向いて、言った。
「この地は昔、Sarkoriaと呼ばれていた。我らはその頃からそなた達と共にあった。
そしてその古き時代からの盟約に従い、たとえこの地が名を変え姿を変えようとも、私はあなたを守護するだろう。メイプル、何かあったらまたいつでも呼ぶがいい…」
そしてシロップは姿を消した。
翌日、メイプルはサールディンにシロップのことを話した。
「へぇ、すごいなメイプル、そんな凄いやつを呼べるなんて」
「でも、呼び方はわからないの。今までも、危ないときに勝手に出てきただけで。先生に聞けばわかるかな?」
「うーん、どうだろう。先生に聞いて判らなかったら、魔法っぽい話だから、モルガンさんの所に聞きに行ってみようよ」
当然アンダルトにもモルガンに聞きに行くように言われ、二人はモルガンの家にやってきた。そこでは、最近勉強に集中しているオーディーと、ぼんやりとページをめくるケリアンがいた。
「モルガンさん、メイプルの額が光ると凄い強い奴が出てくるらしいんだけど、どうやって出せばよいのか教えてくれませんか?」
モルガンは疑問符を浮かべながらもメイプルの額を調べると、そこにある紋章に目をとめた。
「ふーむ、これはサモナーの印に見えるね。サモナーがエイドロンを喚ぶときに浮かび出るという印だ。とすれば、その強い奴ってのは多分エイドロンだね。…しかし、なんで喚んでないときでも浮かび出ているんだろうねぇ」
「…どうやってシロップを呼べばいいの?」メイプルが尋ねた。
「あたしはサモナーじゃないからわからんなぁ。あれはほら、ソーサラーとかと同じで勉強じゃなく才能だって話だし。ただそうだなぁ、どっかにサモナーの本があったんじゃないかな。きっとプレイナーアライを呼ぶのと同じような手順で喚べるんじゃね?ケリアン、サモナーの本どこにあるか知らない?」
ケリアンは書棚から、本を取ってきた。その本に書かれている手順に従い、魔法陣を書き、メイプルが呪文を唱えると、その額が輝いてシロップが姿を現した。しかしその姿は、夜に見た姿とは多少異なっていた。シロップは言った。
「メイプル、どうかしたのか?」
「呼び方が分からなかったから、練習していたの」
「そうか」
サールディンやケリアンは、興味津々にシロップをなでたりしていたが、シロップはされるがままに黙っていた。
「先生、エイドロンはしゃべるんですか?なんか口の動きが不自然で気持ち悪いんですが」
「うーん、どうなんだろう。まぁ、主と意思疎通出来ないと困るからしゃべるんじゃね?つかメイプルの前で気持ち悪いとか言ったらかわいそうだろう、オーディー」
メイプルは周りの反応を気にせず、シロップを見つめていた。
「私、あなたを自由に喚べるようになりたい。また喚んでもいい?」
「もちろんだ、メイプル。ならば、一度還ろうか?」
「お願い」
「わかった」
シロップは消え失せ、メイプルの額からも光が消えた。メイプルは肩で息をした。
モルガンが近づいてきて、言った。
「メイプル、あれはエイドロンというアウトサイダーだ。お前の力で、この世界に呼ぶことが出来て、お前の命令通りに動く召使いみたいなもんだ。お前はそういう力を持ってる。
私はサモナーじゃないから良く分からないけど、あのエイドロンは少し変な気がする。私が見たことのあるエイドロンは、どう言ったらいいのか分からないが、もっと違っていた。もっと従順だった。…うまく言えないな。一つ言えるのは、気をつけろってことだ。魔法の世界では、外の世界から何かを呼ぶのは常に危険な行為なんだ。気を許さないで、しっかりコントロールすることを覚えるんだ。なさそうにも思えるけど、主に歯をむく召使いだっているんだからね」
モルガンの家から帰り道、メイプルはサールディンに言った。
「モルガンさんはああ言ったけど、シロップは私の友達だよね?」
「うーん、まぁ、悪い奴じゃあないんじゃないかな」
「そうだよね」
一方その頃、モルガンは弟子のオーディーと話していた。
「ここ、Worldwoundってのは、Abyssにつながってる。当然もともとそうだったわけじゃ無いが、その下地はあったんじゃないかと私は思ってる。この地は昔から、『どこか』との境界が薄いんじゃないかってね。」
「あんたの両親が調べていたのも、そんなことなんじゃないかと思う。それが分かれば、Worldwoundの成り立ちも少しは分かってくる。そして、それを塞ぐ方法も、もしかしたら…。」
「話が飛んだけど、この土地のせい、なのか、メイプルのエイドロンは、なんか普通じゃ無い気がする。デーモンではないだろうけど、得体の知れないアウトサイダーであることに変わりは無い。あんたは子供達の目付役なんだから、メイプルが変なことにならないよう、ちゃんと見とくんだよ」
「…はい(と、言われてもなぁ)」
その後、メイプルは一人で練習を繰り返し、自在にシロップを喚べるようになっていった。だが、その後もモルガンのところで魔法や召喚の話を聞くのではなく、アンダルトの所でサールディンと一緒に剣を振ったり心の折れそうな話を聞いたりもするのだった。シロップも、そんな話を黙って聞いていた。
!ケリアンの才能
''AR4708''
他の子供達が師匠について勉強に励む中、相変わらずケリアンはモルガンの家で本を読んでいた。もっとも、ケリアンとしてはスピーディーに言われた騎士団の話は何のモチベーションにもならないので、強くなろうなどという気も特になかった。とはいえ、他のみんなが何かの目的を持って過ごしている中、ただぼんやりと本を読むのもどうかな、という気持ちはあり、ただやはり本を読むことこそ目的と思えば、特に生活を変える理由もなかった。
ある日、モルガンの所にオレンジ色の露出度の高い服を着たけだるげな女がやってきた。
「ハーイ、モルガン、元気?お茶しましょうよ」
「おう、クラーダか。分かった、休憩にするとしよう。オーディー、お茶の準備だ。」そう言ってモルガンはオーディーとキッチンに消えた。
クラーダに会うのは初めてではなかったが、ケリアンは特に彼女のことを気にしていなかった。なので、突然話しかけられて、ケリアンはびっくりした。
「ねぇ、ケリアン、最近、他のみんなが習い事をしてるのに、自分だけなにもしなくていいんだろうかって、そんなことを思ってない?」
「…」
「私の見立てでは、あんたには才能があるわ。どう、私について、その才能を伸ばしてみない?」
「…どんな才能ですか?」
「ずばり、僧侶の才能です!おめでとう!」
「…でも僕、特定の神を信仰している訳じゃないです。教義は一通り知っていますが、クレリックは特定の神への篤い信仰がないとなれないのではないでしょうか」
「いえいえどっこい、そんなことはないのよ。クレリックなんてのはねぇ、なんか一つでも思い込みがあればそれでいいの。神様をそのフォーカスにするってのが一般的だけど、そういうのじゃなくたって平気なんだから」
「へぇ」
「例えばあたしはサーレンレイのクレリックだけど、別にあいつのこと完全に認めてるわけじゃないから。なんかこう、キレイすぎるっていうか、人間心の中そんなにキレイな光ばっかりじゃねーよ、みたいな、ね。だけど、癒やし系なところは評価できるし、みんなを癒やしてハッピーにできるならいいかな、なんて。そんなんでも、回復の呪文くらい使えるわけ」そう言ってクラーダは回復の呪文を無駄に唱えると、妖艶に笑った。
「神は、その支配するポートフォリオがある。逆に神はそのポートフォリオの集合であって、概念が神を造っているとも言える。だから、本当に力があるのは、そういった概念ということがあるということそのもの、なんて立場もある。真実はさておき、クレリックの中にはそういった概念、ドメインそのものから力を引き出す者達もいる」
「ま、というわけで、クレリックになるのにカミサマを信じている必要は無いわけ。重要なのは、思い込みというか、何かに打ち込むひたむきな姿勢、これね」
「僕にそういう才能があるってことですか」
「あなたの読書にかける情熱、これがポイントだと私は見たわ。ドメインとしては、読書っていうのは無いので、多分『知識』とかかな?まぁ、ちょっとやってみれば適正あるかないか分かるでしょ。どう、興味ない?」
知は力なり、と書いてある本もケリアンは読んだことがあった。知識という抽象概念に、知識それ以上の力があるという考えは、ケリアンの胸にストンと落ちた。知識とは文化であり、認識であり、この世界を構成する要素の一つ。それに触れて、必要な言葉をかけてあげるだけで、世界は変わりうる。秘術は、それを難しく捉えて、強固な体系を作っている。それによって体系を学習することを可能にしているが、本当はそれはもっと直感的に、触れるように理解することが可能なものだ。
(だから、僕は秘術の勉強に抵抗があったんだ)
ケリアンはそう考えて妙に納得した。昔、おぼろげな記憶の中で学んだ魔術は、理解は要求されるが、モルガンがオーディーに教えているような、そういったものではなかった。とすれば、信仰呪文こそが、昔どこかで習ったあの呪文なのかもしれない。
「興味、あります。どうか教えて下さい」
「お、いいねぇ、素直で。ふふふ。私はたまにしか村に来ないけど、来たときには信仰呪文を教えてあげようじゃないの」
こうして、ケリアンはクラーダに師事することになった。驚くほど簡単に、ケリアンは呪文を発動できるようになった。モルガンは、何をしてくれたんだ、という目でクラーダを見ていたが、クラーダは、「才能ってのは凄いもんだねぇ」の一言で済ませた。
だが、ケリアンは思った。
(これは少し違う)
信仰呪文は、記憶の中にある魔法とは、やはり少し違うのだった。信仰呪文の練習がてら、オーディーと一緒に秘術呪文も習ってはみたが、やはり前に思ったとおり、違うものだった。そもそも、呪文書に書いてある呪文は普通の秘術呪文ではなく、モルガンにすらそれを完全に解読することは出来なかった。
もやもやした気分のまま、ケリアンはクラーダから呪文を習い、空いている時間は今まで通り読書をして過ごした。読書は、やはりそれ自体が目的たり得るほど楽しかった。
!Yathと悪魔の儀式
''AR4712''
ラオツェンはケナブレスという街で、Dantworthという貴族の家に生まれた。貴族ながら商売を営み、WorldwoundへのCrusadeを支援する両親の下、ラオツェンは何不自由無く育ってきた。
8才となったラオツェンは、ケナブレスにあるアイオメディの神学校で他の貴族の子供達と共に教育を受けることになる。その中で、一つだけ変わった特徴を持っていることが判ってきた。それは、「印象が薄い」という特徴だった。同級生は、ラオツェンの言ったことを忘れたり、そこにいるのを気づかれなかったり、といったことがたびたび起こった。特に、ラオツェンが「覚えておいて欲しくないな」と思うと、相手がそのことをど忘れしたり、といった不思議なことが起こったことも何回かあった。ラオツェンは不思議に思ったが、偶然という気もするし、またそんなことを誰かに言うのもばからしいと思って、特に話したりはしなかった。他には特に学校で困るようなことも無く、ラオツェンは貴族のたしなみとしての勉学に励むのだった。
だが、ラオツェンが12才の年のあるときから、両親達はおかしくなってしまった。夜に夢でうなされているらしく、昼も機嫌が悪い。たまにぼんやりした目で「Yath」という言葉をつぶやく。そんな時の両親の顔には何の表情も無く、ラオツェンは恐ろしさになにも聞けずにいた。
そしてある朝、両親が突然旅に出ると言い出した。訳も分からないまま荷造りをして、両親と一緒に歩いて行った。「召使いはつれていかないの?」とラオツェンは聞いたが、両親は無言で、ラオツェンの手を引いて歩き出した。
ケナブレスを離れて川を越え、両親が恐ろしいWorldwoundの内部へと向かって旅をしているのにラオツェンは気がついた。両親とラオツェン以外にも、同じような方向に旅をする人達がいるのに、ラオツェンは気がついた。しかし、彼等と会話するでもなく、両親はほぼ無言で歩を進めた。Worldwoundの内部には真っ当な草も生えず、人が食べられそうなものはほとんど無い荒野が広がっていた。両親達は魔法の鞄に大量の食料を詰めており、食べ物に不自由はしなかったが、同じ方向に行く人達の中には飢えで倒れる者も多くいた。だが、倒れた者も気にせず、人々は同じ方角に進むのだった。
そして、何週間も旅を続け、たどり着いた先は恐ろしい塔だった。その塔はいびつで、何の素材でできているか判らず、まるで生き物のような雰囲気を持っていた。
両親はその塔の入り口にいる明らかにデーモンと思わしき化け物と二言三言しゃべると何かをその手に渡し、ラオツェンと共に塔の中に入っていった。塔の中には人間達もおり、ある者達は怪しげな呪文を集団で唱え、ある者達は壁から流れ出る血のようなものをなめ、そしてある者達はただ黙って廊下を歩いていた。そして、そんな人間達を無造作に切り裂いて遊ぶデーモン達もいた。ラオツェンの頭は、その恐ろしさにほとんど麻痺しており、両親達の手に引かれるままに歩いていた。
塔の上の方の広くて綺麗な部屋で、ラオツェンは両親と共に白い露出度の高い衣装に身を包んだ美しい女に会った。彼女は言った。
「なるほど、この子をYath様への生贄に、ね。良いでしょう、あなたたちの献身を認めます。…そうね、丁度アリールが活きのいい子供が欲しいと言っていた。Worldwoundを歩いてやってこれるだけのこの子なら、彼女の要求を満たすかもしれない」
彼女が指を鳴らすと、そこに巨大な虫のような悪魔がやってきた。そのカマキリのような腕で抱えられ、ラオツェンは空へと舞い上がった。悪魔が我が子を抱えて飛び去るのを両親は無表情に見つめていた。それを眺めて、女はほほえみを浮かべているのが見えた。
悪魔はラオツェンを抱えて飛び続ける。眼下には、巨大な亀裂と、その闇に蠢く無数の何かが見えた。
(これが、Worldwound…)
いつしかラオツェンは気を失い、気がついたときには鉄の台に鎖で縛り付けられていた。目の前には、角の生えた若い女の顔があった。
「おや、気がついたか、元気な子供だ。この子なら、実験に耐えてくれるかもしれない。Isildaはちゃんとした素材を送ってきたというわけだ。
さて、私はもう出る。実験の成果を期待しているぞ。」
そう言って、女Tieflingは呪文を唱え、その場所から消え去った。後には、鳥のような姿をした悪魔や、Tieflingと思われる連中、そしてラオツェン以外の縛られた人達(ラオツェン以外は全員大人だった)が残された。
そして、実験は始まった。どんなことをされたのか、ラオツェンは良く覚えていないし、思い出したいとも思わない。だが、最後の実験、それだけは明確に覚えている。数が減った被験者たちは一室に集められ、その中心には祭壇のようなものが置かれた。その上には、濃い紫色のクリスタルが置かれていた。
鳥形のデーモン達が輪になって呪文を唱え始めると、そのクリスタルが鳴動し、そして呪文が最高潮に達したとき、クリスタルから紫色の波動が放たれた。そしてそれがラオツェンの体に触れた瞬間、ラオツェンの体は大爆発を起こした。
…自分の体が大爆発を起こす感覚というのは言葉で説明できるようなものではないが、その瞬間、目の魔が真っ白になり、体が千に引き裂かれるような気分を味わった。そして気がついたとき、ラオツェンは廃墟に寝転がっていた。どうやら、そこは実験が行われていた場所のようで、辺りには実験に従事していたデーモンの死体の欠片のようなものも散らばっていた。爆発で建物が吹き飛ばされたようだが、なぜそんな爆発の後、ラオツェンだけが五体満足でここにいるのか、全く理解できなかった。
ふと体を見ると、おなかから胸にかけて、自分の肉が腐っているのが見えた。腐臭はしないが、触るとぶよぶよしている。ラオツェンは絶叫した。
「遅かった…」
突然、ラオツェンの傍らに女が歩いてきた。美しい顔立ちは曇っていたが、ラオツェンは実験前に会った女と大して変わらないと思った。こいつもTieflingだ。
辺りに落ちたがれきをひろって後ずさったラオツェンを見て、Tieflingはさらに顔を曇らせた。
「何があったのかはだいたい判っています。あなたは実験台にされたのでしょう。…なぜ実験場がこんな風になっているのかは判りませんが。
私の名前はアルシェイル。ここにいたら、いつ他のデーモン達が様子を見に来るか判りません。私と一緒に来なさい」
しかしラオツェンは、首を振った。
「…私を信用できないのは判ります。でしたら、他のデーモンがやって来るまでここで待っていればいい。ただし、私も待たせてもらいます。」
そう言って、女Tieflingはがれきに腰掛け、本を取り出して読み始めた。本には、青い蝶々のマークが書かれていた。
ラオツェンは1時間ほど悩んでいたが、辺りには荒野が広がるばかりで、歩いてケナブレスにたどり着ける見込みもなかった。ついに、彼は折れた。
「どこへとなり、連れて行け」
Tieflingはにっこりと笑って本を閉じ、スクロールを広げた。
「では、私の村へ行きましょう。大丈夫、そこには、あなたの体のことをとやかく言う人はいません…」
そして、二人は村へとテレポートした。
しばらく村で療養した後、ラオツェンは村がケナブレスの近くにあると言うことを知って、ケナブレスに戻ると主張した。アルシェイルは、静かに言った。
「あなたが戻りたい気持ちは分かります。ただ、あなたの置かれた状況は、非常に説明のしづらいものです。Worldwoundに消えたご両親、一人だけ戻ってきた子供、そしてあなたの体の状況。真実を語っても、語らなくても、誰もが納得する話ではない。そしてもし、あなたのご両親が誰かにだまされていたのなら、戻ってもあなたの家はないでしょう。場合によっては、あなたの命すらも狙われるかもしれない。Dantworth家は大きな家ですから…。
無闇に脅しているわけではありません。もしどうしても帰りたいというなら、ケナブレスまで送ることはいたしましょう。ですが、その先、ケナブレスの中であなたを守ることは私にはできない。だから、私はあなたにこの村にとどまって欲しいと思っている。それだけはお伝えしておきます」
ラオツェンは考えた。確かに、両親の無い今、ラオツェンが戻って相続を主張したとしても、簡単にはいかないだろうことは想像に難くなかった。特に、この体のことがばれれば、全て自分のせいにされるか、あるいは本当のラオツェンだと信じてもらえないかもしれない。戻ってなんとかしてみたい気持ちもあったが、九死に一生を得た命は惜しかった。そして、村の生活は今までほど豪華でなかったが、不快ではなかった。
ラオツェンは、村にTieflingの子供達が何人かいることに気がついた。彼等は師匠について、ケナブレスでもあまり無いような高度な教育を受けていた(ようにラオツェンには見えた)。同じケナブレス出身ということで仲良くなったサールディンに、彼等が騎士団を結成して、強くなったらケナブレスに行くんだという話を聞いて、ラオツェンはこれだ、と思った。彼も力をつけて一緒にケナブレスに行けば、何とかなるかもしれない。仮にラオツェンの家が無くなっていたとしても、クルセイダーとなって戦功を上げ、どこかで体を元に戻しさえすれば、改めて家を興すことも出来るだろう。それに、憎くてたまらないデーモン達を薙ぎ倒すのも、楽しいに違いない。
ラオツェンは、神学校でも得意だった弓を習うべく、師匠を探した。村で最も弓が上手いのは村長のアルシェイルのようだった。
「弓ですか…。教えるのは構いませんが…、そうね、一緒にDesna様のことも勉強しましょう。憎しみだけで戦ってはいけないから。」
そう言うアルシェイルから、弓と、あまり興味は無いがDesnaのことを学ぶラオツェンだった。ただ、アルシェイルの教えてくれるDesnaは、何がと言うわけでは無いが、微妙にこなれていないというか、神学校で習った教科書の知識とは少しずれているような感じがした。だが、クレリックではないのでそんなもんだろうとラオツェンは結論づけた。一方で、体を元に戻す手段を探るため、モルガンのもとにも出入りするようにした。モルガンはラオツェンがわきで聞いているのを止める様子は無かったが、弟子入りを要求すると、きっぱりと断った。
「あんたは、私が魔法を教えるには危うい感じがする。見当外れかもしれないが、憎しみで魔法を使っても碌なことにはならないんでね。悪いけど他をあたってくれ」
ラオツェンは理不尽さを感じながらも、弓の稽古をメインに、魔法の授業を聴講し、そしてたまにはスラッシュから剣技なども習うのだった。スラッシュの下では、エレンスも剣を習っていた。しかし話してみると、彼女は騎士団に興味があるわけでは無く、この村で生きていく術としてレンジャーの技を習っているのだ、とのことだった。
「まぁ、ケナブレスに興味が無いわけじゃないけど。大人になったら一、二回は行く機会があるじゃんないかな。私はそれで充分だと思う。」
そうエレンスは言った。この村に骨を埋めるという考えが頭を過ぎり、暗鬱な気分になるラオツェンだった。
!召命
''AR4714''
サールディンが15才の時のこと。サールディンとメイプルはスラッシュにつれられて、近くの林まで食料採取に来ていた。
二人が籠にキノコやらを入れていると、目の前の茂みがゆれて、ぬっと紫色のイノシシが顔を突き出した。
スラッシュは、そいつをにらみつけながら、ささやいた。
「ここを動くなよ」
そして、突如ばっと二人から離れて駆け出すと、イノシシはそちらに向かって突進していった。
二人は黙って待っていたが、待てども待てどもスラッシュは帰ってこない。村に戻ろうかとサールディンが思っていると、少し遠くで茂みがゆれ、しかしそこから飛び出してきたのはスラッシュでは無く、口から泡を吹きながら走る紫色の鹿だった。
鹿はメイプル目がけて突進してきたが、メイプルの額が光り、シロップが現れた。シロップは鹿との間に立ちふさがるかと思いきや、鹿を別の方向に誘導して、やはり消えてしまった。
二人は、シロップが敵をおびき出してくれたのだと理解して、さらにおとなしく待つことにしたが、さらに茂みから、人型の汚らしい生き物が姿を現した。これは、多分デーモンだ。自分の後ろにメイプルが自分の後ろに隠れたのを見て、サールディンは剣を抜いて構えた。院長先生からもらった剣は、弱いデーモンになら充分な効果があるはず。
だが、デーモンは剣におびえる風でも無く、かぎ爪でサールディンを切り裂く。だが、サールディンは逃げずに、剣をデーモン目がけて繰り出すのだった。この攻撃は外れたが、デーモンの背中からスラッシュが現れて、一刀の下にデーモンを切断した。
「遅くなって済まない。サールディン、メイプルを守ってよく頑張ったな」
そして、シロップも戻ってきた。
「私が守るべきところ、申し訳ない、サールディン。だが、あれは破壊の狂気に冒されていた。放置すれば、大きな災いをもたらした。」
シロップはそう言って恐縮していたが、サールディンもメイプルをシロップをなでて、ただ感謝するのだった。
その日の夜、サールディンは夢を見た。夢の中、サールディンは広大な大聖堂の中にいた。大聖堂の天井は見えないほど高く、壁には色とりどりのステンドグラスが嵌められているようだったが、それも遠くにあってはっきりと見ることは出来なかった。
広間に、男性の声が響いた。
「サールディンよ、お前は力を得るにふさわしいと判断された。お前が力を望むなら、剣を抜き、そこに跪け」
サールディンが言われたとおりにすると、剣は宙に浮かび上がり、その切っ先がサールディンの目の前に突きつけられた。
「サールディンよ、この剣に誓うのだ。汝、節度を持った行動を心がけることを誓うか?」
「誓います」
「汝、戦場に先頭を切って飛び込み、そして引くときはしんがりたることを誓うか?」
「誓います」
「汝、仲間の名誉を思想と行動の両面で守り、そしてそれを信ずることを誓うか?」
「誓います」
「汝、仲間を決して見捨てず、しかし必要な時、自由意思から成される犠牲を受け入れることを誓うか?」
サールディンは少し迷ったが、「誓います」と言った。
「汝、同等の力を持った者からの挑戦を拒まぬことを誓うか?そして、ふさわしい敵には尊敬を、そうでない敵には侮蔑をもってあたることを誓うか?」
「…それは、どういう意味でしょうか?」
「汝と道を違う者であっても、そのものが尊敬にたるだけの名誉を持って行動しているなら、ふさわしい対応をしなければならない。一方で、名誉無く行動を取る者達には、汝はその行動が間違っていることを諭すためにも侮蔑をもって当たるべきだ」
「…そういうことなら、誓います」
「汝、真実が見えぬ時には汝の敵を降伏させ、そしてその行為に責任を持つことを誓うか?」
「誓います」
「汝、不名誉を受けるよりは死を選ぶことを誓うか?」
「不名誉を受けてでも大勢を救える場合にはどうしたらよいのですか?」
「大勢を救うことは、不名誉なことでは無い」
「なら誓います」
「剣はそれを使う者の心が無ければその価値を持たない。剣を失うことは道具を失うことに過ぎないが、己の心を裏切ることは死をも意味する。汝、己の剣の重みを知ることを誓うか?」
「誓います」
「汝、インヘリターを信じ、汝の体を通じて彼女の力をこの地にもたらすことを誓うか?彼女の軍団の一員として輝き、汝の行動をもって彼女の栄光に翳りを加えることは無いと誓うか?」
「誓います」
すると、サールディンの目の前に、彼の剣を持った光り輝く天使が現れた。
「立て」
天使は立ち上がったサールディンに剣を差し出して、言った。
「サールディン、この誓いの剣を受け取った瞬間より、お前はアイオメディ様のパラディンとなり、誓いに縛られる。その覚悟があるならば、剣を受け取るがいい」
サールディンが剣を受け取ると、目の前が真っ白になり、そしてかすかに、鎧をまとって赤いマントを身につけた黒髪の女性が、サールディンに向かって厳かにうなずいて見せるのが見えた。
気がつくと、サールディンは自室のベッドにいた。しかし辺りはほのかに明るく、ベッドの脇を見ると、先ほどの天使がベッドの脇にいた。サールディンが慌てて跪くと、天使はうなずいて言った。
「サールディン、今日の君の行いをアイオメディ様はご覧になっていた。…君の中に流れるデーモンの血についてとやかくと言う者達もいようが、私たちは君の中にもっと高貴な血が流れていることを知っている。そしてもちろん、我々の価値はその血では無くその行動にて示されるべきだろう?」
フルフェイスヘルメットに覆われて見えない天使の顔がほほえんだようにサールディンには思えた。
「君の他者を思いやり守りたいと思う心は何者にも負けない力、聖なる護り手の力となるだろう。では、君の活躍を祈っているよ」
そう言って、天使の姿は消え失せた。
翌朝、サールディンはアンダルトは夜あったことを報告した。
「立派なパラディンになれるようこれからもお願いします」
「サールディン、アイオメディ様はお前の行いを認めたからパラディンとしてくれたのだ。精進は必要だが、謙遜するものでも無い。…お前も誓ったであろうアイオメディのコードは厳しい。だが、あのコードを胸に刻んで生きていけば、必ずや立派なパラディンになれるだろう。だがもちろん、これからも教えてあげられることはいくつもある。今日からは、パラディンとして戦闘でどのように立ち回り、どのように神の奇跡を呼び起こすか教えよう」
こうして、サールディンはアンダルトにパラディンの戦い方の小技などを教わるのだった。
!ナインドリアン・クリスタル
''AR4715''
ラオツェンは、体を鍛えるため早朝の走り込みをしていた。体を鍛えていないと、さらに体が腐っていきそうな、そんな恐怖があった。
そんな朝、村の門の前で、アルシェイルが血まみれになって倒れているのを見つけた。驚いてラオツェンが駆け寄ると、アルシェイルは意外としっかりとした声で、
「ラオツェン、クラーダを呼んできてくれますか?」
と言った。
ラオツェンは村を探し回り、モルガンの家で飲みつぶれたクラーダを見つけた。
「クラーダさん、アルシェイルが門の前で倒れているんです、早く来て下さい」
だるそうなクラーダをアルシェイルのところに引っ張っていくと、クラーダは面倒くさそうに、
「アルシェイル、SRさげて」
と言い、回復の呪文を唱えた。そして、よっこらせと、彼女を支えて立ち上がり、歩き出した。その時、アルシェイルの腰からポーチが落ちたので、
「ラオツェン、そいつを拾って持ってきな」
とクラーダは言った。
しかしラオツェンが袋を拾うと、袋の中から紫色の光があふれ出した。中を覗いてみると、あの実験の時にも使われていたクリスタルが入っている。ラオツェンは、恐れず袋に手を入れ、クリスタルを握りしめた。すると、いつになく鋭い声で、クラーダが
「動くな!一歩でも動いたらお前を爆発させる。…何者だ?本当にラオツェンか?」
と言った。驚いたラオツェンがうなずくと、アルシェイルも、
「クラーダ、彼は例の儀式の時に同じものに触れています。それで、何か反応しているのではないでしょうか」
と小さな声で喋った。
「お前、本当にラオツェンか?」
改めて問いかけるクラーダに、ラオツェンが「そうだ」と答えると、ようやくクラーダは緊張を解いた。
「お前がもってるとあんまり良くなさそうだ、こっちに渡しな。」
ラオツェンから袋を受け取り、クラーダとアルシェイルは去って行った。
後日、ラオツェンがアルシェイルの家に行くと、彼女はすっかり元気になった様子だった。その机の上には、例のクリスタルが、別の透明な何かの石に包まれて置かれていた。紙束の上にあるところを見ると、文鎮代わりにしているらしい。
「ラオツェン、先日はありがとうございました。…お礼というわけでも無いのですが、少し背景を話しておきましょう。私がたまに出かけているのは、デーモン達の動きを調査しているからなのです。今回は、敵が輸送中の重要そうなマジックアイテムを奪って逃げてきました。これはナインドリアン・クリスタルと呼ばれている者で、色々な邪悪な儀式に使われているものです。多分、あなたが関わった儀式にも使われていたのでしょう。これは、その中でも特に純度が高いもので、特に危険です。ただ、今はクラーダの魔法で封印されていますから、もう誰かに探知されることも、悪影響を及ぼすこともありません。
ニヒードリンクリスタルは、テレポートしないというやっかいな性質を持っています。徒歩で逃げてきたので、あのときは結構危ない目に遭って、命からがら村まで逃げ帰ってきたというわけです」
その後、ラオツェンはクリスタルを持ってみたが、あの時のように光はしなかった。クリスタルについてモルガンやケリアンにも聞いてみたが、特に新しく分かったことは無く、こいつが手がかりになるのかなぁ、と思ったラオツェンだった。
!成人の儀
''AR4716 Arodus''
スピーディが16才になった夏のこと。アルシェイルは子供達を家に呼び集めた。
「あなたたちも本当に大きくなりました…。誰かに聞いたかもしれませんが、今月の16日に、皆さんの成人のお祝いをします。その日からはあなたたちも大人の一員。村のために働いてもらうこともあるでしょう。そして、村の外に出て行きたいというなら、それも構いません。あなたたちは、ケナブレスに行きたいのでしたっけね」アルシェイルは少し寂しそうにほほえんだ。
「それもいいでしょう。ただ、その前にあなたたちにはこの世界のことを知ってもらわなければなりません。本からなんとなく知っている子や、外から来た子には当たり前の話もあるかもしれませんが、明日から社会、地理、歴史の集中講義を行いますので、うちに来て下さいね。」
翌日から、成人の儀式である講義が始まった。初日は社会の授業だった。
「皆さんはこの村から出たことが無いので想像できないかもしれませんが、この村の外にはもっとたくさんの人間が住んでいる大きな町があります。しかし、そこに住んでいる人間達は皆さんとは少し違います。尻尾もないですし、角や翼、鱗や羽毛もありません。みんな同じ姿をしています。個性の無い感じですね。
でも、実はこれが世界の大多数を占めているのです。あなたたちのような個性ある人達は、大多数の人間の中ではTieflingと呼ばれています。Tieflingには、デーモンの血が混じっていると言われています。そのせいで、色々な個性が生まれるのです。村をたまに襲ってくるので、なんとなく判っているかもしれませんが、このデーモンというのは基本的に悪い生き物です。人々を堕落させ、苦しめ、殺し、全てを破壊することを楽しみにしている奴らなのです。ですから、多くの人間達はその血を引いているあなたたちをあまり良く思いません。実際にあなたたちがどうであるかを見ず、差別することも多いのです。
私がこの村の村長をしているのは、それが理由です。この村ではTieflingであることで差別されることはありません。Tieflingという呼び名すらも、気にする必要は無い。それは外の人達がつけるレッテルであって、本質ではありません。あなたたちは人間です。
ただ、外に行くときには気をつけて下さい。なるべく、他の人達と同じに見えるようにして下さい。無駄なトラブルで、傷つくことはありません。」
そういった話の他にも、Worldwoundの概況や、村の成り立ちなどもアルシェイルは話した。
翌日は、地理だった。Worldwoundの大きな地図を囲んで、講義は始まった。
「皆さんの住んでいるこの村は、Worldwoundと呼ばれる地にあります。
Worldwoundの中心地には大きな裂け目があって、ここから別世界AbyssのRasping Riftsという所につながっています。Abyssはデーモンの世界で、この裂け目を通って彼等はここWorldwoundにやってきています。
裂け目の中心地にはThresholdという塔が建っていて、ここに最初のAbyssとの通路ができたと言われています。以来、Abyssとの裂け目は少しずつ広がっているのです。」
「Abyssとこの世界は、もともとどういう関係にあるのですか?」オーディーが聞いた。
「流石オーディー、いい質問です。私は専門では無いので少々感覚的な説明になりますが、だいたいこんな感じです。まず、我々の住むこの世界はMaterial Planeと呼ばれています。そして、タマネギのように、その外側を4つのElemental Planeが覆っています。まずはAir、そして空気と水の境界があってWater、水底に岩盤があってEarth、マグマの領域があってFireという順番です。このタマネギが、Inner Sphereと呼ばれている一群です。それで、その外側には、Astral Planeという広い空間が広がっています。そして、このAstral Planeは、Outer Sphereと呼ばれる『殻』で終わりを迎えます。この殻の内面には、HeavenからHellまで、神の領域が広がっています。さて、Abyssというのはこの殻の外側に広がる無限の地面のようなものに広がる、蟻の巣のような穴です。穴はたまに大きな空間につながっていて、そういった空間の一つ一つを、恐ろしいデーモンロードが支配しているのです。Rasping Riftsもそういった空間の一つで、そこにある亀裂は様々な別世界につながっている。そして、そのうちの一つがWorldwoundというわけなのです…。そういう意味で、最もこのMaterial Planeと離れたところにあるはずのAbyssとつながっているというのは変な気もしますね…。」
その日は、主要なWorldwoundの場所について学んで、終わった。
翌日、最後の日は歴史の講義だった。
「昔、この土地はサーコリスと呼ばれていました。人々は部族を中心として村や街を作り、神や自然への信仰を中心として素朴な暮らしを営んでいました。
最初にこの地にデーモンの影が差したのは、今から300年も前のこと。デスカリのカルトがこのあたりで活動を始めたのです。しかし、カルトとデスカリの化身は、英雄神エイローデンによって打ち倒されました。
しかし、今から110年前、エイローデンが死んだと言われるその年に、魔女エイリールとデスカリは邪悪な儀式によってこのWorldwoundを開いたのです。
エイローデンの死後、その信徒達を受け入れ大きく成長した正義の女神アイオメディの教会はWorldwoundからあふれ出てきたデーモン達に対して聖戦を行うことを世界中で呼びかけました。こうしてメンデヴに人が集まり、第1次クルセイドが起こりました。結果は、統率の取れないデーモンの軍勢を人間達が協力して打ち倒し、クルセイド側の勝利となりました。デーモン達はメンデヴの国境付近から追い払われましたが、サーコリスが南方の干渉を嫌い、クルセイドはWorldwoundの中心地まで攻め入ることはありませんでした。
そしてその6年後、再びデーモン達は姿を現しました。しかし、今度は前よりもずっと統率の取れた形で。また前と同じだろうとたかをくくっていた第2次クルセイドの戦士達は、デーモン達に負けに負けます。そもそも、自由にテレポートが使える軍隊を相手に、普通の人間達の軍隊が太刀打ちできるわけはありません。これにより、サーコリスの国は滅び、メンデヴのクルセイダー達は国境付近に対デーモン用の結界、Wardstoneを構築して、Worldwoundの影響をサーコリスから外に出さないという方針に変更しました。こうして、戦線はWardstoneを教会として膠着状態となったのでした。
しかし、デーモン達は人間の心に徐々に忍び寄り、内部からの裏切りを起こさせます。これに対抗するため、アイオメディのInquisitor達は大規模な『魔女狩り』を中心とした第3次クルセイダー計画を実行、デーモン達も倒しましたが、それ以上に罪の無い民間人が疑いをかけられ、拷問され死んでいったといいます。50年ほど前の話です。数年で、大きな成果を上げられないまま第3次クルセイダーは収束していきました。
最も最近の第4次クルセイドは、9年前、サールディンも巻き込まれたあの事件、嵐の王コーラムゼイダと名乗るデーモンが突如ケナブレスに乱入してきたことに端を発します。幸いWardstoneは護られ、人々は反撃を開始しました。しかし、デーモン達は大規模な侵入を行うのでは無く、Wardstoneを護る砦を断続的に襲ったりといったゲリラ戦を仕掛けてきたのでした。そして、謎の塔Yathを作り上げ、その力でWardstoneの防壁を突破してMendevに侵入する事件も相次ぎました。しかし、噂によればYathの塔は滅ぼされ、そこを起点として計画されていたデーモン達の大規模な進軍は未然に防がれたとのことでした。これを機に、実体としての第4次クルセイドは終了したとの見方が一般的のようです。中には、今回のクルセイドはまだ終わっていない、という人達もいるようではありますが…。」
他にも様々な歴史の出来事の説明を受けて授業は終わった。アルシェイルが何か質問は無いかと聞くと、スピーディーが手を上げた。
「あの、なんで誰もデーモンを追い払おうとしないんでしょうか。そのWorldwoundの中心地に行って悪い奴を殴ればいいんじゃないでしょうか」
「それがそんな簡単にできることなら、こんなに長いWorldwoundの歴史を説明する必要な無かったでしょうね。Worldwoundの中心地、Wounded Landに行って無事に帰ってきたクルセイダーはいないと言われています。有名な、『プリンスザカールのバラッド』は、Izへと向かったクルセイダーの一団が戦いながら一人また一人と倒れていく悲劇を歌ったものだそうですよ」
「…でも、あきらめるのは間違ってます」
「…それはそうかもしれない。スピーディー、あなたも強くなったとドーレスタから聞いています。その志を果たしたいのであれば、ケナブレスに行ってクルセイドに加わるといいでしょう。
他にも、色々な目的でケナブレスに行く子達がいると思います。成人を迎えれば、あなたたちは自由。思うままに生きてみるのもいいとDesna様ならおっしゃると思います。ただ、あなたたちは私たちみんなの子供。絶対に死なないで、いつかこの村に帰ってきて欲しいと、私たちがそう思ってあなたたちに生きる術を教えていたことを忘れないで下さい」
その時、外で爆発音が響いた。スラッシュの叫び声が聞こえる。
「アルシェイル、デーモンの襲撃だぞ!大軍だ!」
「…。」
アルシェイルは険しい顔で立ち上がり、立てかけてあった弓を取った。
(続く)