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第1回セッションログ

 ヘルドレンの村にて


タルドールの首都から約200マイル―、南の国境近くのヘルドレンの村では近頃不穏な噂が相次いでいた。
夏なのに森に入ると妙に寒いとか、山賊が出るとか、喋る鹿や巨大なイタチを見たとか…。
ダンズバイという農場主が農作物の半分を寒さにやられた上に、もう半分も山賊に持って行かれて激昂して飛び回っているという噂もあって、村の世話役、イオニア・テッペンは憔悴していた。
それもその筈で、レディ・アージェンティアという貴族が国境の要塞都市ジマールまで行く途中、この村を通る際の手筈を任されていたのがイオニアだったのだ。
首都から来た貴族に何かあっては、名折れどころではない―。
だが一行も今朝には村を立ち、イオニアは一つ胸を撫で下ろしていた。こうして昼間から酒を飲んでいたって、今日くらい罰は当たらないだろう。

隊商がやって来たばかりなのか、酒場には旅人の姿もちらほらと見受けられる。
腕の立ちそうなのも何人か―。
イオニアがエールのジョッキ片手に観察していると、外が急に騒がしくなっった。

「襲われたんだ!畜生、なんでこんな所にWinter Touchedが!」
そこには中年の髭の長い男性が血を流しながらへたり込んでいた。
命からがら逃げてきたとでもいう風で、髪も服もぼろぼろになって所々凍りつき、鎧には矢が突き刺さっている。
イオニアは人だかりの奥からその男の姿を見て、一気に血の気が引くのを感じた。
(あの顔は見覚えがある――、レディの護衛の――)


金髪を結い上げた騎士風の少女が、颯爽と現れて男に近付くと傷の手当を始めた。
「どうされたのですか」
「ああ…ありがとよ。俺の名はユルン。レディ・アージェンティアという貴族の護衛をしているんだが、この村の先で襲われたんだ」
「Winter Touchedを…知っているのですか…?」
淡い茶色の髪の少女が人の輪の隅に顔を出すと、ユルンにそう問いかけた。両腕に銀色の猫を抱えている。
「ああ…おれはリノーム・キングダムの出身でな。イリセンの近くならいざ知らず、こんな所で出くわすとは」
ユルンは苦い顔をした。
「雪が降って来たかと思うと、奴らが突然森の中から矢を射掛けて来て、応戦してる隙に山賊共も出て来やがって、レディが攫われちまったんだ!頼む!誰かレディを助けてくれ!」

「私が参りましょう」
ユルンの手当をしていた金髪の少女は頷くと立ち上がった。
「私と共にレディ・アージェンティアを救い、この村を山賊達から守る者はいないか!」
呼びかけに応えて前に前に出るものが数人―、その中には先程の猫を抱えた少女や、酒場にいた旅人も含まれていた。
中でも小柄な、眼鏡をかけた少女が「お金が出るなら行きますけど」と言った時に、イオニアはようやく自分の役目を思い出した。
「お金なら…出します。どうかレディを助けて下さい。村の世話役の私からもお願いします」



 6人の少女


6人の少女達が、街道を歩いていた。
レディ・アージェンティアを救うために名乗りを上げた者達である。


「私の名はヘルベティア・ペペロンチーニ。騎士を目指しています。ヘルベチカと呼んで下さい」
「私はアール?。ヘルベチカお嬢の護衛で一緒に出て来たんだけど、北を目指してたのに何故か南に来ちゃってね〜」
一番最初に助けを募った騎士風の少女と、それに付き従う燃えるような赤髪の少女はそう名乗った。

「あたしはキルシッカ。放浪の格闘家さね」
「私はナス・フーチ?。この辺の猟師だよ。追跡なら任せて」
こちらは体つきの良いハーフオークの女性と、大きな武器を幾つも持った少女である。
「なんかイリセンとか魔女とか聞くと嫌な感じがするんだよね。なんでか分からないんだけど」
ナスの言葉に、アールは少し縮こまった。
(私の実家が魔女なんて言えない…!)
それに気付いたのか気付かずにか、ナスはアールの方に顔を向ける。
「なんか魔女の匂いがするなぁ…?」
「この者の身元は私が保証しよう」
ヘルベチカに言われてそれ以上ナスは追求しなかった。

「…私の名前はダイアナ…です。この子はプラット…じゃなくてお師匠様のクリストファーです。まだ魔法があんまりうまく使えないので足手まといになったらごめんなさい…」
銀色の猫を抱えた淡い茶色の髪の少女はおずおずとそう言った。師匠とはどうやら猫の事のようである。
スプートニカです。目が悪くて足も遅いので守って下さい」
最後にそう主張するのは一際小柄なノームの眼鏡をかけた少女である。足が悪いらしく、村でポニーを借りてそれに乗っている。


「そういえばさっきのWinter Touchedってのはなんだい?」
「Winter Touchedはイリセンでよく見られるFey Creatureで、バーバ・ヤーガが昔この世界に顕現した時に各地で悪さをしたという伝説がある…そう、です」
「そうあなたのお師匠様が言っている?」
「はい……」
ヘルベチカの腰にはFeyに有効だというCold Ironの剣が下がっている。先程ユルンから借り受けた物だ。

不思議な事に、街道を南に進むほどに寒さが増していた。
まだ凍傷の心配をする程ではないが、ダイアナなどは耐えられないのか早々にEndure Elementsをかけている。
襲撃現場に辿り着いた頃には、辺りには雪が降り積もっていた。


襲撃現場には護衛と馬の死体と、馬車が打ち捨てられていた。
叶わないと悟って逃げたユルン以外、護衛は全員が殺されたようだ。
中には氷漬けにされた後手足をもがれた死体などもあって、少女達は顔をこわばらせていた。

「まだ中に生きてる人がいたりしないかな…?」
アールとダイアナが貴婦人用と思われる馬車の中を覗き込む。
「あんたたち、不用意に近付くんじゃないよ!」
キルシッカが戦いに不慣れそうな二人に警告をした時には遅かった。
殺されたメイドの死体が起き上がって、二人に襲い掛かって来たのだ。

キルシッカは咄嗟に、アールの肩を掴むと後ろへと投げ飛ばした。
だがダイアナには間に合わず、死体に襲い掛かられて動く間もなく倒された。
もう一体の死体の攻撃も投げ飛ばした直後のキルシッカの急所に入る。

アールはダイアナが倒れ、自分を庇ったキルシッカも重症を負ったのを見て、悲鳴を上げた。
「イヤーッ!!」
アールの悲鳴と共に、炎の矢がどこからともなく発射され、馬車の幌を焼いた。
キルシッカは倒れ込みそうな所を気力で持ちこたえながら、返す拳で死体を殴り倒した。
もう一体もヘルベチカが剣で排除する。
終って振り向くと、スプートニカがポニーから降りようとして転んで立ち上がった所だった。



 雪の中の追跡


「雪で足跡がくっきり残ってるね。これなら余裕で追跡できそうだよ」
ナスの言う通り、複数の人間の足跡が森の奥へと続いている。
しかしそれを追う少女達の足取りは重かった。
雪が予想以上に降り積もっていて、なかなか思うように進めないのだ。
襲撃現場での戦闘でポニーを逃してしまったスプートニカが特に辛そうにしていた。

「こんなにこっちでも雪は積もるんですか?」
「いえ、こちらでは冬でも降ること自体が稀です」
「夏なのにこんな雪に白い動物なんて…まるで故郷みたいだわ」
森に入ってから、既に白いエリマキトカゲのような動物に襲われている。
そのせいで村を出る前にユルンからもらっていたCureワンドを早くも使いきってしまい、余計に足取りが重いのかもしれないが、その光景はアールに小さい頃いたイリセンを思い起こさせた。
(今度こそ、この騒ぎが終わったら北に行こう―)
アールがそんな事を思っていると、突然矢が視界を横切り、大きな耳鳴りに襲われた。


「あいつらがWinter Touchedか…!?」
木陰から矢を射掛けて出て来たのは、小型の羽根を持った妖精達だった。
「多分そう…だと思いますけど、すみません、詳しい事はよく分からないみたい、です…」
「呪文を使われたわ…。私も使えるから分かる…Ear-Piercing Screamよ」
「……ひどい呪文ですね」
「そうでもないわ」
「くそっ、飛んでるんじゃ拳は無理さね。あんたたち、伏せるんだよ!」

妖精達は木の上を飛んだまま、矢を射掛け、耳の痛くなる叫びを放ってきた。
ヘルベチカやキルシッカは伏せてクロスボウで応戦しようとするが、伏せずにColor Sprayを打ったダイアナやEar-Piercing Screamを連続で食らったアールは倒れてしまう。
しかしそんな中をナスは立っていた。
「こんなこともあろうかと!Cold Ironのジャベリンだよ!」
ナスの投げたジャベリンは見事に命中すると、1体を撃墜した。
残りの妖精達はそれを見ると、報告しなきゃ、と言って逃げて行った。


もうスプートニカのCureもなく、ダイアナなどは帰りたそうにしていたが、レディの命がかかっている。
幸い襲撃者側も疲れたのか途中に馬車のチェストが落ちていて、CureワンドやScrollの補充が出来たので少女達は先へ進んだ。



 噂の正体


更に進むと、今度は白い鹿が少女達へ突進してきた。
ヘルベチカは正面で身構えたが、鹿は何故かEar-Piercing Screamを使うと、ヘルベチカを避けて後方へと攻撃してくる。
鹿は後方警戒に当っていたキルシッカが殴り倒したが、すると
「よくも私のペットを!」
と妖精が姿を現した。

「どうやらこれが喋る鹿の正体のようですね」
「近くならこっちのもんさね」
生憎と出て来た位置が悪く、妖精はキルシッカにつかまれるとナスに斬り倒された。


足跡は凍りついた小川の向こうへと続いていた。
川べりには雪だるまがポツンと立っている。
少女達が近付くと、雪だるまは「ここから先に入るな!」と声を上げた。

「ええと…Detect Magicで見た所、IllusionとEvocationが掛かっているみたいです…」
ダイアナの見立てを聞いて、一体何の仕掛けがしてあるのだろうと少女達は頭を捻ったが、そうこうしている内に
「とりあえずつついてみれば」
とスプートニカが手頃な10ft棒を拾って雪だるまをつつき出した。
「ちょ、ちょっと待った、まだ離れて…!」
皆離れようとしたが時遅く、雪だるまは爆発した。Sound Burstだった。

Sound Burstを食らって数名が朦朧としていると、そっと川の方から忍び寄る影があった。
「アイスエレメンタルです…!」
だがDRはさすがにこちらはまだなく、Cure Wandの回数を削って倒された。


川の反対側には男の死体が転がっており、服にダンズバイと刺繍がしてあった。
そういえばヘルドレンの村で、そんな名前の農場主が農作物を山賊に盗まれたという噂があったが、いったいどうやって罠があり、エレメンタルが守っていたこの川を渡ったのだろうかと皆訝しんだ。



 山賊達のロッジ


森の奥へ行く程に寒さが増し、雪も一段と深く降り積もっていて、少女達は震えながら進んでいた。
そんな中にこちらも凍えながら、三人の山賊の見張りが雪の中に立っていた。
寒さにやられて武器が上手く扱えない見張り達をあっさり無力化すると、話を聞いてみることにする。
「ロ、ローカー様に命令されてやったんだ!もうこんな雪の中は勘弁だから逃してくれ…」
「もう盗みなどはしませんね?」
「あ、ああ勿論だ…」
ヘルベチカと口約束を交わし、見張りは森の外の方へと逃げて行った。


少し進むと、そこには大きくて暖かそうな丸太造りのロッジが建っていた。
「私が偵察に行ってくるね」
ナスはそう言って一人ロッジに近付いた。
が、雪の中に罠が埋まっているのに気付かず、盛大に引っ掛けると、ロッジの中から敵襲だ!と山賊達と妖精も現れ矢を射掛けてきた。

「9人か…。さすがに一度に出て来られるとちと多いかね」
「大丈夫よ!私達に任せて!」
アールとダイアナが前に出てColor Sprayを打つと、山賊達の半分が気絶した。
「これならば後は押し切れます…!」
残りは雪に足を取られながらも接敵したヘルベチカ、キルシッカ、ナスの近接陣が倒す。
妖精はアールとダイアナに執拗に攻撃をしていたが、出て来た山賊達が全員やられたのを見るとどこかへ飛んで行ってしまった。


ロッジの中は暖炉にごうごうと火が燃えていて、暖かかった。
雪の中をずっと歩いて来た後のことだ。暖かさに任せて一息付きたい所だったが、まだ山賊達の首領、クレリックだという噂のローカーが残っている。
少女達は警戒しつつ、ロッジの中を探した。



 


ローカーはロッジの2階にいた。
アンデット二体を従えて扉の前を固め、自分は後ろからChannel Negative Energyで攻撃して来る。
アンデットの攻撃とNegative Energyでヘルベチカが倒れたが、連戦につぐ連戦で、スプートニカのCure Wandは既に尽きていた。
アンデット一体は倒したが、キルシッカも倒れそうな所を気力だけで持ちこたえ、スプートニカも瀕死である。
これは早くローカーを仕留めなければいけないと、アールとダイアナが交互にローカーにDazeを打ち、そしてダイアナのDazeがついにローカーに決まった。
「い、今の内に、倒して下さい…!」
その声にキルシッカは拳をローカーに叩きつけたがあえなく外れ、スプートニカが倒れこむ前の最後の力で投げたAlchemist Fireが命中して着火させるが、続くナスの攻撃も外れ、まだローカーは余裕そうな顔をしていた。
Cureが足りずに傷を回復しきれていなかったアールも既に倒れており、残るはとうに瀕死も超えたキルシッカとナス、そしてダイアナのみ。
アンデットとまだ余力を残したローカー相手に、3人では到底勝ち目のない絶望的な状況だったが、ダイアナは唇を強く引き結ぶと、前へと出た。
「Dimensional Slide!」
温存していた瞬間移動能力で、アンデットをすり抜けてローカーの側へ入り込み、そしてありったけの魔法力を込めてColor Sprayをローカーへ放った。


Color Sprayでローカーが朦朧としている間にアンデットも倒してローカーを縛り上げ、戦利品のPotionを飲んで止血を行い、ようやく少女達は人心地をついた。
幸いレディは無事だったが、アールもヘルベチカも傷が重く、目を覚まさない。
一晩をロッジで過ごして、少女達はやっとの思いでヘルドレンの村へと帰還したのだった。