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20200509

第九話


  英雄たち、リドル・ポートに行く

 マグニマーは、まだ冬だった。空から白いものがちらほら降ってきている中、私、サンディオンは英雄たちとともにティヤリーの気まぐれ号に乗り込んだ。船長のサーシャが言うには、通常冬にこのサイズの船で北に向けて出港することはないのだそうだ。ヘイドマーチたっての依頼ということで了承したらしい。アラモスユタは乗組員たちに「寒さ除け」の呪文をにかけて、安全な旅がおくれるように協力していた。
 船旅は1週間ほどだったが、その間4度化け物に襲われた。いずれも夜中の襲撃であった。どうにか退治することができ、船が化け物によって壊される前にリドル・ポートにたどり着くことができた。

  英雄たち、クレッグ・ジンチャーに会う

 リドル・ポートはバルスラクの出身地だ。彼の案内によってクレッグ・ジンチャーの館を見つけるのはたやすかった。5階建ての木造で、建物の意匠からかっては豪華な館だっただろうことが想像できた。しかし、近年それほど手入れがされてないと見える。おそらく館の主人はお金を他のことに使わざるを得なかったのだろう。
 ジンチャーの屋敷を訪問する前に、「ロスが変なこと言ったり、変な約束するかもしれない」とミリアルが言い出した。確かに、ロスは筋の悪い人間と友達になろうとするところがあるし、勝手に約束をしてしまうところがある。そこで、今回はロスが口を開かないように見張りをつけて、その代わりにミリアルが交渉を行うことにした。
 屋敷を訪ねると、最初に出てきたのはジンチャー家の執事だった。クレッグ・ジンチャーに危機が訪れていることを告げると、執事は下がって代わりに「ミスター・マジェンダ」なる男が出てきた。マジェンダはしばらくミリアルの話を聞いていたが、あまり危機感を共有してくれてない。しばらくして、こう言った。「ジンチャー様は今日は忙しくて面会できないんだよ。数日中にこちらから連絡するから、連絡先を教えてくれないか?」ミリアルは宿泊予定の宿屋の名前を教えていたが、私から見ても彼が本気でそう言っているとは思えなかった。とりあえず話だけ聞いて、厄介払いをするつもりらしい。しかし、そういわれるとどうしようもないので、一旦引き下がることにした。
 そのあと宿屋に引っ込んだ英雄たちは、それぞれヤマソス教団について噂を聞いたり、明日以降どういう行動をするか考えたりしていた。私は宿屋の隣の酒場で食事を取ることとした。リドル・ポートの食事はあまり私の口には合わないが、酒は強烈に強いものがそろっている。食事の後にちびちびやっていると、ロスがやってきてカウンターで酒を注文した。声をかけようかとも思ったが、「一緒に飲むことになったら酔いつぶされてしまうかも」しれないと思いなおして、やめることにした。私はロスほど酒に強くないのだ。
 しばらくすると、角刈りで筋肉質な男がロスに話しかけていた。ロスは一見美人でスタイルもいいので、男だったら話しかけてみたくなる気持ちは分かる。しかし、しばらく話しているうちに違和感(中身が男)に気が付いたのか、角刈りの男はロスから離れていった。
 一夜明けて、英雄たちは思い思いの行動を開始した。私はバルスラクとともにジンチャー屋敷の近くを見張ることとた。ヤマソス教団らしい者が、建物の下見に来るかもしれないと思ったのだ。しかし、実際に来たのはロスだった。ロスは屋敷から出てきたマジェンダとしばらく話していたが、そのあと屋敷の中に入っていき、1時間ほどして出てきた。ロスバルスラクと私を見つけると「館と巻物を守らせてもらえることになったよ!」と嬉しそうに報告してきた。どういう話をしたのかはわからないが、結局交渉事はロスのほうがミリアルよりも上手だということなのだろう。
 その日の夕方、英雄たちはそろってジンチャーの屋敷を訪問した。驚いたことに、ジンチャーは私が酒場で見た角刈りの男だった。ジンチャーはペットのアックス・ビーク、2羽を我々に見せ、「こいつは、俺に残された最後の家族みたいなものなんだよ」と自慢げに話した。また彼は、屋敷を一通り案内してくれ、最上階にある宝部屋の場所と、周辺にどのような罠がかけられているか説明してくれた。館には沢山の個室があり、かつては食客が大勢住んでいたようだが、近年落ち目になったジンチャーに従うものはあまりいないようだった。彼の部下はマジェンダ、隊長格の男が2名、そしてその下に8人のチンピラがいるだけだった。そのほかに執事とコックがパートタイムで働いていた。

  英雄たち、ヤマソス教徒を撃退す

 英雄たちは宿屋を引き払ってジンチャーの屋敷で寝泊まりすることにした。幸い部屋は沢山余っている。そうこうするうちに、ゲットーで見つけた日誌に書いてあった「ジンチャーが屋敷を離れる日」がやってきた。ジンチャーはマジェンダと2人でアリーナの権利を売って金を作るための交渉に出かけて行った。出かけて行ったのは日暮れ前。襲撃が行われるとしたら、ここから明日の朝までの間だと予想できた。英雄たちは5階の宝部屋を中心に襲撃に備えることにした。
 日が暮れて1時間ほどすると、1階にいたチンピラから報告が上がってきた。1階にある扉の様子がおかしいということだった。ロスミリアルが様子を見に行くと、確かに扉が異様に傾いていた。よく見ると、扉の下にある石で加工された部分がぐずぐずに崩れており、重い扉の重量を支えきれなくて傾いている。1階には外から入ることができる扉が3つあるが、それぞれ同じように異常が発生していた。何らかの魔法がかけられているのか?
 ミリアルはチンピラに扉に特に注意するように指示を出して、5階にいる他の仲間に警告をしに戻った。すると、途中の通路にネズミほどの大きさの変な生き物がいることに気が付いた。ロスが攻撃するとすぐに退治できたが、この変な生き物が斥候として館の中に入ってきているようだ。英雄たちは、強化魔法を唱えてさらなる襲撃に備えた。
 次に動きがあったのは、それから約1時間後だった。1階で戦闘音が発生したので、またロスミリアルが1階まで下りて行った。どうやら、ヤマソス教団が1階の3つの入り口から一斉に館に突入してきたようだ。カルトの信者は20人ほどいるようだった。こちらにはたった10人程度の守りしかいない。ジンチャーの部下たちは明らかに劣勢だった。ジンチャーの大事なアックス・ビークもこのとき殺されてしまった。チンピラを率いていた隊長格の男2人は、混乱に乗じて館から逃げ出してしまった。
 ロスがグレイブをふるって5人ほどを退治している間に、ミリアルが炎と電撃の呪文で正面入り口付近の敵を焼き殺していった。これに敵はひるんだのか、一旦攻撃は止まった。しかし、カルトの信者はなにやら発火性の化学物質を持っていたらしい。ミリアルの魔法がそれに引火して、屋敷の正面入り口付近を炎で包み込んでしまった。
 一方5階では、ヤマソス教団の頭目、レプトニアが天井から穴を開けてなかに侵入していた。静寂の呪文をかけて気付かれないようにし、連れてきたクリッポスの悪魔を5階の別の場所に出現させて英雄たちの気を引いているうちに巻物だけ奪って逃げる算段だったらしい。レプトニアは宝部屋の横の部屋から壁を破壊して中に入り、その部屋の中で待ち伏せしていたユタと鉢合わせになった。恐竜に変身して待っていたユタは、レプトニアのお供の信者を退治すると、レプトニアを宝部屋から押し出す形で圧力をかけていった。しかしレプトニアも一筋縄ではいかず、行動阻害の呪文や混沌、悪の呪文などで英雄たちを苦しめていった。最後は、リーリアが力場の球体に閉じ込める呪文を使い、レプトニアを無力化させることに成功した。
 手を焼いたのは、クリッポスの悪魔だった。人間の大腸がミミズの塊のように集まったように見えるその悪魔は、そのおぞましい見た目により、英雄たちの精神を蝕んでいくのだった。バルスラクロスユタが3人がかりで相手をしたものの、精神攻撃のためなかなか致命傷を与えられない。悪魔はやがて宝部屋に侵入し、宝箱を破壊して中から巻物と金塊を取り出すと、そのまま逃げていこうとした。しかし、間一髪でリーリアの魔法の矢の呪文でとどめを刺すことができ、巻物を守ることができた。
 レプトニアは、巻物を手に入れることができないと観念すると、がっくりと肩を落とした。そして、なにやら呪文を小さく唱えると、力場の球体の中からすっと消えてどこかに行ってしまった。

  クレッグ・ジンチャーの災難

 戻ってきたクレッグ・ジンチャーが見たのは、黒焦げになった自分の屋敷だった。アラモスユタが魔法で消火活動をしたため、焼け落ちるまでにはいかなかったものの、館の資産価値は大きく失われたといって間違いないだろう。また、彼をさらに嘆かせることになったのは、2匹のアックス・ビークが死亡していたことだった。
 宝部屋にあった金目のものと、True resurrectionの巻物はすべて館から退避させてきたと伝えると、ジンチャーは怒りと悲しみを隠しながら、小さくうなずいて「それは、助かった。」といった。しかし、こめかみには太い血管が浮かんでいた。
 ジンチャーは、100ppが入った袋を差し出すと、「報酬はこれだ。」とロスに押し付けた。
 レプトニアに逃げられていたので、これで解決まで至ったのかよくわからなかった。翌日の朝、英雄たちは「神託」の呪文でヤマソス教団が巻物をこれ以上狙っていないことを確認した。また、打ち漏らした何人かがリドル・ポートから馬で逃げ足しているということも、情報収集しているうちに分かってきた。そうであれば、もうリドル・ポートにとどまる理由はない。一旦マグニマーまで戻ることにした。

  英雄たち、ステテロスの守り人に会う

 リドルポートからマグニマーまでの船旅は、往路に比べて穏やかなものだった。天候にも恵まれていたし、モンスターに襲われたのも1晩だけだった。船を降りた後、サーシャたちと別れて、パスファインダー・ロッジに顔を出す。クルーンの復活を阻止できたことと、ヤマソス教団の大部分を退治できたことを報告した。ヘイドマーチはそれに感謝し、報酬の残金を支払ってくれた。また、彼女はアヤヴァをコルボサを視察するために派遣していると教えてくれた。なんでも、アヤヴァのほうから立候補してくれたらしい。
 というわけで、アヤヴァがコルボサから帰ってくるのを待つことにした。
 1週間ほどたったところ、突然英雄たちをモンスターが襲ってきた。宿屋の大部屋でくつろいでいた時だったので不意を撃たれた形になった。以前みた紫色の煙と臭いにおいが部屋の隅から立ち上がり、2体の犬のような生き物が突然部屋の中に現れた。犬たちは、リーリアに集中して攻撃し、彼女を血まみれにしてしまった。ロスユタバルスラクが反撃して倒すと、犬たちの死骸はかき消すようにいなくなってしまった。
 いったい何があったんだと部屋の中を見回す私だったが、いつの間にか若い女性が部屋の中にいるのに気が付いた。彼女は赤い服を着ており、左手に大きな砂時計をもち、右手に大型のナイフのような武器を持っていた。女は英雄たちを見渡すと、次のように言った。

You have questions, but I shall not answer them today. You will ask them in time, and I shall reveal what I can. Know for now that you have caused great turmoil in the Dimension of Time, and you have been marked by Time's guardians and predators. I am but Time's Steward, and I bring you gifts from yourselves. Use these gifts well. I have spoken to you twice more in the tomorrows to come, and should you be destined to survive at all, I shall await you in Stethelos.

 女はそれだけ言うと、消えてしまった。「ステテロス」とは何なのだろうか?後日アラモスが調べてみたが、詳しいことは分からなかった。関連する言葉として「ヨグ・ソトース」というものが見つかっただけだった。

  英雄たち、アヤヴァとコルボサに行く

 数日後、アヤヴァがコルボサから帰ってきたと連絡を受けてパスファインダー・ロッジを訪れた。彼女によると、コルボサは活気のある街で、特に変な噂などはなかったということだった。ラグジュリアが味方がどうかはよくわからないが、とにかく一度行ってみようということになった。
 私、サンディオンは、「コルボサに行っている間のジャーナルを書く」ことを条件に、ヘイドマーチにコルボサへの船賃を拠出してもらうことにした。なお、アヤヴァも案内のためについてくるということ。コルボサは誰も行ったことがない場所なので、これは助かる。
 コルボサ行きを決めたその夜、ラグジュリアからSendingの呪文で連絡が入ってきた。

I see you travel to Korvosa. Meet me at the Gatefoot near Kendall Plaza. You shall know me by the sign of the Redeemer Queen.

 彼女は、なんらかの魔法の力を使ってこちらを監視しているようだ。

(つづく)

  リドル・ポートの皆さんに聞いてみました。

  • Cさん、人間:「ロス?ああ、なんだかオヤジくさい女だったな。スタイルはいいのに、もったいないねぇ。」
  • Mさん、人間:「今後について?まあ、なんとかなるさ。」