!!第12話「真夜中の領域へ」 {{outline}} !前回までのあらすじ 突然の嵐の王によるケナブレス襲撃とワードストーン破壊に端を発する第五次クルセイドは新たな局面を迎えていた。 ドレゼン奪還とワードストーンの復活に続き、古都ストラスタの奪還を果たした人類側は更なる攻勢に出ようとしていた。 未だ僅かに2都市にすぎないとはいえ、人類側が旧サルコリア領の奪還に成功したのは、第二次クルセイドにおける屈辱的な敗戦以来初めての快挙である。あるいは今度こそ長年の悲願が達成されるのかもしれない。人々の間では僅かとはいえ希望が広がり始めていた。 だが、事はそれほど甘くはない。デーモン勢にはアポナビシャスやミナーグォといった強力な上位デーモンが残っているし、何よりもケナブレスの守護竜テレンデルブを打倒した恐るべきベイラー・ロード、コーラムゼイダが本格的に参戦してきてはいないのだ。 そのうえ、忌々しいナインドリアン・エリクサーの供給を止める事が出来なければ、並の戦士では到底歯が立たないような強力なデーモンが次々と生み出されてしまう。そうなれば人類側に勝ち目はない。第五次クルセイドは失敗、全てをこれにつぎ込んだメンデヴ・クルセイダーは今度こそ壊滅し、ワールドウーンズから世界中にデーモンが溢れるだろう。あるいはそれすらまだマシと思えるような恐ろしい事態に陥ることもあり得る。 その様な状況の中、この第五次クルセイドの中で頭角を現してきた結成間もない騎士団「Order of the Righteous Might」にクイーン・ガルフリーより密命が下った。 10日後にナインドリアン・エリクサーの供給源たるミッドナイト・フェインを叩き潰すべく強襲作戦を決行する。それにOotRMも参加せよとの命だ。この戦いの趨勢を決めることにもなりかねない重要な作戦だ。まさか否やというはずもなく、我らがOotRMのメンバーは10日後の作戦に備えて英気を養うのだった。   !嵐の前の静けさ1 ストラスタにて ストラスタの一室では大量の香を炊いたケリアンが一心に祈っていた。重要作戦の前に今後の指針を得るべく Divination の呪文に集中しているのだ。 ドロクの事、エイリールの事、ナインドリアン・エリクサーの事、次々と尋ねていくが半ばは回答が返ってこない。恐らくは魔法で護られているのだろう。だが、いくつかは有用な情報が手に入った。 ドロクを助けるには悪を断ち切る必要があるらしい。やはりエイリールによる支配を指すのだろうか。少なくとも最早助けるすべはないと言われなかっただけでも希望はある。 ハルランを断罪するには直接断罪する必要がある。それができる証拠があれば苦労はしないのだが。だが、明確に否定されなかったと言う事はやはりハルランは疑わしいと言う事かもしれない。 ミナーグォはストラスタでOotRMを討ち損なった事により本格的にバフォメットの不興を買い、どこかに左遷されたらしい。おそらく名誉挽回のためにOotRMを狙っている事だろう。気を付けなければ。 ジュリベスは今はアイボリーサンクタムにはいないらしい。彼女はアイボリーサンクタムで配下のバフォメット信者を改心させようと努めているはずなのだが…やはり裏切ったのだろうか。 いくつか気になる情報はあったものの、緊急に動く必要のある情報はない。そう判断したケリアンは大人しく10日後の作戦開始を待つことにした。   一方その頃、ラオツェンはエルファスと面会していた。同じ弓使いであり、デーモンハンターとしての先輩でもあるエルファスから有益な助言を得られないかという目論見である。 パラディンには珍しい弓使いであるエルファスは、寂しい思いをしていたのかラオツェンとすっかり打ち解け、お土産に+1デーモンベインアローを沢山くれる程だった。 すっかり気を良くしたラオツェンであったが、ストラスタの戦いでエリクサーを飲んだ影響か、その晩悪夢を見た。 夢の中、何者かがラオツェンを呼ぶ声がする。 声の方を見ると、それは黒い霧のような姿に赤い目が爛々と光る恐ろしげな悪魔である。悪魔は嬉しそうにご主人様と呼びかけてくる。 よもや悪魔を部下にした覚えなどない。これは一体どうした事か… 悪魔に何者か尋ねてみるとアンヒザールと名乗る。やはり覚えがないが、雰囲気からして相当に強力な悪魔のようだ。 いくつか質問をして分かった事には、彼と彼の主人はデスカりと敵対しており、そのせいでデスカリに唆されたノクティキュラに殺された様だ。 ただ、主人について尋ねても巧妙にはぐらかされ、いずれ時が来れば思い出すと言われるばかりだった。 これはラオツェンが飲んだナインドリアン・エリクサーにアンヒザールの主人のエッセンスが含まれていたのだろうか? あるいはもっと前、Yathの塔で行われた実験に関わりがあるのだろうか? いずれにせよ、また仲間に言えない秘密ができたと一人嘆息するラオツェンであった。   !嵐の前の静けさ2 ドレゼンにて ストラスタではもうやる事もなくなった一行は一旦ドレゼンに戻ることにした。 ペンテシレイアとサールディンがドレゼンに用事があると言っていたし、そうでなくともドレゼン以外ではいまだOotRMに疑いの目を向ける者が多く、居心地が悪いのだ。必要もないのに長居したくはない。   ドレゼンに戻るとペンテシレイアはさっそくアルシェイルを訪ねた。彼女はデーモンでありながら悪の道から抜け出した経験がある。その経験の中に、もはや半ば悪魔化してしまったドロクを助けるヒントがあるのではないかと考えたのだ。 アルシェイルに改心した時の事を聞くと、残念なことにあまりはっきり覚えていないとのこと。ペンテシレイアは昔のデズナの神官が彼女を改心させたのかと思っていたのだが、どうも違うらしい。そもそも特別に強力なサキュバスであったアルシェイルを並のデズナ神官がどうにかできたとは考えづらく、ひょっとしたらデズナ神その人か、それに近いヘラルドが直接何かしたのではないか?というのがアルシェイルの推測だという。 さらに突っ込んで、ではなぜデズナがいかに強力とは言え単なるサキュバスにそんな事をしたのか?と考えてみるも、やはりそれらしい理由は思いつかない。強いて言えばアルシェイルが堕落してデーモンとして生まれ変わる前、まだ定命の存在だった時に何かデズナと関わりがあったのでは?との事だった。 実際、ケリアンの持つ Divine Squares of Mystery にもアルシェイルの名がのっているぐらいだ。彼女はただの改心した強力なサキュバスというだけの存在ではなく、もっと大きな計画の一部を担っているのかもしれない。本人がそれに気づいていなくとも。   Divine Squares of Mystery と言えば最近新たなる問いが現れた。それは今までとはうって変わった内容だったため皆は戸惑いを隠せなかった。 その内容は「ケリアンは何者か」 デスカリやエイリールといった伝説的な存在の名に混じって、自分たちの友人の名が並んでいるのは何とも不思議な感覚だった。無口でめんどくさがりでいつも本ばかり読んでいるケリアンは本当はもっと別の何かなのだろうか?彼もまた自分では気づかずに大いなる計画の片棒を担いでいるのだろうか?ケリアン自身も含め誰も答えは持っていなかった。 一行はなんとなくこの話題は避けていたのだが、ペンテシレイアは思い切ってアルシェイルに聞いてみた。ケリアンは何者か?アルシェイルもまた答えは持っていなかった。彼女が知っているのは、ある日、村の入り口にケリアンが捨てられており、その時から Divine Squares of Mystery を持っていたという事だけだった。 そこから話はペンテシレイアの出生に及んだ。 ペンテシレイアはあまりはっきりとは覚えていなかったが、彼女の母親はイオニアと言い、メンデヴ出身のお嬢様で、何らかの事情により悪魔の子を孕んでしまったため故郷を追放されたらしい。 彼女は運良くアルシェイルの村に辿り着き、そこで悪魔の子つまりペンテシレイアを産んで育てていたが、まだペンテシレイアが幼いうちに亡くなってしまったのだという。そのことを聞いたペンテシレイアは、それまであまり考えたことのなかった自分のルーツについてほんの少し興味を持ったのだった。   その頃サールディンはドレゼンの砦地下の書庫を訪れていた。以前は時間が無くてあまり調べられなかった Cold-Iron Warden についてもう少し知りたかったのだ。書庫は以前よりは大分整理されており、その資料を整理している学者がいたため彼に尋ねてみることにした。 運が良い事に学者はクルセイダーマニアでそういった話をする機会に飢えていたらしく、Cold-Iron Warden だけではなく、他の騎士団についても喜んでいろんな話を聞かせてくれた。 彼の話では Cold-Iron Warden は第2次クルセイドの時期に活躍したクルセイダーで、ワードストーンの建立に関わったとされている。ただ、それ以外にはこれといった逸話はなく、せいぜいが当時は珍しかった親サルコリア派のクルセイダーだったという事ぐらいだそうだ。 また、サールディンの両親が所属していた Order of the Holy Light はもともとはアイオメディに仕える騎士団として活動していた由緒ある騎士団であったらしい。特に華々しい活躍があったわけではないが、永年の実績とアイオメディ神殿の後ろ盾のおかげでワードストーンの維持管理という重要な役目を担っていたらしい。 そして、その Order of the Holy Light を告発した Everbright Church は第三次クルセイドで名をあげた比較的新興の騎士団で、その分魔女狩りや他の騎士団の告発などかなりえげつない手段で成り上がったため、当時は尊敬されるというよりは恐れられていたという。ただ、ほぼ全滅という多大な犠牲と引き換えにYathの塔を破壊するという偉業を成し遂げた点は文句なしに評価されているそうだ。 学者はあまり Everbright Church に良い印象を持っていないらしく、ぽっと出の騎士団が偶々大きなことをやってのけたからといって過大に評価されるのは如何なものか、などと言っていたが、まさにぽっと出で偶々大きな事に巻き込まれたためにクイーンに評価されているOotRMとしては曖昧な表情で誤魔化すしかなかった。   その後、サールディンはモングレルマンのラン達を訪ねたが、彼らは既にドレゼンを去っていた。どうもケナブレスで何か問題が起こったらしく、呼び戻されたという話らしい。なんとなく心配になった一行はケナブレスに向かう事にした。   !嵐の前の静けさ3 ケナブレスにて ケナブレスにやって来た一行は余り人目につかないように町はずれにある入り口からすぐにモングレルマン達の住むニースホルムに向かった。 現在ケナブレスを収めているハルランやその部下であるリオトールはティーフリングに対する風当たりが強く、特にリオトールは未だにOotRMをデーモンと通じた裏切り者と疑っているからだ。 流石にいきなり逮捕などという事はないと思うが、痛くもない腹を探られるのは面倒だ。 特に問題もなくニースホルムに辿り着いた一行をチーフ・スールが迎えてくれる。彼に事情を聞いてみたところ、特に何か問題が起こったというほどではないらしい。 ただケナブレスではカルトの取締りなどが厳しくなってきており、見た目が恐ろしいモングレルマン達が地上で活動しているといらぬ誤解を招きかねないと言う事で再び地下生活に戻ることにしたのだそうだ。 善良なモングレルマン達が見た目が怖いというだけの理由で地下に追いやられることに釈然としないサールディンであったが、自分にその現状を変える力もない以上、彼らの選択に口をはさむことはできなかった。   その後一行は折角近くまで来たのだからと自分たちが育った"村"を訪れた。 "村"は既に荒れ果てており、生命力の旺盛なワールドウーンズの植物達になかば呑み込まれかけていた。幸いなことに死体はほとんど見当たらなかったので、例のアポナビシャスの襲撃から大半の村人は逃げ出せたと思えた。 サールディンは師匠のアンダルトの亡骸を探したが見つからなかったので、奇跡的に無事に残っていた墓地に墓標だけを建てた。またペンテシレイアは墓地で母イオニアの墓を見つけたが、特に何も思い出すことはなかった。   !スタータワーの守護者 "村"を辞した一行はまだ約束の日まで少し時間があったので、サルコリア北西に位置するスタータワーに行ってみることにした。ケリアンがどうしても気になると主張したためである。 ナムハイアスに頼んで半日ほど飛ぶと、天と地をつなぐかのような巨大な建造物が見えてきた。それは何となく異質でおぞましいものを感じさせるものだった。 遠くから呪文で偵察しても特に危険なクリーチャーは見当たらなかったので接近を試みたが周囲に入り口のようなものは見当たらない。そもそもタワーと呼ばれているものの、これが塔なのかただの柱なのか判然としないところだ。 そこでケリアンが最近覚えた Legend Lore の呪文を使ってみたところ、以下のような光景を幻視した。 それは今では殆ど覚えている者もいない太古の時代。 ケリアンは宇宙から足元の惑星ゴラリオンを見下ろしている。 今、ゴラリオンは大きな危機を迎えていた。大陸にも匹敵するあまりにも巨大な怪物がゴラリオンを滅ぼそうとしているのだ。 その時頭が光り輝く炎で出来た女性が現れ、手にしたシミターで怪物を打ち据えた。 その一撃は途方もない威力で、怪物を木端微塵に打ち砕いたばかりか、その余波でゴラリオンも半ば砕いてしまった。 次に赤い顔をした魔術師らしい男が現れ、きわめて強力な呪文を唱えると、打ち砕かれながらも再生しようとしていた怪物をゴラリオンの奥深くに封じ込めた。 しかし、半壊したゴラリオンでは封印を破ろうとする怪物の力に耐えられそうにない。 そこに美しい男性が現れ、無数の黒い杭を生み出すとそれでひび割れたゴラリオンを縫い留め、ようやく怪物を封じることに成功したのだ。 その杭はどこか目の前のスタータワーに似ていた気がした。 そこでケリアンは目を覚ました。おそらく最後の美しい男性が、まだドウ=ブラルと呼ばれていた頃のゾン=クーソンであろう。炎の女神はおそらくはサーレンレイ、魔術師はネサスであろうか。なんにせよ神代の恐るべき真実を垣間見たのは確かだった。 ケリアンは今見たものを仲間に説明しようとしたが、それができない事に気が付いた。幻視した光景はまざまざと目に浮かぶのに、どうしてもそれを言葉にできないのである。直感的にこれが神々の秘密に属する情報だから言葉にできないのだと思うものの、であれば今度はそれほどの秘密を一介の神官にすぎぬ自分が幻視出来た事が不思議に思える。   しかし、考え込んでいる暇はなかった。 スタータワーの方から無数の怪物が溢れだし、こちらにやって来たのだ。それはアウガーと呼ばれる、下級のキュトンの群れであった。 幸い遠巻きにこちらを見ているだけで襲ってくる様子がないので様子を見ていると、今度は別のキュトンがテレポートして現れた。なんだか無数の破片が体に突き刺さった見るも恐ろしげな怪物である。 しかし、身構えるOotRMに対してそのキュトンは敵意を見せず、「お前達はこのタワーの守護者になるために来たのか?」と問いかけてきた。 一行が正直に違うと答えると、キュトンはさほど残念そうな様子も見せず「そうか、まだその時が来ていないのだな。だがいずれお前たちはこのタワーの試練に挑む定めだ。そう予言されている」と不思議な事を言う。 通常、キュトンは極めて邪悪なフィーンドではあるのだが、このキュトンはそれ程敵意がないようなので少し話を聞いてみることにした。 それによると、この怪物は主に命じられてこのタワーを守っているが、本来ならばタワーのメンテナンスを兼ねた守護者が別に必要らしい。守護者がいないとタワーが周囲の影響を受けて変質してしまうのだそうだ。と言ってもこのタワーには既に数百年ほど守護者不在なのだが、その程度では大した影響は出ないらしい。 守護者になるにはこのタワーの中に入り、いくつもの試練を乗り越えて塔の天辺に辿り着く必要があるのだそうだ。そこに辿り着いたものはズオ=クーソンから直接強大な力を授けられ、守護者となるらしい。 その力がデーモンの手に渡るのではと危惧したサールディンが聞いてみたところ、大抵のデーモンならこのキュトンが倒してしまうし、このタワーは極めて強力な魔法で作られているので、ワールドウーンズから漏れ出すアビスの力程度ではほとんど影響を受けないらしい。一応は安心できると言う事か。   キュトンから話を聞いた一行は、スタータワーは気にはなるものの今すぐ挑むようなものではないと判断して、再びドレゼンへ帰還したのだった。   !女王の密命 さて、その後はドレゼンで大人しく作戦開始を待っていたOotRMの一行だったが、気が付くと見たことがない部屋にいた。部屋にはガルフリー女王が待っており、きけばこの部屋はドレゼンはおろかメンデヴにすらなく、はるか南方のラストウォールという国にあるらしい。 女王の説明では、彼女はここ最近はこの国でジャガリーが発見したレキシコン・オブ・パラドクスを解読していたのだという。 レキシコン・オブ・パラドクスと言えば、かつて魔女エイリールがデスカリと接触し、ワールドウーンズを開く切っ掛けとなったとされる書である。その書を解読することで逆にワールドウーンズを完全に閉じる手段の手がかりを得られるのではないか?女王はそう考えたのだ。 この考えは功を奏し、実際に次元の裂け目を閉じる儀式について記されていた。まだ解読は完全ではなくワールドウーンズのような大規模な裂け目を閉じるのは無理だが、小規模な割れ目であれば閉じることができる儀式について判明したとの事。 女王の読みでは The Fane にはアビスにつながる裂け目があり、これを閉じないとまたすぐに敵に奪い返されてしまうので、今回判明した儀式を使ってこれを閉じるつもりだと言う。これにより儀式の有効性も検証できて一石二鳥だ。   しかし、話はそれで終わりではなかった。「皆さんにはさらに過酷な使命を果たしてもらわねばなりません」、女王はこの上なく真剣な表情でそう告げた。 その使命とはナインドリアン・クリスタルを産出するアビスの階層を治めるデーモンロード、ノクティキュラとデスカリの同盟を阻むこと、そしてバフォメットの娘であるヘプツァミラが行っているらしい、デスカリ軍によるナインドリアン・クリスタルの採掘をストップさせる事である。 なんとも無茶な使命である。そもそもデーモンロードとの取引など定命のものに良くなせることではない。不遜の代償としてあっさりすり潰されるか、良いように操られて何もかも失った上に最悪の事態を招くのが落ちだろう。 しかし、それでも何とかして達成しなければならないのだ。現在は人間側が押しているように見える戦況も、実のところ危うい綱渡り状態の連続だ。万が一にもデスカリとノクティキュラが全面的に協力体制を取り、ナインドリアン・エリクサーが大量供給されるようなことがあれば、もはや何者にも滅びをとどめることはできまい。 勝算もないわけではない。基本的にデーモンロード同士というのは権力を奪い合う最大の敵同士でもあるのだ。デスカリが十分な対価を支払わずにナインドリアン・クリスタルを使っているのであれば、ノクティキュラは決して許さないだろう。 また、この重要かつ困難な任務にまだ経験の浅いOotRMが抜擢されたのには訳があった。 1つはメンバーの大半がティーフリングであるため、アビスにいても不自然ではないことだ。 そして、より大きな理由なのが、ワードストーンと一体化している彼らは、ほとんどの占術に対して完全な耐性を持つことがある。 Detect系の呪文で属性を見抜くことも、Divination系の呪文で正体を探る事も、Scry系の呪文で居場所を探る事も出来ないのだ。敵地に潜入するにあたってこれ程有利な特性があるだろうか。   女王の説明を受けたOotRMは迷わず任務を拝命した。ナインドリアン・エリクサーで強化された敵と何度も戦ってきた彼らほど、エリクサーの危険性を感じている者は他になかった。 女王は彼らの勇気に深く感謝するとともに、アビスでの活動資金として多数の財宝を与え、まずはノクティキュラの住むアビスの一大歓楽都市アルシニッラを目指すよう助言した。 また、特に厳しい選択を迫られることになると思われるサールディンにはタリスマン・オブ・ピュア・フェイスを与え、いざという時の指針とするよう命じた。   !ミッドナイト・フェイン殲滅作戦 さて、今後の指示が終わったところで、いよいよ The Fane の攻略開始である。 どうやって The Fane に行くのかと思っていると、女王が Miracle を唱え、一瞬にして一行を The Fane の目前へと運んだ。 多少の補助呪文をかけたところで、堂々と正面から乗り込んでいく。まあ、パラディンに隠密行動とか土台無理な話だ。   正面の扉を開けると、左手の方から何やら体中が醜い炎症と腫瘍で覆われた巨人達が4体ほど駆けつけてくる。 ワールドウーンズでしばしば見られる奇形の巨人、アッシュジャイアントだ。 巨人たちはバーバリアンだったらしく全員が激怒して襲い掛かってきたが、ケリアンの Calm Emotion のせいで激怒が解けて一気に弱体化。 これは楽勝かと思いきや、右手にあった超巨大なバフォメット像が動き出して襲ってきた。どうやらゴーレムだったらしい。 ゴーレムはかなり手強く、迎え撃った女王は負けることはないにせよ、意外と苦戦している。 更に右手奥の扉を開けて出て来たインキュバス8体が参戦。テレポートで後衛に突入して撹乱を狙ってきたため、一気に混戦模様に。 しかし、ペンテシレイアの Holy Smite とラオツェンの弓により次々とインキュバスが倒れると抵抗もそこまで。 ゴーレムは女王により粉砕され、残った巨人たちも程なく駆逐されたのだった。   インキュバスたちが出て来た扉の奥に向かうと、そこはアルケミスト・ラボのような場所だった。 先ほどの戦いから逃げ出したインキュバスと、一人のカンビオンがいる。カンビオンの方が上司らしくインキュバスが侵入者発見の報告をしているようだ。 一応、サールディンが降伏勧告すると、意外なことにカンビオンはあっさり降伏した。自分はナインドリアン・クリスタルの研究者で色々と教えられる、と自分を売り込んできた。その代わり奥に気に入らない奴がいるので始末してほしいと交換条件まで出してくるほどだ。 しかしその態度は不真面目で明らかに嘘と見受けられたため、結局戦闘に突入する。 このカンビオンはアルケミストだったらしく、酸の爆発を引き起こす爆弾を投げてすさまじい大ダメージを叩き出してくる。しかも爆発した爆弾からは蛇が現れて噛み付いてくるおまけつきだ。よく見ると髪がたなびいている。なるほど納得だ。 しかし、流石に多勢に無勢、みんなで囲んで集中攻撃すれば楽勝、と思いきや、研究室の奥から一人の人間の女性が出てきた。彼女は自らをヤニエルと名乗り、人間に絶望したので悪魔に鞍替えしたとかなんとか言ってくる。ヤニエルと言えばかつて将来を嘱望されたパラディンであったが、人間同士の疑心暗鬼や告発合戦に嫌気がさし、単身ワールドウーンズに突入したという有名な人物ではないか。こんな処でアンチパラディンになっていたとは。いや待て、単なる騙りという可能性もある。   とりあえず自称ヤニエルをオーディーの Wall of Force で閉じ込めてカンビオンから倒そうとすると Teleport であっさりと突破してくる。やはり怪しい。 メイプルが Dispel Magic をかけると、案の定変身が解け正体が現れる。その正体に驚愕するOotRM。なんとその正体はかつて「赤い朝の大虐殺」を引き起こし、つい先日のストラスタでは単騎でOotRMを壊滅寸前にまで追い込んだ伝説の悪魔、ミナーグォだったのである。 しかし、ミナーグォはドレゼンやストラスタでの失態のせいでバフォメットの不興をかったらしく、ストラスタで戦った時よりは遥かに弱体化していた。OotRMだけならばともかくガルフリー女王も相手にするのはさすがに荷が重い。ミナーグォはしばらく女王と戦った後、やはりかなわじと見て取って逃げていった。 カンビオンの方は逃げる手段がなかったのか最後まで戦い、一時は女王を昏倒させるほど善戦したのだが、結局数の力に負けた   ミナーグォが出て来た部屋を調べると、何やら干からびた女性の死体がある。おそらくは本物のヤニエルであろう。 良く調べてみると彼女は死んでいるわけではなく、リリトゥ・デーモンの特殊な呪いの力で仮死状態に置かれているらしい。 こうしておくと、リリトゥ・デーモンは犠牲者そっくりに化けたり、いざという時は犠牲者の体を身代りにしたりできるのだそうだ。 ケリアンが Remove Curse をかけると見事に呪いの解除に成功し、女性は見る間に息を吹き返した。 彼女の話を聞いたところ、彼女はやはりヤニエル本人であった。デーモンに敗れ、気が付くとここにいたと言う。 彼女は長い間呪いにとらわれていたせいで衰弱しており、既に戦う力は残ってないと言うので、The Fane 殲滅後に女王が連れ帰る事となった。 その代わり、せめてもの助けと言う事でサールディンが身に着けていた Armor of Pious の真の力を引き出してくれた。 実は Armor of Pious はもともとヤニエルのものだったのだ。おそらく彼女が倒された時に奪われ、ドレゼンにしまわれていたのであろう。ジェンダーフリーなデザインだったと見える。 彼女のおかげで力を取り戻した Armor of Pious はこれまでより一層神々しい神聖な輝きを放つようになった。これからアビスに行く、という事はこの際考えまい。   周辺の捜索をしつつ進んでいくと、再び広場に出た。 広場の中央には何やら砕かれた石が散らばる台があり、その向こうには先ほど出会ったアッシュジャイアントが2体、肉で出来た風船のような奇妙な体に矮小な手足が生えている気味の悪い怪物ジバリング・デーモン、下半身が巨大な蛇の尾になった女性型の人怪ラミア・メイトリアークがいた。 そして、何よりも目を引くのは部屋を横切る紫ががった境界線だ。境界線と言っても何か実際に壁のようなものがあるわけではないのだが、直感的にそこから先はこの世ではないと分かるのだ。間違いない。ここがアビスに通じる裂け目であり、この怪物たちはその守護者たちだ。 女王を目にした怪物たちは明らかに怯んでいるが引く気はないようだ。戦いが始まる。 ジバリング・デーモンは Wave of Fatigue を使って前衛陣を疲労状態にしたぐらいですぐに退場したものの、ボスらしきラミアが強い。最初に使った Divine Power はメイプルがディスペルしたものの、そんなものなくとも強烈な攻撃力を誇り、わずか1フルアタックにしてシロップを葬り去る。 更にラミアの背後に回り込もうとペンテシレイアが境界線を越えたのをトリガーとして、裂け目よりナルフェシネー・デーモンが姿を現す。 ''"境界を守るもの"リバヘニエ''と名乗ったそいつは通常の倍はある黒光りする牙を備えており、明らかに普通のナルフェシネーではない。こいつもまたナインドリアン・エリクサーを飲んでいるだろうのか。 戦いは熾烈を極めた。 ラミアはラオツェンやサールディンの攻撃により程なく倒れたが、ナルフェシネーが連続で放つアンホーリー・ニンバスが猛威を振るう。 これによりラオツェンやペンテシレイア、再召喚されたシロップ、そして何より最大の戦力である女王ガルフリーがデイズしてしまう。更にオーディーまでもが Feeble Mind で無力化される。 サールディンは持ち前の高セーブで何とか耐え抜いたが、一人で立ち向かうのは難しい。 しかし、ケリアンの Heal で回復した女王が Mass Heal を使って全員を回復した事で形勢は再度逆転し、リバヘニエは奈落の底へと叩き返されたのだった。   !ミナーグォの最期 残敵を完全に掃討し、いよいよ裂け目封印の儀式に挑むことにする。 儀式では物質界側とアビス側に別れ、1名がレキシコン・オブ・パラドクスのページを持って儀式を行い、最後に Dispel などの解呪系の呪文をかけて裂け目を打ち消すらしい。 今回の儀式ではこの後アビスでの任務が待つOotRMが当然アビス側担当、女王ガルフリーが物質界側担当だ。 儀式が始まると裂け目はまるで閉じられるのに抵抗するかのように鳴動し、恐ろしく極力な雷鳴を放出したりと非常に困難ではあったが、何とかして儀式をやり遂げることに成功した。 今や一緒に儀式していた女王の姿は見えない。そこには紫色のクリスタルが何本も突き出た洞窟の壁があるだけだ。無論、この壁の向こうにさっきまでいた部屋があるわけでもない。ここはもうアビスなのだ。   紫色のクリスタルは幸いナインドリアン・クリスタルではなかったが、あまり良い気配は感じないので、早々にここを辞することにする。奥に進むとベビリスなどアビスのクリーチャーが徘徊しており、アビスに来たことを実感する。 それらを倒しつつ進むと、地面に解けたクリスタル?とでも形容すべき代物が溜まっている。強いて言えばクリスタルの溶岩とでも言おうか。ゴボゴボと沸騰しておりそこから湧き出す紫色のガスには強い毒性があるようだ。 口元をふさぎながらソロソロと通ろうとすると、その溶岩?の中から1体のクリスタル・ウーズが這い出して来る。武器の効果が極めて薄いのと、怪しげな音を発してこちらを朦朧とさせるのが厄介だが、まあ1匹だけだし何とかなるだろう。 と思っていたら予想外の闖入者が。なんとミナーグォがテレポートして現れたのだ。 「ふはは、ここまではガルフリーもついては来ていないようだな。お前達には何度も煮え湯を飲まされ、おかげでバフォメット様の不興を買ってしまったが、ここでお前たちを皆殺しにすれば再びバフォメット様の覚えもめでたくなるに違いない」 伝説的な悪魔にしてはそこはかとなく情けない事を言っている気もするが、実際大ピンチだ。奴の言う通り、今はガルフリー女王の力を頼ることはできないし、カンビオンやナルフェシネーとの戦いでかなり消耗してしまっている。唯一の救いはミナーグォがストラスタで戦った時よりも大幅に弱体化している事のみ。 とは言え、ここでミナーグォにやられるのはもちろんのこと、先ほどのように逃がしただけでも今後の計画に大きな支障が出る。なんとしてもこの場で倒してしまわなければならない。 ケリアンが気合で放った Dimensional Anchor がミナーグォの呪文抵抗を打ち破って瞬間移動を封じ、更にオーディーの張った Wall of Force がミナーグォの退路を断つ。怒りをあらわにするミナーグォだが、その表情にはわずかに焦りも見える。それに勇気づけられた一行はミナーグォに猛攻撃を加え、遂にその呪われた生に終止符を打つことに成功したのだった。 一行は一息つくと少しでもミナーグォの復活の可能性を下げるために死体をクリスタル溶岩の中に放り込むと洞窟を後にした。余談だがこのミナーグォの死体をクリスタル・ウーズが食ったため、以降この洞窟ではミナーグォと同じ姿をしたクリスタル・ウーズが出没するようになったと言う。   一行が洞窟を出て周りを調べたところ、あたりは見渡す限りのジャングルで、少し行ったところに建物らしきものが見えた。外は月夜だったが、この階層は常に夜なので、月が出ている現在は昼にあたるらしい。 ともかく他に当てもないので建物の方に行ってみることにする。建物は既に半ば崩れていたが、残っている部分に多数のノクティキュラ像があった事からノクティキュラの神殿か何かの跡と思われた。 先ほどの洞窟よりはマシだろうという事でここでキャンプして体力を回復させた。   !アルシニッラと思わぬ再会 翌日、Find the Path と Wind Walk の呪文を使ってアルシニッラに向かう。特に道中で問題は起きず、無事にアルシニッラに到着した。その巨大さは圧倒的で、ケナブレスやネロシャンなど比べものにもならない。 とりあえず観光客向けっぽい区画に降り立つと、やはりデーモンが多いもののティーフリングのような人型種族もかなりの数が歩いており、よほど変な事をしない限りは目立たないで済みそうだ。 そうやってお上りさんよろしく周りをキョロキョロと見回していると、一行に声をかけてくるものがいた。驚いた事にその人物はケリアンの師匠で自称サーレンレイのクレリックのクラーダであった。何故こんなところに?と聞くと、いや、ここに住んでるから、としれっと答える。本当に怪しい人物だ。 まあ、彼女の本当の目的は分からないが、とりあえずある程度は信頼できる。一行は彼女に「比較的」安全な宿を紹介してもらい、そこで彼女の話を聞くことにした。 まず、クラーダが今まで何をしていたか聞いてみると、例のアポナビシャスの襲撃時、クラーダは戦えない村人たちを逃がしていたらしい。彼らをとりあえずは安全な処まで連れて行った後はフラフラしていたとかであまりはっきりは教えてくれなかった。 次に自分たちがノクティキュラに面会したいことを伝えて助言を求めると、この街で有名になればいずれノクティキュラの目に止まるだろうという事だった。 有名になる方法は色々あるが、街中で大きな騒ぎを起こすとマズい奴に目をつけられる可能性があるらしい。 エレクシアというサキュバスがこの街最大のエンターテイメント施設を運営しているので、そこで芸を見せるとか何t化してエレクシアに気に入られるのが近道かもしれない。 また、Divine Squares of Mystery を見せてクラーダやケリアンの正体についても尋ねてみたが、ケリアンの正体はみなと同じことしか知らないとの答えで、自分の正体については見事ノクティキュラに遭えたらご褒美に教えてやると言われた。 更にラオツェンは思い切って秘密にしていた悪夢の内容を告げ、アンヒザールという悪魔について何か知らないか聞いてみたが、これも知らないとの答えだった。 最後に自称とは言えサーレンレイのクレリックなのだからと、サルコリアが興った時にサーレンレイがどう関わっていたのか伝わっていないか聞いてみたところ、サーレンレイは太古からサルコリアの地を特別に守護しているのだという。 メイプルをはじめとしたゴッドコーラーの呼び出す神獣の正体はサーレンレイの使いであり、これがサルコリア土着の信仰と混ざって今のような形になったらしい。シロップはサーレンレイの権能のうち治癒を司っており、トンバースはおそらく栄光、他に火と太陽を司る神獣がいるはずだと言う事だった。 じゃあ、ノクティキュラに会えるよう頑張ってみな、これも社会勉強だよ。力押しばかりでは上手くいかないことも社会に出ればいろいろあるからね、と言ってクラーダは去っていった。   その翌日アルシニッラについて調査したところ、このアルシニッラは歓楽都市として街中での暴力行為はあまり歓迎されないらしい(発生しないというわけでは勿論ない)。とは言えデーモンの性として血と暴力を好むのは当然なので、バトルブリスという戦いを見せものにしているエリアがあり、ここは大層にぎわっているようだ。 残念ながらOotRMには平和的なエンターテイメントを提供できる人材はいないので、やっぱりバトルブリスで腕力勝負になるのかな、という雰囲気になった。しかし、バトルブリスのチャンピオンは腕が4本生えていて翼が明らかに不自然にたなびいているインキュバスだったので、あれと戦うのはやめておこうという雰囲気にもなった。   !次回予告 アビスの巨大都市アルシニッラで、我らがOotRMは見事に名声を勝ち取れるのか?むしろメンデヴでの評判より高評価を得ちゃったりするのか? そしてノクティキュラとの面会は果たして無事に済むのか?色々と大事なものを失っちゃったりする予感に怯えつつ次回に続く。