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第5回セッションログ

要約

ホワイトスローンそばの漁村に到達したPC達は、ナージャの叔父リンゲールを救出した。
リンゲールの情報によると、ホワイトスローンに侵入するにはハウリング地区にいる偽造職人
モールティンの力を借りて傭兵であるスティルヤギに偽装して侵入するのが良いことが分かった。

次回以降の予定

ホワイトスローンのハウリング地区への侵入と、モールティンとのコンタクト。


新しい設定

リンゲール:ナージャの叔父、ホワイトスローン侵入法に詳しい
モールティン:ハウリング地区に住む偽造職人
スティルヤギ:傭兵の種類、通常、ホワイトスローンに住む貴族に雇われている

無駄に長いログ


1

アールは夢を見ていた。霧ーー温度を感じなかったので、もしかしたら雪も降っていたかもしれないーーの中を歩いていた。すぐにここが夢であることに気がついたが、醒めることを拒絶した。過酷な旅が続きせめて夢ぐらい楽しませて欲しかった。ふと、昔どこかのウィザードが、夢の中で強く願うとその夢の中で願いが実現し、さらに現実世界でもそれが叶う、と語っていたことを思い出し、「ああ……お嬢様……」と妄想を巡らそうとしたのだが遅かった。

目の前から、老婆がゆっくりと結像し、アールに語りかけてきた。
「遅れているのでは……?ちゃんとやるんだよ……」

アールは目覚めることにした。こんな夢を見続けるならば、さっさと起きてしまったほうがマシだ。
眼を開くと、朝焼けが眩しかった。空気は澄んでおり、
しかし、体が重く、疲れは取れていなかった。もっと寝ていたかった。「畜生、魔女の婆さんの呪いか」と呟くと、隣で寝ていたお嬢様は眼を擦りながらこたえてくれた「あら……良い天気じゃない」。が、首を振りながら、夢の内容を説明するのだった。



アールは呪われてしまったが、ナージャの叔父がいる漁村に、引いては目的地であるホワイトスローンへ行く旅をとめるわけにはいかない。「まあ……アールには我慢してもらうことにしよう」誰かが呟いた。アールはそれを咎める気にもならなかった。

2


ナージャは手綱を操作し、犬橇を走らせた。が、何時間走らせても周囲は白い平原で、所々に見える森がアクセントを付けているだけの単調な光景が続いていた。他の仲間達は、ぼんやりとした眼をしていたが……まあ、ただ彼女らもやるときになればやってくれることは、これまでの冒険で十分に分かっているので良しとしよう。そして、子供たちは肩を寄せ合い小声で歌っていたので、安心することにした。

日が沈もうとしている中、単調な白い平原の中に、ひとつの黒い点があらわれた。その黒い点は、段々と街の形となっていった。この街は住人がいなく、完全に廃墟となっていたが、この日はここでキャンプすることに決めた。屋外生活に慣れていても、そして廃墟とはいえ、屋根がある場所で休めるのは良いことだ。

このうち捨てられた街を探索すると、中心部にはデスナの神殿跡があった。ナージャはデスナを邪教と思っていたのだが、どうも、この国の外では、デスナは幸運と旅と自由の象徴として、行動に強い制約を受けずに力を求める冒険者に大人気の宗教らしい。ナスが精査した結果、10年以上前に「何者」かに襲撃された形跡があるようだった。ナージャはどのようなことが起きていたのか、何となく分かったが、伏せておくことにした。不用意に脅かしても仕方あるまい……この国では良くあることだ。

夜営地を神殿跡に決め、この日は終わった。



この日は終わらなかった。深夜遠くから「生贄なんて嫌だよう」という子供の声が聞こえた。
嫌だよう、嫌だよう、嫌だよ、嫌だいやだいやだイヤイヤイヤイイイ

気がついたら、飛び起きていた。ボロボロのローブを被った骸骨ヒューキュバが突進してきた。
夢なのか現実なのか、脳裏には一つのヴィジョンが飛び込んできた。

場所は同じ神殿跡……いや、跡ではなく、壁はきれいで、庭は丁寧に管理されている。そこは神殿だった。同じ子供の叫び声が響いていた。「生贄なんて嫌だよう」
生贄生贄いけにえいけにイケニイケニイケイケイイイイイイイ

脳裏のイメージは続いていた。毛皮が特徴的な甲冑を着込んだ冬の軍団が、松明で建物に火を着けていた。デスナの神官が必死に押しとどめようとしていたが、軍団員は冷酷に「邪教の処理」を続けていた。
「生贄用に子供を回収しろー」「他は皆殺しだー」、軍団員は叫びながら、グレートソードで、高位の神官を貫こうとした時、神官は突然消えてしまった。

現実に引き戻されると、目の前にはヒューキュバがいた。よく見るとローブはDesna神官のものだった。ヒューキュバは恐怖ではなく、疫病も撒き散らしていた。子供たちを奥に逃がしながら必死でアックスとピックを振るった。私の娘だって生に……、私の娘だって、娘、むすめムスメムスムムムム

叫びながら振るうしかなかった。眠っていた仲間達も起き上がり、気がついたら既に撃退していた。

再度脳裏に映像が湧き上がった。ここは、神殿の中のようだ。先ほどのイメージで突然消えた神官が再度現れ、周囲の信者に語りかけていた。「せめて宝物を隠し倉庫にいれよう、これがデスナ様の信仰者の手に渡りますように。私が食い止めている間に、作業を進めてくれ」。そして、彼はまだ神殿の外に走っていった。「我々の旅に、自由と幸運とデスナ様の導きあれ」

翌日、隠し倉庫を探索しデスナ神殿の遺産を入手した。彼らの遺志に完全には合致していないが、許してくれ、と言うしかない。


3

雪原の中を進む犬橇の旅は続いていた。スプートニカは、代わり映えしない光景に飽きてきたので、眼を開けながら寝ることにした。どうせ、私は周囲の監視役として期待されていない。ありがとう、私の60ftしか見えない眼。

気がついたら、日は沈みかけており、今日は野宿をすることに決まったようだ。
野宿の準備は意外と面倒なので、いつものように適当に手を抜くことにする。ありがとう、私の小さな体、誰も私に肉体労働を期待していない。

スプートニカがいつもの様に木陰で適当にサボっていると、野営地がざわついているのに気がついた。お仕事の時間のようだ。

野営地に戻ると、いつも冷静なナージャが慌てていた。ナージャの子供の一人、オームが行方不明になっているようだ。下がりはじめている気温が、より低く感じる。
ひとまず「皆一緒に」探索を開始した。夜の帳が下りた今、少人数で行動することは死を意味する。時間は非情にも早く進み……スプートニカは時間を操作できない自分の弱い力を呪っていた。もっと呪われていれば自分の力は強くなったのだろうか。ナス主体で探索しているが、オームを見つけることはできなかった。
繰り返すが、少人数で行動することは死を意味する……オームについても言うまでも無い。
ここは、そろそろちゃんとお仕事をする時間だろう。スプートニカは仕事をすることにした……最も主体的に働いたのは騎乗していた犬のセミョーリカだ。

セミョーリカとナスが主体的に探索を行い、他がサポートに回り、結局3人ずつで分かれた。
少人数で行動することは死を意味するが、これがギリギリの人数だ。

探索を続けると、いつも無表情無反応無感動のセミョーリカが何かを見つけた。何かを見つけていてくれ……と期待しながらついていくと、そこにあったのは、よく分からない棒切れだった。ダイアナの師匠(と彼女は主張しているが、ただの猫であり、その声は他の人には聞くことができない。かわいそうに……)曰く、その棒は何らかの香料の原料らしい。キリシッカが諦めたように、その棒切れを遠くに投げ、探索を続けた。

セミョーリカが再び何かを見つけた。期待せずについていくと、大樹を数体のオオカミが囲んでおり、大樹の根元にはオームが震えていた。オオカミはポーラネルウルフだった。極圏で生息しており、寒冷環境に慣れている。こちらが大声で叫ぶと、襲ってきたが、我々の敵ではなかった。

オームは衰弱しきっており……おそらくあと数十分しか持たなかっただろう。ギリギリの所だった。確認した所「お母さんの手伝いをしたかった」だけで、特に精神攻撃等々では無かったようだ。

野営地点に戻ると、ナージャは喜び雪煙を上げながらこちらに駆け寄ってきた。
スプートニカは思った「私ってヤレヤレ系主人公?」。


4


翌日は何も無かった。キリシッカは犬橇に乗りながら素振りを続けた。日々鍛錬、鍛錬。
通常鍛錬コースが3順目に入った頃、村が見えてきた。幸運なことに、この村、エリスプリン村は戦場の匂いがする。村から離れた家から火の手が上がっていた。
そろそろ鍛錬ばかりで飽きてきた所だ。戦闘戦闘戦闘。

家に急ぐと、戸口の前で人が倒れており、雪が赤く染まっていた。
が、周囲に敵影は無い。明らかに罠な気がするが、ここはこのパーティーの剣であり盾であり鎧であり銃でありそして拳である私が行くしかない。

気力を集中させながら家に近づくと家の影から小人が飛び出してきた。そして私を細い剣で一突し、高速で離脱していく。動きが早く眼で追うことしかできない。
さらに、小さな棘を身にまとった妖精も突如としてあらわれた、と思ったらすぐに消えて別の場所にあらわれた。空間移動系か……面倒な相手だ。

後ろから「クイックリングとツイッグジャックだ」という声が聞こえる。なあに、私にとっては敵1、敵2だ。

再びクイックリング−−剣を持っているほうだ−−があらわれ、キリシッカを一突きした。
刃は袖を掠め布を切り裂いた、良い腕だが、防御が甘い。突きのタイミングにあわせて、拳を叩き込む。

動きを止めた隙にダイアナが魔法を放ち、クイックリングに光沢がある粉末をばらまき盲目にした。これで安心して料理できる。
組み付いて無力化した。

しかし、キリシッカが遊んでいるあいだ、ツィッグジャックが後衛を襲っていた。爆発して、針を巻き散らかしている。「セミョーリカが……」スプートニカが叫んでいた。そうか、犬はもうついて来れなくなったのか。

残念なことにツィッグジャックは後ろで処理されてしまった。
処理後、キリシッカが拘束していたクイックリングが暴れる音が森林にこだましついたが、何度か絞めると動かなくなった。勿論気絶状態に留めておいたのは言うまでもない。

戦闘音が静まると、小屋に隠れていた一人の女性が飛び出してきて、戸口前で倒れていた男の前で泣き出した。我々は、女性を落ち着かせ小屋の中で事情を聞いた。彼女の名は
マーレット、そして倒れていた男は夫のボルバルドだった。
話を聞くに、彼女は今回の襲撃の事情が分かっているようだ。

彼女はかって、サテュロスに攫われて、ハーフFeyの子供ガーレンを産んだ。
ガーレンは成長するにつれて周囲の人間から苛められて、人間に恨みを持ち出て行ってしまった。その後、マーレットはボルバルドと結婚し子供も無事に生まれた。
しかし、そんなある日、突然ガーレンがこの家に帰ってきた。そう、「帰ってきた」とマーレットは強調した。
ガーレンは「私は帰ってきた、人間どもに復讐してやる」
と宣言して……そしてまた帰っていった。
その後、ガーレンの悪い友達が襲ってきた。あとは、先ほどの通りだ。

マーレットは、悪い妖精に唆されているだけでガーレンは悪くない、と主張していたが、皆乾いた笑顔でマーレットに無言で答えていた。
彼女は、息子ガーレンともう一度話し合いがしたい、他の悪い友達は……唆した裁きを受けてもらうべきだ、と協力を要請した。キリシッカ達は当然要望に応えざるを得なかった。

本気で戦うならば、情報を収集する必要がある。キリシッカは、捕らえたクイックリングから「インタビュー」することに決めた。
クイックリングを叩き起こし、仲間からは見えないように、ゆっくりと締め上げていく。さらに、松明の火でゆっくりと炙っていくと効果的だ。特にヘルベチカには注意する必要がある。彼女は捕虜の虐た……ではなく、尋問のルールに厳しい。ヘルベチカが目をそらしたタイミングで指をへし折る、と同時に強く締め付け悲鳴を抑える。

人道的にインタビューした結果、彼とジャババという別のクイックリングがガーレンを唆しており、村外れの納屋に隠れていることが分かった。

スプートニカは「あー、我々としても努力しますけど、何かの手違いでやっちゃったらすいません」と念を押していた。普段、皆は自分を戦闘狂だと思っているようだが、スプートニカも大概だろう、とキリシッカは思ったが口には出さないことにした。さて、再び戦闘の時間だ。

5


納屋の前で準備をしながらアールは頭を抱えていた。
不味いリソースが足りない……。仲間全体でもこの課題は共有されているはずだが、誰も口にはしない。解決できる問題と、どうしようもない問題があるのだ。
ここは奇襲で短期決戦しかない。

タイミングを合わせて納屋に突入する。そして、即時即決即断、アールは炎を放射した。
炎は壁を伝わり、納屋を燃やしていく。ジャババはそれに飲み込まれて炎の中で倒れてしまった。

納屋の周囲には炎に気がついた村人達が集まってきた。横目でそれを見ながら、
ガーレンの手を持ち「よくやったー君のお陰で納屋の火災を防ぐことができたー」
と叫んだ。ガーレンは眼を白黒しているが……ついでに仲間たちも眼を白黒させているが、強引に話を進める。
「いやージャババが突然やってきて、この村に放火するという情報をこの村出身のガーレン君が教えてくれて、それを阻止することができた、いやー良かった良かった」。同時に、ガーレンに低い声で「分かっているな……分かっているな……?」と脅し続けた。

やってきた村人の一人が「ああ、お前は昔この村にいて、よく遊んでいたガーレンか」
ガーレンは微妙な笑顔でそれに答えていた。話を理解してくれて助かった。
もっとも、スプートニカが濁った眼で「虐めた側は虐めたことをすぐ忘れる、すぐ忘れる」と呟き続けていた。

結局、ガーレンとマーレットは和解し、またガーレンはこの村で暮らすことになった。
彼は村の英雄となり、住み易いことだろう。
また、マーレットはナージャの二人の子供も預かってくれることとなった。


6


エリスプリン村で一泊し、旅を続けた。
いつものように気温は低く、口からの息は白く濁りきっているが、ダイアナはお師匠様であるところのクリストファーを抱きしめていた。猫は人間よりも体温が高い(筆者は最近それを知った)。

道を進むと犬橇で渡れるほど大きな橋があり、その橋桁の上には白光している骸骨が飾ってあった。その骸骨の下には看板が掲げられていた「ようこそみなさん、東からの旅人達よようこそ税金達」。なかなか良いセンスをしている。
お師匠様もニャアと鳴き同意してくれた。

明らかに怪しいけれども、渡ろうとすると、川の中から巨人が3体現れた。
お師匠様曰く所謂水オーガであるメローだそうな。流石お師匠様、詳しい。

メローはいきなり戦闘をするかと思いきや、面倒くさそうにしゃべりかけた「書類を見せろ」。スプートニカが「金で何とかなりませんかね」と説得に走っているが、巨人たちは食事を要求している。スプートニカが携帯食料を出しているが、巨人はフレッシュなスプートニカぐらいの大きさの肉が良いようだ。当然交渉は決裂し戦闘となった。しかし、お師匠様を要求されなくて良かった。

戦闘そのものは、お師匠様の助言「やつらは精神的に弱い」に従い、カラースプレーであっさり片がついた。流石お師匠様。しかし、私がお師匠様と話をしていると、仲間達からは可哀想な人を見る眼で見られる。師匠の力を信じないなんて、なんとかわいそうな人たちなのだろう。

橋を無事に渡り、さらに道を進む。お師匠様も安心してうとうととしている……が、突然眼を見開き、呻り出した。数匹の鷹が、上空を旋回している。

突然アールが「はっ、これはファルコナー……知っているぞ、レンジャーのアーキタイプで云々」と突然天からの啓示を受けたように語りだした。アールはたまに良く分からない情報を知っている。アールが続けるに、「ジャダイ教の騎士の一人が実はファルコナーを取っていて云々。最初からファルコンが振ってくるのが強い」。流石意味不明な情報は強い。

森に隠れるが、空からの偵察から逃れることはできない。すぐに本隊が襲ってくるだろう、という予想の元、森の中で迎え撃つことに決め、準備を整えた。

オッドアイな巨大ウィンターウルフ、ノルグリムと、ファルコナーレンジャー達が雪煙を撒き散らしながら向かってきた。早速煙幕が張られ、視界が遮られた。いつもの乱戦模様だ。
しかし、煙幕を無視してノルグリムはブレスを吐き出した。ファルコンも散発的に攻撃してくる。ひとまずダイアナはカラースプレーで目障りなファルコンを叩き落した。

ダイアナが横をみると、キリシッカにファルコナーからの煙幕を切り裂く矢が降り注いでいた。しかし、彼女はすんでの所で避け、また矢を掴んだ。まだ大丈夫なようだ。

ギリギリの所で戦線を維持していたが、ノルグリムが再度ブレスを吐いた。ダイアナは膝をつき、倒れてしまった。ダイアナは、遠のく意識の中、ヘルベチカの剣がノルグリムの体を貫いていたことを確認した。これで安心だ、後は仲間達が何とかしてくれるだろう。
自らの顔をお師匠様クリストファーに舐められている感触を感じながら段々と意識が遠のいていった。

ダイアナは意識を取り戻した。スプートニカが回復してくれたようだ。その後、隊長であるノルグリムが倒れたことで、生き残ったファルコナー達は逃げてしまったようだ。

ノルグリムを見てナージャは語りだした「そういえば聞いたことがある、オッドアイのウィンターウルフから上手く皮を剥ぐとそれは魔法のアイテムとなる……らしい」。残念ながら、どのようなアイテムとなるのかは覚えていないそうだ。ここは本職であるナージャにお願いをし、皮を剥いでもらうことにした。少し手が震えていたが、こちらでも何とかフォローすることで、無事にアイテムを作成することができた。

できた魔法のアイテム、ライムペルトはウィンターウルフに返信することができるアイテムであり、ひとまずキリシッカが使用することになった。

7


翌日、漁村につくことができた。村全体が魚臭いが、「I'm Providence」と叫ぶ必要は無さそうなことに、スプートニカは安心していた。なんだか一般人が怯えているような気がするが、我々が怯えるよりは数十倍マシだ。さらに、自警団員が集団でやってきて「税金をよこせ」と脅してきたが、金で解決した。金で解決できるのは素晴らしい。

ナージャの情報によると、この村からホワイトスローンまでは半日程度の距離で、彼女の叔父であるリンゲールが住んでいるらしい。ナージャ自身は具体的に彼が住んでいる家がどこかまでは知らないようだ。早い所、彼と合流しようと、彼の情報を集めたが……少し、いやかなり面倒なことが分かった。

かってこの村には、バーバヤガ直属舞台であるアイアンガードが駐屯していたが、最近ホワイトスローンで内紛があり、撤退してしまった。それに代わって首都からやってきたのはマルシャンとその一味であり、彼らが税金、という名前の上納金を集めていた。しかし、リンゲールは反抗的だったので、見せしめとして誘拐されてしまった。

さて……問題なのは……救出することは勿論問題がないのだが「いつ救出するか」だ。残念ながらスプートニカはオラクルでクレリック様ほどの回復リソースは持っていない。そして、本日のリソースはすべて使い切ってしまった。

ヘルベチカは「私個人の意見としては直ちに救出に行くべきだと思う。いつ殺されるか分からないんだし、救出を待っている人がいる以上、我々はそれに応える義務がある。でも、勿論みんなの意見は尊重するし従うよ」と都合の良いことを言っている。御嬢様大好きなアールも勿論それに同意している。一方、現実主義的なダイアナ、キリシッカは明日で良いじゃないかと主張している。

スプートニカは迷っていた。どうしよう……幸か不幸かスプートニカ自身が結論の行方を握っていた。ええと……声を振り絞った、「論点は3つある」。秘儀「とりあえず論点をまとめる振りをして考える時間を稼いでついでに全体の意思を思惑通りに誘導する」呪文だ。
「論点は3つある。『リンゲールの生死とその重要性』『ワルシャンに勝てるかどうか』『失敗した場合のリスクと失敗率』……あれ、そもそもリンゲールって会う必要あったっけ?」

いつもは意見を言わないナージャが突然割り込んできた。「そもそもリンゲールは私の叔父ですよ、可能な限り早く助けてください。彼は昔結婚していて、子供もいたのだが、ウインターウイッチに攫われてしまった。そのため、ホワイトスローンにこっそり入ったり、出たりしていた経験があり、その知識、ノウハウを所有しており、あなた方にとって非常に有益な人間だと思いますよ。これまで移動中に散々説明してきたじやないですか……」
こっそり寝ていたことがバレてしまったようだ。

スプートニカは悩んだ。悩んだが、結論は「休息をとり回復リソースが十分な状態でリンゲール救出に向かう」だった。ヤレヤレ系としては、失敗するリスクを恐れたのだった。

8


翌日、ヘルベチカは結局口には出さなかったものの、十分に休息をとれたことに満足していた。「いやあ、でもパーティ全体の意思に従っただけだから、仕方がない、本当に仕方がない」小声で呟いた。

皆で事前に調べていたマルシャンの拠点に行った。そこは城でも要塞でもなく、普通の民家だった。少し拍子抜けしたのか、奇襲をせずに扉をノックした。
中には巨大なオーガの護衛が2人とマルシャンがいた。
マルシャンは酔っ払った口調で語りかけた。
「お前らは納税か?一人500gpだ、それとも仲間にはいりたいのか?それも良いだろう」

すかさずスプートニクが前に出た「リンギールを開放して頂きたいのですが、お幾らですか?」マルシャンは少し怯んだが、その金額は500gpだった。スプートニクは懐に手をいれ……「うっ2gpしかない……ヘルベチカ、パーティー資金からよろしく」。ヘルベチカは覚悟していなかった方向にすすむ展開に戸惑いながらも500gp払い、リンギールを救出するのだった。

救出したリンギールをナージャに預け、再びマルシャンの根城の前にやってきた。
マルシャンはさらに泥酔しており、口調は朦朧としていた、「今度は何のようだ」。
ヘルベチカは答えた、「今度の目的はお前らだ、ヒャッハー」。

目の前には護衛のオーガが2体、奥にはマルシャン、先に護衛から片付けよう。
ヘルベチカはそのように決め、オーガの前に立った。
この巨人はオーガフックを振り回しており、それをヘルベチカに向けてきた。それに対応し、自らの鎧にフック先端を滑らせ、内側に潜り込もうとしたその瞬間、頭上にフックの持ち手が振り下ろされ……ヘルベチカの記憶は途切れた。


9


キリシッカは焦っていた。
他2名の壁……ヘルベチカは倒れ、ナスは体調不良で休んでいる。
どうも遥かかなた東方のミンカイという国では、体調不良で休むのは甘え、らしいが、ここはミンカイではない、労働基準法が尊守されている良いパーティーだ。

アールは「お嬢、お嬢が……おいたわしや、私がおとめしなかったばかりに」とヘルベチカに近寄っていったが、キリシッカは冷めた表情でそれを見ていた。
この商売、誰もがいつかそのような運命に至る。

ひとまず、ヘルベチカを倒した護衛に向かい、殴りかかる、いつものように殴りかかるが、明らかに軽い。そして視界が濁ってきた。
ようやく涙が出ていたことに気がついた。


10


ダイアナは混乱していた。ただし、この状況を変えられるのは自分だけだということを理解していた。ひとまずグリッターダストを放つが、状況は大きく変わらない。
マルシャンは部屋の奥に隠れ、飛び出しレイピアを振るい、再度部屋に隠れた。
そのタイミングを合わせてウェブを部屋の中に張り巡らせた。

Arlのフレーミングスフィアが護衛のオーガを炙っている。
お師匠様が呟いた、「これは別次元で多用されているSiyabuSiyabuという戦術じゃ」。
状況は打開された。


11

キリシッカは混乱していた。ただ慟哭していたのだが、自身はそれを認識できなかった。
自らの体から気力が消耗し、萎んでいった。
その力が点となった瞬間、身につけていた毛皮から光が降り注いだ。
キリシッカの体は大きく膨らみ、ウィンターウルフとなっていた。
咆哮を轟かせる。

が、しかし戦闘はすでに終結していた。


12


戦闘終結後、
アールが「旦那様に顔向けできません、神さま、この際悪魔でも魔女でも良い、お嬢様をここにもどすことはできないのでしょうか」と叫んでいるのを横目に、ダイアナは部屋の探索を進めた「私達は前に向かって歩く必要がある」呟き続けた。
部屋を探索するが、やはりナスと比べると素人、毒針に引っかかり、
体の皮膚全体が青色に変色してしまった。
おそらく、ヘルベチカの死に対して冷淡だった罰が下ったのだろう。

探索後、ナージャ、リンゲールと合流した。
ヘルベチカの死に対して二人は謝罪していたが、誰も何も言わず、ただキリシッカだけが「冒険者にはよくあることです」と応えた。肩が震えていた。

感傷に浸っていても仕方がない。ダイアナは話を進めることにした。進めざるをえない。ヘルベチカの死を無駄にしたくは無い。
「我々はホワイトスローンに入る必要がある、事情を説明すると危ないので何も言わずに協力してほしい」とリンゲールに依頼した。

リンゲールの解答は冷淡にも「今は時期が悪い」というものだった。

最近、女王エルバナがバーバーガヤに反旗を翻した。
バーバーヤガ直属のアイアンガードはクイーンのウィンターガードに追い払われた。
そして、エルバナは何かを探しているようで、ウィンターガードは街を巡回し探索している。

ダイアナはそれを聞き応えた「それは私達が探しているものと同じです」。

ならば……リンゲールは続けた。ホワイトスローンは城壁に囲まれているため、侵入は困難だ。さらに、入った後、中は監視が厳しく、身分証明が必要だろう。さらに、皆はどこからどうみても外人なので、さらに監視が厳しくなるだろう。
これを打開するために、皆は傭兵としてホワイトスローン内部に入るのが良いだろう。
ホワイトスローン内部には、ジァズウィガと呼ばれるクイーンの直系子孫がいて、彼女達はよく傭兵を雇っている。彼らはスティルヤギと呼ばれている。

ダイアナは遮った「その中に、現政権に反感を持っている人もいるのでは?」。

リンゲールは少し戸惑いながら、注意深く答えた「アイアンガードはどこかで潜伏している可能性がある。また、この国に反旗を翻すレジスタンスがいるという噂を聞いたような気がしないわけではない」


リンゲールは強引に話題を元に戻した。君たちが実際に傭兵として雇われることは難しいだろう。そこで、知り合いに腕が良い偽造職人モールティンに依頼しよう。
彼ならば、魔法刻印がつけられていて偽造が困難なスティルヤギ
身分証明があれば比較的容易に活動することができる。
ただし、街中で必要な身分証明はこれで何とかなるが、城壁の出入りはできないため、そこはがんばるしかない。

ただ……モールティンは、外延部のハウリング地区にいて、そこはウィンターウルフが自治をしているため、比較的入りやすい。そこに入って身分証明を偽造してもらうのが良いだろう。
とはいえ、行くとしても今日は厳しいから明日以降にするべきだ。

ホワイトスローン内部は食糧自給の問題があるので、例えばこの村から良く魚介類を輸送している。というわけで、君たちもその輸送にまぎれて街に侵入することができる。
このあたりの漁師がきるような服は提供しよう。
また、魚のたるの底に武器防具を隠すのだ。



ウィンターウルフの姿になれる魔法の道具がある?ならばそれを使用することで、彼らの信頼を得ることができるだろう。

結局、リンゲールの助言に従うことに決めた。
また、ナージャはこの漁村に住もうとしたが、リンゲールに止められた。少し残念そうだったが、エリスプリン村に身を寄せることに決めた。


13



ヘルベチカは、気がついたら暗闇を歩いていた。
これは話に聞く冥界への通り道なのだろうか。
先に進むと、老婆がおり、語りかけてきた「死んでしまうとは情けない」。

気がつくと、ヘルベチカは復活していた。
あの戦闘から一日が経過していた。

彼女は自分が倒れている間に話が進んでいることを知った。
仲間達は非常に驚き喜んでくれた。良く分からないが良かったと思いつつ、私はキュアで回復できるのかどうか少し心配になった。が、まあすぐに戦闘で分かるだろう。

あとダイアナは自分の皮膚の変色が元に戻ったことにも喜んでいた。まったく薄情だ。

次回につづく




和訳リスト

ホワイトスローン:White Throne
ああデスナ様っ:Desna
ヒューキュバ:Huecuva
ポーラネルウルフ:Polnel Wolf
エリスプリン:Ellsprin
クイックリング:Quickring
ツイッグジャック:Twigjack
マーレット:Maret
ボルバルド:Borvald
ガーレン:Garen
ジャババ:Zabbaba
メロー:Merrow
ジャダイ:Jadi
ノルグリム:Norgrimm
ウィンターウルフ:Winter Wolf
ライムペルト:Rimepelt
リンゲール:Ringeirr
アイアンガード:IronGuard
ジャズウィガ:Jadwiga
スティルヤギ:Stilyagi
モールティン:Mortin
ハウリング:Hauling