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20200530

第十話

  英雄たち、コルボサに行く

 季節はもう春。マグニマーからコルボサへの船旅は、天候にも恵まれて快適だった。マグニマーから陸沿いに南に向かい、レディーズ・ライトという巨大な女性の像を左にみながらさらに陸沿いに東へ向かう旅路だった。左に見える陸地は、マシュフェンと呼ばれる湿地帯で、人が住んでいるような町はないということだった。巨大生物やモンスターたちがねぐらにしており、足を踏み入れる人はあまりいないらしい。
 コルボサへはおよそ2週間かかった。途中、巨大ゴカイなどに襲われたり、コルボサ近くの海に住み着いたドラゴン・タートルと遭遇したりもしたが、船が壊されることはなかった。
 コルボサは、ジェガー川の河口近くにできた城塞都市だった。サーシャはティヤリーの気まぐれ号を河口に進めると、「オールド・コルボサ」と呼ばれる中洲に船を泊めた。
 アヤヴァが前回調査に来た時に泊った宿に連れて行ってくれたが、運悪く今日はコルボサのお祭りがおこなわれる日だということで、旅行客が多く、部屋が空いてなかった。英雄たちはそれぞれ自分で宿をとることにしたが、交渉ごとが苦手な人たちは、通常にくらべて数倍の宿賃を払わなければならいことになったようだ。

  英雄たち、ソーシェンと会う

 宿の確保ができた後は、アヤヴァに案内されてGatefootに行くことになった。Gatefootはコルボサの南側にある。オールド・コルボサは北側にあるので、北から南へ街のなかを見物しながら行くことになった。道中で最初に目についたのは、町の中にある、城壁で囲まれた建物だった。アヤヴァが言うには、魔法学校とのこと。秘術を外にもらさぬよう、壁で守っているのだろうか。
 さらに南に行くと、巨大なピラミッドの上に建てられた城が見えた。これがコルボサ城らしい。コルボサは、2代つづけて女王が治めている街とのことだった。先代の女王イレオサは、悪魔に取りつかれてかなりひどい治政を行った。しかし、現職の女王は、善政をひいており、住民に好かれているらしい。城からランプ大通りを抜けてケンダル広場にくると、屋台が沢山出店していた。広場には巨大な木製の人形が建立されていた。人形の造形から、先代女王のイレオサの像であることが分かった。広場を抜けて、Gatefootに向かう。
 Gatefootは、ケンダル広場から海側にすこし歩いたところにあった。リドルポートにあったジンチャーの屋敷よりも大きな、石でできた人間の左足が、西南西に向かって鎮座していた。足首から上は、破壊されたのか、残っていなかった。その巨大な足首の像の前に、見知った人物がいた。オードラーニだ。彼女は我々を見つけると、胸元まで右手を上げて、小さく横に振った。
 マグニマーにいるはずのオードラーニがなぜコルボサにいるのか?疑問を持ちながら近づいていくと、私はさらに違和感を感じた。彼女はいつも無臭、香りを身に着けることがなかったが、このオードラーニは果物のような甘い香りがする。
 「なに、この姿のほうが見つけやすいと思うてな。それに、近頃コルボサでは、ピーコック・スピリットの信者どもが怪しい動きをしているのだ。わざわざ一目を引く格好をするいわれもない。が、ヴァリシアの英雄たちと合流したとなれば話は別。元の姿に戻ろうかのう。はじめてお目にかかる。ジュリアだ。」
 そういうと、オードラーニは首に巻いた赤いスカーフをひらひら動かした。すると、次の瞬間、顔と姿が....ロスに似た美人の人間となった。ロスも相当美人なのだが、ジュリアと比較すると、少しだけ猫背で、少しだけガニ股に見えた。顔は、姉妹かと思うほど似ている。
 ジュリアは一緒にいたアヤヴァに目をやると、「案内ご苦労。もうどこなりと行ってよいぞ。」と声をかけた。それを受けてアヤヴァは、「じゃ、あたし、ケンダル広場でぶらぶらしてるから」と言って、その場を離れていった。雰囲気に気おされたようだった。ジュリアは私にも同様の視線を向けたが、男サンディオン、こんな面白い場面を離れるわけにはいかない。交渉して一緒にいる許しを得た。
 ミリアルが、「あなた、ルーンロードのソーシェンじゃないんですか?」とジュリアに問いかけた。ジュリアは、その質問が意外だったのか、興味を示したような顔をしてこう答えた。「厳密には、私はソーシェンではない....。が、なんじらにとっては同じことか...。では、私のことをソーシェン様と呼ぶことを許そう。」
 ジュリア改めソーシェンは、今夜コルボサの祭りがあることを知っている様子だった。「込み合った話をせねばならんが、祭りの喧噪のなかで話すことにしよう。ヴァリシアに住む者の活力を感じながら...。」
 そういうと、ソーシェンは我々をケンダル広場の方に導いていった。

  コルボサの祭り

 ソーシェンは、ケンダル広場に咲いている雑草の花を見つけると「あ、これは私の時代にも咲いていた花だ。これを使って『ソーシェンのささやき』という香水を作ったものだよ。」といった。実際に香水を作るためにはほかにも材料がいるらしい。中には、龍涎香のように高価なものも含まれている。どうやらソーシェンは香水を作る創作意欲に駆られているように見えたので、ミリアルなどが材料を探すため、コルボサ中を駆け回ることとなった。
 時刻は午後6時くらい。ソーシェンは、ケンダル広場の中央にあるお立ち台にやってきた。ここでは、素人の人間がいろいろな芸を披露することができるらしい。見物していると、「深紅の裏切り」を劇団員たちが演じていた。前女王のイレオサが当時王様だったエオドレッドを毒殺して、彼の王冠を自分の頭に被る内容だ。それを見ると、ソーシェンは「ああ、幾星霜の年が過ぎても、支配者の継承は同じ手続きを踏むのだな。これはいいことを知った。」と、不気味につぶやいた。その後、ソーシェンの勧めでロスがお立ち台に上がって歌を歌ってみたが、あまりウケなかった。そのあと、アラモスが奇跡の美声を披露し、なんとかソーシェンの機嫌を損なわないですんだ。
 芸を見た後は、広場の屋台をひやかすことにした。しばらく歩いていると、羽に髑髏の印がついている大きな蛾が飛んできた。ソーシェンはそれを見つけると、「あ、これは珍しい。殺さずに捕まえておくれ」といった。ミリアルが魔法を使って蛾の動きを遅くすると、ロスがさっと捕まえた。ソーシェンにそれを渡すと、ソーシェンは「もしも、この蛾が宿敵の生まれ変わりだと分かったとしたら、どうする?」と問いかけた。ロスは「どうも致しません」とだけ答えた。ソーシェンはそれを聞くと、肩をすくめて蛾を空に放った。私は、「モザマーが生まれ変わって蛾になったとしたら、果たしてロスは本当に許すのか」?と一瞬考えてしまった。まあ、ロスなら本当に許すかもしれない。
 時刻は8時ごろ。ソーシェンは食事をとるべく、レストランへ向かった。コルボサ名物の食事はどれも美味だったが、ソーシェンは現代の食器の使い方や、慣習になれていないようだった。見ているうちに、機嫌が悪くなっていくのが分かる。食事に同席した我々は、彼女の気をそらせるためにいろいろな話をし、なんとかその場を取り繕うことができた。
 食事が終わった後、広場に設けられた豚の囲いにやってきた。ここでは、コルボサ名物「ハムの王冠」というゲームをやっているらしい。豚の囲いの中は、ぬかるむ泥が入っていて、とても滑りやすい。その中に、挑戦者が入って逃げ回る豚を捕まえ、頭にハムで作った王冠をかぶせれば勝利である。これにはロスが挑戦し、1度で成功させた。ソーシェンと周りで見ていた人たちは、女性が成功させたことに喝采を送っていた。
 他の挑戦者が豚と格闘するのをしばらく眺めたいたところ、ノームの酒売りが、樽に入れた酒を手押し車に乗せてやってきた。「ロード・モルトの特製、その名もファイヤーだよ!」と叫ぶノームは、前掛けに様々な種類のコップをぶら下げていた。ソーシェンがその中でもひときわ目に着くグラスを見つけ、手に入れるようにロスに頼んだ。ロスはノームと交渉していたが、なんと500gpを吹っ掛けられていた。せいぜい50gpくらいの価値だと思うが...。まあいいか。
 手に入れたグラスは、持ち手が金属製のワイングラスに似ていた。ただし、持ち手の先がとがっていて、テーブルに置くことができない仕様になっている。ソーシェンは、このグラスを使った「Lying Cup」という遊びを提案してきた。参加者は、それぞれお金をかけた後にグラスの酒を飲み、個人的な質問に答え、グラスをテーブルにうまく突き刺すことができたら成功という遊びだ。質問に対して嘘をついた場合で、嘘を見破られたときは、もう一度酒を飲むところからやり直しになる。酒を多く飲むほどテーブルに突き刺すのは簡単になるが、酔っぱらってしまうので長くゲームに参加することはできなくなる。ソーシェンはこのゲームに積極的に参加し、ユタに関する個人的な質問をしていた。最終的にゲームに勝利したのは、酒に強いバルスラクだった。

  ルーンロード・ズサ

 祭りに参加している間、ソーシェンはルーンロード・ズサについて様々な情報を教えてくれた。それによれば、エリガンタスという名前のネクロマンサーが、ヤマソス信徒からズサのフィラクタリーの一部である、「骨のグリモア」を手に入れたということだった。エリガンタスは骨のグリモアに書いてある内容を学んで、「Brotherhood of the Seal」が守っているとある封印を解くことを目的としている。それが、エリガンタスが属している「Whispering Way」の使命なのだそうだ。
 ところが骨のグリモアには、副作用がある。それを読んだものは、精神がズサの魂に侵され、やがて他の2冊の書「カーダシアン・コーデックス」と「黒の書」を手に入れたくなるらしい。骨のグリモアと合わせて3冊がそろうと、「暴食の書」がすべてそろい、ルーンロード・ズサが復活してしまう。
 ズサの復活を阻止するためには、骨のグリモアをタッシロンの古代遺跡(マグニマーの西50マイルのところにある小島群)に運び、ルーン・ウェイキングの儀式を行う必要がある。儀式が終わると、ズサの魂が実体化して1分間だけ現実世界にやってくる。それを時間内に倒すことができれば、骨のグリモアは破壊されるらしい。ソーシェンは、儀式を行うために必要な情報をすべて教えてくれた。
 Brotherhood of the Sealの信徒は、Stoval RaiseにあるTwisted Doorを抜け、Halflight Pathの途中にある隠し教会にいるらしい。コルボサから出て1週間程度で行ける場所だ。次の目的地はここに決まった。
 ソーシェンは、他のルーンロードについても少し教えてくれた。アラズニストが復活しているのは間違いないとして、おそらくザンダガールも復活しているだろうとのこと。この2人は強力なので、うかつに手を出してはいけないそうだ。ベリマリアスについては気にしなくていいらしい。カーズーグに騙されて、どこかに閉じ込められているのだそうだ。
 ルーンロード以外のことでは、彼女は今のヴァリシアに大変興味を持っているようだった。「アズラントから来た文明人がヴァリシアの野蛮人を支配する」というのがタッシロン時代の国の成り立ちであった。しかし、現在、圧倒的な力をもった支配者がいないヴァリシアが、外部からの侵略をはねつけている。特に、ルーンロード・カーズーグを退治してしまったことに感心しているようだった。「カーズーグは、やり方を間違えたらしい。そうであれば、私もそれに学ばなくてはな。」とソーシェンは微笑んで言った。しかし、「明らかに、アラズニストは何も学んでないようだが。」と付け加えるのを忘れなかった。
 「他のルーンロードを退治した後は、あなたはどうするんですか?」と私はソーシェンに尋ねた。どうも、ルーンロードの間での、派閥争いに利用されているような気がしたからだ。ソーシェンは、少し驚いたような顔をして言った。「ずいぶんと気が早いな。ただし間違えるな。私は、私の競争相手を殺すためにそなたらを利用しているわけではない。むしろ、ルーンロードとヴァリシアとの争いにおいて、ヴァリシア側に肩入れをいているのだ...。可能性があると思っているからな。しかし、もしこの争いにルーンロード達が勝利することになったら、私も考えを改めて、古いやりかたに戻らなければならない。そうならないことを祈っている。首尾よくことがなれば、私はタッシロンができなかった平和な国づくりに協力したいと思っている。今の、ヴァリシアのやり方でな。」

  宴の終わり

 「Lying Cup」が終わった後、一同は酔っぱらってしまっていたが、ソーシェンがカバンから取り出したレストレーションの薬を飲んで酔いを醒ますことができた。「少し休むか。」そういうと、ソーシェンは赤いスカーフをひらひらと動かすと、空中にふわりと浮いてゆき、広場の物見台の上に腰を下ろした。私を含め、物見台に上がれる者たちは、彼女に続いた。空に浮いたり、よじ登るのが不得意な者たちは、地上に残って祭りの人ごみの中にまぎれていた。
 しばらくすると、周囲の時間の流れが止まった。広場を照らす炎の揺れがとまり、広場の人たちはすべて動かなくなった。ソーシェンも、動いていない。ただ、英雄たちと私だけが、止まった時間の中で動くことができた。物見台の上から地上を見下ろしてみたところ、英雄たち以外に動いている人影が見えた。青いローブに身を包んだ男...と言っていいのか?頭の上半分が青白い炎に包まれてた男が、人込みのなかからユタに切りかかった。その姿は、リーリアが「時間の世界」を調べているときに教えてくれた、タイム・フレイヤーに似ていた。
 タイム・フレイヤーが作り出した空間では、ヘイストのような呪文は一切効果がない。が、ユタロスバルスラクが同時に攻撃することにより、タイム・フレイヤーは劣勢となっていった。あと少しで止めがさせるところまで行ったのだが、結局それは最後に逃げて行ってしまった。
 時間の流れが普通に戻った後、ソーシェンに事の顛末を話した。すると、彼女はとても興味を示していた。「これは、やはり、アラズニストを倒すのは、そなたたちだという証かもしれん。」と、納得したように頷いていた。
 時間は真夜中あたり。ソーシェンは皆を連れて、元女王イレオサの像の近くに来ていた。毎年この日の真夜中に、イレオサの像に火をつけて燃やしてしまうらしい。これがこの祭りのフィナーレのようだ。像には赤い布が巻き付けられており、それには油がしみこませてあった。松明で火をつけると、あかりが魔法の光のように布をはい回り、イレオサの像を一瞬にして炎で包み込んでしまった。観衆から、大きな歓声が上がる。
 すると、像の頭のあたりに巻き上がった炎が鳥の形を作り、大きく羽ばたいた。鳥は、青、緑、黄色、橙など、さまざまな色の炎を身にまとい、まるで巨大なクジャクのように見えた。「ほう、これは奇妙な趣向だのう。」と、ソーシェンはクジャクを見ていった。周りの観衆たちも、祭りの演出だと思ってクジャクの方を見つめている。
 そのとき、クジャクは大きく鳴き声を上げて、口から炎をソーシェンめがけて吹きかけた。この炎によって、ソーシェンの周りの一般人たちが火だるまになってしまった。ケンダル広場に人々の悲鳴が響き渡る。時を同じくして、クジャクの羽をあしらった服装をしている修道僧たちが、ソーシェンを目指して集まってきた。彼女が狙われている。
 ソーシェンは、姿を消す呪文を唱えて安全な場所へと逃げ出した。ミリアルが呪文で、ロスが弓矢を使って空飛ぶクジャクを攻撃した。一方残りの英雄たちは、地上で修道僧たちの相手をした。ミリアルアラモスが僧たちの拳法によって気絶させられたりもしたが、ほどなく全員退治することができた。
 空を飛んでいたクジャクは、主にロスの弓矢と、リーリアの魔法の弓によって退治することができた。ずいぶんと時間がかかったため、クジャクを倒したときには、人々たちはすでにケンダル広場から退避していた。広場には人がおらず、屋台は押しつぶされてさんざんな有様になっていた。私は、巻き添えになって死んでしまった人たちの死体をみるといたたまれないような気持になった。その後、クジャクが倒されたことを知ると、しだいに町人が戻ってきた。その中には、アヤヴァもいた。幸いなことに、ソーシェンも無事だった。
 この騒動を解決したのが英雄たちだと分かって、町人たちは歓声をあげた。彼らは、コルボサの英雄となり、朝までいろいろな人から飲み食いに付き合わされることとなった。もちろん、私も喜んでそれに参加した。

  英雄たち、Twisted Doorに行く

 ソーシェンに見送られながらコルボサを出たのはそれから1週間ほどしてからだった。ソーシェンは、集めた材料から「ソーシェンのささやき」を作って、ロスリーリアミリアルに渡していた。この香水は、飲めば魔法の薬として身体能力を向上させることができるそうだ。また、彼女が使っていた赤いスカーフを手渡してくれた。
 Stoval RiseにあるTwisted Doorまでは、およそ1週間の旅だった。ミリアルが覚えたての魔法で荷馬車を召喚し、同じく魔法で召喚した馬に引かせることにした。それに揺られながらゆっくりと旅をする。天気もおおむね良好で、快適な旅だった。一度だけ、立ち寄った村の墓場の近くを通った時に変な化け物(地中を潜って襲ってくる、アンデッドのようで実はウーズな生き物)に出会ったが、ロスミリアルがすぐに退治したので問題はなかった。
 Twisted Doorは、Stoval Riseという大きな絶壁にある扉だった。ここからHalflight Pathという道を通って、Stoval Riseの上まで登ると、そこにある都市がキーエ・マーガだ。扉の周りにはDusk Wardenというレンジャーの集団がいて、Halflight Pathの道案内を生業としている。英雄たちは「クロットル」という名前のドワーフを雇い、いくらか金を渡してBrotherhood of Sealの神殿まで案内させることにした。

  ロス、Shrine of the Sealに入る

 Brotherhood of the Sealの神殿は、Halflight Pathから少し離れたところにある行き止まりの道から、隠し扉を通じていった先に会った。神殿の入り口には鹿の角で作られた弓が装飾されている。どう見てもエラスティル神殿のように見えた。神殿の入り口は大きな鉄の扉でふさがれていた。扉をたたいてしばらくすると、のぞき穴が小さく開いて、中から老年の男の声がした。現在、この神殿は活動中止中で、来客をもてなすことはできないということだった。
 ロスは、「実はWispering Wayという悪い者たちがこの神殿を襲う予定なので、助けに来ました。」とストレートに用件を伝えた。老人は、自分の権限ではそういったことに対応できないという。ロスが「では、神殿の責任者に会わせてください。私一人で、武器は持たずに中に入ります。」と言った。かなり危険な提案だ。私は止めたほうが良いんじゃないかと思って他の人たちの顔を見てみたが、ミリアルはじめ、英雄たちには止める気はないようだった。いざとなったら魔法で中に転移してしまえばいいという気持ちと、ロスは言っても止められないというあきらめの気持ちがあるのかもしれない。
 神殿の中に入ったロスは、茶色のローブに身をくるんだ男に案内されて、奥へと進んだ。祭壇の背後に、さらに奥へと続く門があった。老人によると、門の先は回転扉になっているのだが、現在回転が止まっていて、動かすためには動力が必要らしい。その説明の後、老人は祭壇の横にある隠し扉を開いて、「ゴーレムを連れてくるのでここでお待ちください」と言って中に入っていった。
 しばらくすると、隠し扉の奥から、土色の肌をした大きな人型が現れた。それは、表情のない顔をロスに向けると、ゆっくりと近づいていった。

(つづく)